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呪い

「まだ、治らないのか」


「うん……ごめんね。私、迷惑かけちゃって」


「いや、別にそんなことは無い。けど、流石に長すぎる」


 ジルはクエストに行く前にアメリーの病室へ訪れていた。

 アメリー怪我はかなりの重症だったため、治らないのは仕方がないことなのだが、それにしても全く回復しないのはおかしい。

 本当であれば、もうベットから起き上がれても良いはずなのだ。だが、現状裂傷などが未だに治っていない。


「……」


「アメリー。お前なんか隠してないか? これただの怪我じゃないだろ。なにか、あったんだな?」


 アメリーは初めは何とか隠そうと考えていたみたいだったが、諦めたようにため息を吐いた。

 その時の表情はもう何もかもが終わってしまったかのような悲壮感が漂っていた。


「うん。お兄ちゃんの言う通りだよ」


「……一体何を隠してたんだ?」


「この傷はね、呪いが掛かってるんだ」

 

 呪い。

 それは、アンデット系や悪魔系のモンスターが攻撃する時に使う魔法だ。

 相手に触れることによって体調不良を起こしたり、アメリーのように傷の治りが遅くなったりもする。

 基本的に、実力によってその呪いの効果は大きくなる。アメリーの場合は、傷がほとんど治らないとなるとかなり高位の魔物になる。


「てことは、この怪我が治る保証は無いのか……?」


「うん」


 つまり、最悪アメリーは一生病室の中で暮らすことになるかもしれないということ。

 ジルは愕然とした。今まで自分が何もかもを捨てて人を頼ってばかりいたせいで、取り返しのつかないことになってしまった。

 自分は幸せを盗んでいた。寄生虫だ。人の幸せを少しずつ、知らぬ間に吸い取ってしまい、気付けばその人の幸せはどこにもない。自分だけが努力も苦悩もせずのうのうと生きている。


 自分が今までしてきたことの責任は重い。それを、今更ながら痛感した。


「なあ、アメリーは嫌じゃないのか? このまま病院にいるままって……」


「大丈夫だよ。お兄ちゃんがいれば、私はそれでいいからさ。でも……足を引っ張っちゃうな」


 アメリーは苦笑いをして、寂しそうに笑った。

 妹をこんな不幸な思いをさせて、良かったのだろうか。


「ますます、辞められなくなったな」


 どこぞの誰かが冒険者を辞めろ辞めろと言っていたが、こうなってしまった以上ジルにも呪いを解く義務がある。

 

「お兄ちゃん……?」


「ん?」


「ねぇ、変なこと考えてないよね」


「は? 俺が妹相手にエロいこと考えるやつに見えるのか?」


「ち、違うよ! 別にそういう訳じゃなくて、その……」


 アメリーが何を言いたいのかはなんとなく分かった。

 さっきジルがアメリーの隠し事を暴いたように、アメリーもまた、ジルがなにかを隠しているように見えて、そういう言い方をしたのだろう。


「ま、分かってる。俺が身の丈に合わないことはしない主義だってことは分かってるだろ? だから、無理することは無いから安心しておけよ」


 ジルは、嘘を言っていない。

 元々安全安全を地で行っていたので、明らかな危険に理由も計画もなく飛び込むことはしない。

 ただ、それは理由や計画があれば変わってくる。

 アメリーはその話で安心をしたみたいだが、ジルが話の答えを言っていないことに気付いていなかった。


「うん、分かった。ねぇ、ちょっとこっちに来て」


 ジルは、アメリーに言われた通りベッドな近寄った。

 すると、アメリーが軋む身体を無理やり起こし、ジルに抱きついた。


「うっ……ちょっと、無理しちゃったかな」


「アメリー……お前、何して」


「久しぶりなんだ。家族と触れ合うの。お兄ちゃんはお見舞いの時にしか会えないから。だから、少しでもこうしていたいの」


「でも、体は……」


「心が痛い方が、もっと辛いよ。私、今のまでで1番痛い怪我をしたんだと思うけど、それよりこの部屋で1人になる方がもっと痛い。辛いんだ」


 そう言われて、ジルは何も言えなくなってしまった。


「だから、もう少しだけこうさせて」


 アメリーが安心しきっているのが、肌から直接伝わってきた。

 だが、息が荒く痛みに耐えているのもよく分かるし、寝てばかりで体が弱ってしまっているのもよく分かる。

 この体は、果たしていつまで持つのだろうか。残されている時間は、もしかしたらあと僅かなんじゃないだろうか。

 ジルは焦りを覚えた。

 

 ◇◇◇◇


「ぶ、不気味な場所だね……。幽霊とか出てくるんじゃない?」


「アンデット系がいるって話もあるし、あながちその話は間違ってないのかもな」


 廃村にやってきて、2人はあたりの散策をしていた。

 この辺りにゴブリンが住み着いたという話ではあったのだが、今のところ何処にもその気配はない。

 いや、気配で言えばこの廃村には明らかにゴブリンが住み着いている形跡があり近くにいてもおかしくないのだが、全く見つからないのだ。

 

「ギルドへの誤情報……? いや、でもそんなことそうそう起こるはずがない。遠くならともかく、ここは近場だし誤情報なんて有り得ないはずだが……」


「なんか、ホラーな香りがするね。でも、怖がってばかりじゃダメ。どぅーざべすと」


 レフィは気を引き締めると、やはり怖いのかジルのすぐ隣で裾をチョンと掴みながら歩いていた。


「しょうがない。一旦この廃村の現状確認だな」

 

 ジルは廃村を回り、ゴブリンの痕跡を調べ始めた。

 やはり、どこもゴブリンが住処として使っていた痕はあるのだがそれ以上は出てこない。

 どうやら、ゴブリンは誰も住処の見張りをつけないで皆で外へ出るということはほぼしない。なので、この周辺にゴブリンは居ないと判断しても大丈夫だろう。


「……血の臭い?」


 今まで、廃村のカビや腐った木の匂いなどで気付かなかったが、なんとなくその臭いが鼻をかすめた。


「レフィも臭うか?」


「うん、なんか臭うね。もしかして、もうゴブリンは誰かが倒しちゃったってこと?」


「その可能性が高いな。もしくは、魔物の潰し合いでもあったか」


 少なくとも、その2択で間違いないだろう。

 道理で、色んな場所に武器が散らばっているわけだ。つまり、これらはゴブリンが使っていた武器で、倒された時にその場に残ったのがこれということだ。

 それに加えて、廃村に何故か残っている靴の足跡。まだ新しいところを見ると、犯人ということで間違いない。


「どうやら、先客がいたみたいだな。しかも、かなりタチの悪い先客だ」


 ジルが呟くと、後ろから足音が聞こえてきた。

 ゴクリと唾を飲み込んだ。相手は、確実にわざとここを狙って討伐をしている。つまり、元々妨害をするためだけに始めたということ。

 つまり、その犯人はジル達を敵視していたりよく思っていない人ということだ。

 ジルはその人に良く心当たりがあった。

 

「ようやくか……気づくのが遅いんだよ」


 ニヤニヤしながら、ボルドーが薄暗い影から姿を現した。

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