ブーメランの実力
「ついに出来たか」
ジルが手にしているのは鉄でできたブーメラン。
非常に丈夫に出来ており、長く使うことを前提に作っていたものだ。
そして、魔力での操作も可能になっていて、投げた後は極微量な魔力でブーメランの軌道を変えることも出来る。
切れ味が鋭いため、使い慣れるまでは複数の冒険者と討伐に行って使うのはリスクがある。なので、取り敢えずは1人で使う必要がありそうだ。
「へぇ〜これが武器かぁ。余り想像がつかないけど、上手く使えるようになるといいね!」
「ま、そうだな。そこは試してみないと分からないな」
「そうだよね。よーし! じゃあまずはクエストを受けないとね。取り敢えずは、前と同じで大ニワトリの討伐にしよっか。遠距離攻撃もできるし、上手く使えたら面白そうだし!」
「そうだな」
2人は大ニワトリのクエストを受注して、討伐をしにいった。
以前と同じく、草原には何匹かの大ニワトリが塊を作っている。しかし、群れというイメージではなく、1匹1匹が別々に動いていた。
「さて……それじゃあ早速試してみるかな」
ジルは大ニワトリに近付いていく。今回は以前ほど近づいていく必要は無いので、前よりかは幾分か楽になっている。
しかし、それでも警戒する大ニワトリもいた。そいつらは無視だ。
ジルはブーメランを取り出して構えて、狙いを搾った。
まずはどれが1番狙いやすいかを探す。そして、油断をしている鳥を見つけて、今度は刺激をしないようにゆっくりと振りかぶって、思いっきりブーメランを投げた。
その投げ方は、ニートをしていた割には様になっていた。それは、ジルが以前からブーメランを使って遊ぶことが多かったからだ。
小さい頃にブーメランを知って、広場に出ては何度も投げて遊んでいた。そんな経験もあり、ジルはブーメランを上手く投げることが出来る。
そのブーメランは高速で回転して大ニワトリの元へ向かう。そして、ジルはそのブーメランの軌道を補助程度で操作して照準を定めていった。
少しずつ微調整をして、そして大ニワトリの頭にブーメランが直撃。
その後にブーメランはジルの魔力を辿って元の場所へクルクルと戻ってきた。
ジルは帰ってきたブーメランをキャッチした。手で掴んだ時の反動が凄くヒリヒリとした。まだ、改良の余地がありそうだ。
「よし、1匹やったな」
「凄い! こんなに簡単に……!」
「今回は急所に当てられたのが大きいな。まあでも、当たりさえすればダメージはかなり食らうだろうし、武器として十分使えそうだな」
ジルはもう一度ブーメランを投げた。
しかし、今度は当たることなく手元に戻ってくる。
「それと、確実性も鍛えないとな……。当たらなければ始まらないし」
そう言ってもう一度ブーメランを投げた。すると、今度は上手く行き大ニワトリをまた1匹倒した。
そして、2人は2匹の大ニワトリを回収して2台に詰め込んだ。
「あと3匹だな」
「早いね! 前のスカートめくり機と違って凄い生産的だよ!」
「ん、ま、まあそうだな」
ジルはあれも魚を獲れるわけだし、生産的なのではと思った。
しかし、今はそれは関係ない。とにかく大ニワトリの討伐が最優先事項だと、すぐに場所を移動して1匹ずつ倒していく。
ブーメランを武器にしたのは大正解のようで、恐らく実力的にも一気にレフィと並んだのではないだろうか。
最後の1匹もブーメランで倒して、2人はギルドへ戻った。
◇◇◇◇
「ジルさん、ようやく討伐クエストは慣れてきたんじゃないですか?」
クエスト達成報告中に、受付嬢が言った。
「そうですかね。あまり意識して考えたことがなかったですけど」
「そうなんですね。実力も段々ついてきているみたいですし、もこのままの調子でクエストをこなしていけば、中級になるのも時間の問題かもしれませんね」
ジル達はまだ討伐クエスト自体は何度も受けているんけでは無いが、ギルドの方も実力を見直し始めているみたいだ。
とはいえ、それについて喜んだりということがないのがジルだ。レフィはニヤけてしまっているが、ジルは喜んだりすることは無い。
ただのお金稼ぎとして冒険者をしているジルにとっては、等級が上がることに関して、そこまで特別な感情は抱かないようだ。
「そろそろ、別の討伐クエストも受けてみてはどうですか?」
「別?」
「ええ。例えば、このクエストも意外といいかもしれませんよ?」
そう言って見せてきたのは、ゴブリンの討伐について書かれた依頼だった。
「最近、この近くの廃村にゴブリンが住み着いていることが発覚したんです。街への被害も考えて、早急に討伐する必要があるので報酬も高め。まだ貼り出しはしてませんが、もし受けるのでしたらこのまま依頼をお渡ししますよ?」
「ほ、本当ですか!? ジル君、これすごい美味しい話じゃない? 受けるしかないよ!」
「確かに、それはあるか」
大ニワトリと比べて、ゴブリンは人間相手に攻撃的になってくるので、難易度で言うとかなり高くなるだろう。油断すれば、それが死に直結する。
ただ、今の実力を考えると、受けていいのかもしれない。このまま簡単なクエストばかりをやっていても、現状の苦しい生活が変わるわけじゃない。この機会に挑戦してもいいのかもしれない。
「どうしますか?」
「なら、受けることにするよ」
「分かりました! では、手続きをしておきますね。一応、明日以降のクエストなので、明日またこちらにいらしてください」
「分かった」
「凄い! もしかしたら、トントン拍子で中級に……そうなったら面白いよね!」
「そう上手くいくとは思えないけど……まあ、やるだけやるよ」
表情を全面に出して喜ぶレフィとは違い、ジルは表情には出さない。しかし、なんとなくジルが笑っているような気がした。
「チッ……」
ボルドーが舌打ちをしてジルを睨んでいた。恐らく、先程の会話が聞こえていたのだろう。
しかし、いつもと違い近付いて何か愚痴を言おうだとかそういうことはしなかった。ジルは、それがやけに不気味に思えた。
「ジル……貴方、やはり懲りていなかったのね」
「……お前か」
シエラが冷めた目をしながら歩み寄ってきた。
「やめなさいと言ったでしょ」
「お前、俺に親がいないから母親気取りってか? 笑わせるなよ」
「……っ! そんなんじゃないわ。現実を見た方がいいと言っているの」
「生憎、現実なら嫌という程見た。その結果がこれなんだ。ま、安心してろよ。辞めたくなったらすぐにでも辞める」
「……貴方は本当にそれでいいと思っているの?」
「くどいな。さっきからそう言ってるんだよ」
シエラは何故か分からないが、どうしてもジルを辞めさせたいらしい。ジルは、なんとなく自分のことを考えて言っているのだろうと分かってはいるが、そうもいかないのだ。
「シエラさん」
話を聞いているだけだったレフィが口を開いた。
「何かしら」
「そういう人、私1番嫌い。現実現実って、私は夢の中で夢を見てるわけじゃない。この現実で、夢を見て目標があるの。貴方にそういうとやかく言う権利なんてないと思う」
「……なんで、こうなるのよ」
「どうした?」
「なんでもないわ。どうしても貴方が進もうとするのなら、好きにすればいい。でも、きっと後悔する」
「そうかい」
ジルが適当な返事をすると、シエラはギルドから出ていった。
その背中は、何故か小さく見えた。
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