変態発動
「ジル君は今の人と知り合いなんだ」
「ああ。小さい頃によく一緒に遊んでいた幼なじみだよ。今じゃほとんど会わなくなったけどな」
近所で親が仲がいいということもあり、度々出会っては2人で遊ぶことがあった、
花畑へ行くのに付き合ったり、虫取りをしたり、追いかけっこをしたり。年が同じ人が殆どいなかったということもあり、この2人は特別仲が良かった。
「でも、今はかなり仲が悪そうに見えたけど。何かあったの?」
「まあ、何かあったかといえば難しいんだよな。なんでか分からないけど向こうが避け始めたとか冷たくなったとかほういうところがあったからな。まあ、大方エリートってところで何か思うところがあったんだろうな」
シエラは小さい頃から才能が光っていた。
まず、運動神経が良かった。走るのは速いし、力も強かった。追いかけっこでは毎回敵わなかったし、木登りは基本的にシエラが上でジルが登ってくるのを待つのがほとんどだった。
それに加えて、シエラは魔力量も昔から多かった。
別に、その家の家系が代々魔法使いの家系だとかそういうことは一切なかった。だが、シエラだけは特別才能を持っていたようだ。
そして、仕事か進路か考えるようになってきた頃に人が変わってしまった。
ジルが冒険者になりたいと言う度に、そんなものはやめた方がいいと反論され、この思いは本物なんだと告げてもそんなことは関係がないと切り返された。
その辺りから、ジルとシエラとの間に亀裂が走り始めた。
「でもさ、それって結局価値観を押し付けてるだけだよね。だって、理由も何もなしに勝手にやめろとかダメだ〜とか言われてもこっちは分からないでしょ?」
「確かにな」
ジルは、幾ら仲がぎこちなくても何もかもを捨て去ることは出来なかった。
幼なじみとして最低限、繋がりだけは残しておきたいという気持ちがどこかにあるのだろう。
だから、シエラへの批判に完全に便乗は出来ない。
「ジル君。こうしちゃいられないよ。急いで私達も強くなろう! こんなに弱かったらまた見下されちゃう!」
「そうだな」
なんとなく、レフィとの距離が縮まった気がした。
◇◇◇◇
「ついに……完成した……!」
「……あれ?」
目の前にはジジジ……と良からぬ音を立てている謎の機械がいる。
見た目はあまり大きくなく、大体芝刈り機と同じくらいのサイズ。しかし、魔石が嵌め込まれておりどうやら魔力供給によって作動する機械だということは分かる。
それは、車輪がいくつか付いていて、真ん中には大きな穴がある。なんとも変な形をした機械だった。
「ブーメランは?」
「んん? え、えーっとだな。これは、ちょっと試しに作ったというか……」
「……なんで?」
「興味本位だな」
そう言うと、謎の機械は音を少し上げてゆっくりとレフィに近づいた。
何をするのかとじっと見つめていると、急にヴーーーと唸り声を上げて風を下から上へ送り始めた。
レフィはクエスチョンマークがとめどなく浮かんできた。なんだろうこれ、一体彼はなにを作ろうとしていたんだ?
これは、生活費を賄うためのクエスト達成報酬を削るほど重要なものになるのか……?
それを聞くべく、ジルに目を向けた。
そして、ジルもレフィとのアイコンタクトで理解したのか、この機械を指さした。
「これはスカートをめくる機械だ」
「……なんて?」
「スカートをめくる機械だ」
レフィはガックリと崩れ落ちた。まさか、この男はスカートをめくるためだけにこのしょうもない機械に全力を注いだというのか。
「こいつはその名の通り『美少女!』のスカートをめくるための機械だ。弱、中、強の3段階に風力を分けられていて、弱はチラッと見えるこのチラリズムというロマンを叶えるための風だ。ちょうど今のがそれだな。そして、中がもろパン。強は全ての技術を結集して作りスカートそのものを飛ばしてしまおうという画期的なアイデアから生まれた。いやぁ、君は装備を脱いでいて正解だ。初めて体験出来たのが君なわけだからな」
レフィは顔を真っ赤に染めた。そう、つまり今自分が何をされて何を見られてしまってのか、気付いてしまったのだ。
「な……な……」
そして、ジルは止めの一言を言うためにビシッと人差し指を突き出した。
「君は黒だ!!」
「――――!!」
「ぐほぉ!!」
レフィは瞬時に飛び起きて、憎き敵を思い切り蹴り飛ばした。
「ジル君……よく、よくもぉ……」
「……まあ、そんな感じだな」
ジルは腰を抑えながら立ち上がり、スカートめくり機を回収した。
「……今度同じもの作ったらどうかるか分かってるよね」
「大丈夫、反省してるから。まあ、冗談はさておき本命の方見に行くか。もう1つ作ってるものがあるから、それを回収しに行く」
「作っちゃった時点で、それは冗談とは言えないんだよ」
「……行こうか」
◇◇◇◇
ジルが連れて行った先にあったのは、森の中の小川だ。
そこには沢山の魚が泳いでいて、しかも味もいいので街でも人気で採取クエストの中でもそこそこ報酬が良く皆が1度は手を出すクエストだ。
しかし、クエストの達成率はそんなに高くない。
基本的に低級の冒険者が挑戦するのだが、皆捕まえるのにかなり苦戦している。
まず、魚動きが素早い。幾ら反応の早い人だろうと、その道のプロにでもならない限りは簡単に捕まえることが出来ない。
そして2つ目が、網を使ってもそれが役に立たないからだ。川幅が狭く、浅いこともあって網を簡単に避けてしまったり飛び越えてしまったりする。
だが、ジルはそこに目をつけた。
もしかしたら、ここで儲けが作れるのではと。
ジルは川にザブザブと入り、先程のスカートめくり機を沈ませた。
そして、練り餌を穴の中に入れて放置した。
「ジル君、何してるの?」
「何って、漁だよ。このスカートめくり機で魚を捕まえるんだ」
仕組みは簡単だ。この機械はヒラヒラと動くものに反応するようになっている。だから、スカートに限らず干されているタオルやマントなんかにも反応する。
そして、魚にも。
「実は、このスカートめくり機には逆噴射機能があってだな。これを使うことによって、餌でおびき寄せられた魚を吸い込むことが出来る。お、吸い込む力によってはスカートも吸い込んだり」
「あ、それはいいから」
「……まあ、そんな感じだな」
スカートめくり機に近付いた魚達が次々と捕まり吸い込まれていく。そして、ある程度時間が経つジルはスカートめくり機を引き上げた。
中には何匹もの魚が見えた。水をそのまま中に貯めておくことも出来るので、魚の移動も簡単だ。
「……これ、なんでスカートめくり機って名前をつけたの?」
「そりゃあ、スカートめくるのがメインの使用方法だからに決まってるだろ」
つまり、これが遊び人の応用方法という訳だ。
「これでクエストを追加でクリア出来たな」
「なんでだろう……嬉しいはずなのにこの敗北感は」
レフィは、ジルの実力の片鱗が見え始めたことによって、ようやく光が見えてきたというのに、何故か心にはぽっかりと穴が空いている気がした。
それは多分、気のせいなんかではないのだろう。
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