特技は遊び
「3人か……少ない」
雷鳴が轟く中、薄暗い広間で何人もの人が長い机を囲んで座っていた。
「貴様らはこれをどう思う?」
シルエットしか浮かぶことは無いが、それだけでも彼らが人間でないと判断するには十分すぎる情報だった。
隆々とした筋肉質の体に、背中から生えるコウモリのような翼。そして、頭から生えている大きな角に、凶悪な鉤爪。
その持ち主は、今にも激怒しそうなくらい青筋を立てて声を震わせていた。
「力及ばず申し訳ありません」
「謝罪が聞きたいのではない!! 貴様らはこの結果をどう思っているのか聞いておるのだ!!」
「はっ。これは非常事態だと認識しております。例年であれば2桁は硬いはずがここまでとなると、恐ろしい存在を生み出しかねない。早急に間引きする必要があると思っています。これは、我ら幹部にとって共通の認識です」
「ふむ。そこまで理解しているならよい」
「申し訳ありません。私も配下へ徹底的に教育致します。それに先立ちですが、我らの誇りを汚されているというのに、配下はどうも気が抜けているように思えます。どうしますしょうか? 責任者の首を持って来ましょうか?」
「構わん。そいつがいなくなったところで何も変わらんからな。それより、とにかくもっと早くに仕留めることだ。今年の新人冒険者の数は分かっているな? 手当り次第殺せ。あいつらは我々の脅威だ。アイツらが強敵に育つ前に、苗は摘み取っておかねばな」
そいつはニヤリと口を歪ませて、それからグラスを握りつぶした。
◇◇◇◇
「これは……大問題だ……!!」
レフィは鬼気迫る表情で叫んだ。隣では息を切らしながらも必死に水を飲もうとするジルの姿があった。
「ねぇ、ジル君。さすがに弱すぎだよ! 私、何度か特訓にも付き合って、クエストも幾つか挑戦したけど、全く何も出来ずだよ? これ、流石に冒険者として致命的だと思うけど」
「ぐっ……」
正直なところ、その通りだった。
クエストは以前のように大ニワトリの討伐をしたり、害虫である虫系の魔物を討伐もしていた。
素早い相手もいれば遅い相手もいて、一撃一撃が重い相手もいればスピードで攻撃してじわじわと体力を削ってくる相手もいた。
それら色んな魔物と戦い、色んな攻撃を覚えて対策の仕方も考えながら作戦を作る訳だが何故か上手くいかない。
単純にそれだけで終われば良いのだが、そういう話ではない。
ジルはレフィと共に特訓をしている。ありったけ戦闘に時間を費やしている分、ステータスもそれに対して上がっているのだが、何故か使えない。
何とか原因を突き止めようとはしているが、未だに分からなかった。
「いや、でもステータスはじわじわ伸びてるからそのうち……」
「うーん……なんか、その前にコロッと逝っちゃいそうな気がするんだよね」
「おい、縁起でもないこと言うなよ」
ここ最近クエストで何度も死にかけているジルは、結構笑えない話だった。
特に、クエストでもなんでもなくただのレフィとの手合せで三途の川が見えた時は2人して顔面蒼白になったものだ。
「このままだと、本当にまずいからなぁ……。そうすると、やっぱりスキルを試してみるべきなのかな」
「そうだな。使えなさそうな怪しいスキルばっかだけど、使わないで決めつけるのは良くないもんな」
とはいえ、殆ど半信半疑どころが全く信用してない訳だが。
「うん、取り敢えず順番にやって見よっか。私は使えそうなスキルがあるか見ておくね。それじゃあ、どんどんやってみてー」
「分かった」
そして、ジルのスキル披露大会が始まった。
睡魔 堕落 半死 逃走 忘却 隔絶 楽観 自暴自棄 けん玉 カードゲーム 壁のシミを数える なんか人っぽい 呪われる!? 脳内鬼ごっこ モノマネ 発想力 作成
この中でなにか使えるものを探すわけだ。
まずは、見た瞬間に使えないだろうと見切りをつけることにした。
「昼寝は論外。堕落は意味がわからないけど論外。半死とかどういう意味だよ、死んじゃってるじゃねぇか」
「逃走は場合によっては使えそうだよね」
「何から逃げるのかによるな。俺がニートだったって言うのを考えると、逃げるものといえば現実とか責任とかだよな」
「うわ〜酷い」
スキル前半は本当に散々だった。何もかもニート専用の遊び人スキルという感じだ。もはや、これだけ見れば職業は遊び人でなくただの引きこもりだ。いや、現に引きこもりだったわけだが。
「あ、でもこの発想力とか作成っていうのは使えそうだよね。このスキルを使って上手くなにか出来ないかな? ねぇ、今すぐ使える?」
「ちょっとやってみる」
使い方は一切分からないが、取り敢えず集中してみた。頭の中でただ考えることに没頭する。
なにか作れるものは無いのか……。そうして考えて、見ると意外と見えてくるものもあるものだ。
(くそ、さっぱりだな)
何が正解で何が間違いなのかもわからず、ただただ考える。
そうすると、段々と先程まで気にしなかったものまで浮かんでくるようになった。
コレが発想か……!!
ジルは覚えれば後は早いと、どんどん溢れ出てくるアイデアたちに身を委ねた。
そして、自分が今1番必要な武器を思い浮かべた。
自分は今圧倒的に力が足りない状況だ。それをどうにかするにはまず、何倍もの力を発揮できてかつ遠距離攻撃の出来る武器となる。
後は作成を試すだけだが、これは時間が掛かる。取り敢えず、今は発想のコツを掴むだけでも大きいだろう。
「なるほど……」
「どう? なにか出来た?」
「まあな。取り敢えず、次のクエストに武器で何を使うかは決めた」
「それなら良かっよ……。これ以上剣ばっかり使ってても限界な気がしたからさ……」
「サラッと酷いこと言うなよ」
「ごめんごめん……それで、後検証してないのはモノマネ、かぁ」
「グッ。これだけは見て見ぬふりをしてたのに」
ジルにとっては1番の地雷だ。
モノマネということは何かを披露するということになる。レフィがニヤニヤしているところを見ると、最初からそれを狙ってやったのだろう。
「くそ……う、歌います」
「ぷっ……う、うん。いいよ……なんで歌なのか分からないけど」
取り敢えず、路上で歌っていた人たちのをそのまま真似をしてうまう事にした、が……。
「まっすぐ進むその道「あっはははははは!! 聞いたことある声だけど、それは流石に音痴すぎるよ!! 他はないの他は」」
ジルはおもちゃにされている気分になった。
「なら、次は踊ります」
そう言って、また路上で踊っていた人のモノマネを始めた。
「あっはははははは!! ちょっと、流石にそれはダサい、ダサいから!!」
くそっ! こいつ絶対楽しんでやがる!!
ジルは1番の地雷であったモノマネの能力を使い、見事にその地雷を踏み抜いてしまった。
それにより、自分は何かを失いレフィを笑わせるというただそんをしているだけの構図が出来上がった。
結局一通りのスキルを試したのだが、数あるスキルの中で結局使えそうなのは発想と作成しか無かった。
次のクエストではこれが鍵になればと願いながらも、クロードは半ば諦めの気持ちでため息を吐いた。
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