遊び人
「……酷い目に遭った」
病院で目覚めると、ついさっきの出来事をすぐに思い出した。
あの大ニワトリに蹴られまくるという出来事は、思い出すだけでも身体中が痛くなり鳥肌が立ってくる。
「お兄ちゃん、起きたんだ」
「……ああ、同じ部屋だったのか」
病院の人が気を利かせてくれたのか、アメリーの病室のスペースにもう1つベッドを置いてくれたみたいだ。
「身体中怪我してるみたいだけど、お兄ちゃん無理したりしてない? 大丈夫?」
「いや、無理はしてないよ」
無理をしているわけではない。いや、ジルからすれば無理に当たるのかもしれないが、あれを無理したと言ってしまえばまジルの面目にも関わるし、アメリーに更に心配をかけることになってしまう。
ただでさえアメリーには心配をかけてばかりなのに、これ以上余計な不安の種を増やすのは御免だった。
「そう? ならいいけど。でも、私の分までって無理をしすぎるのはやめてね」
「いや、アメリーの分まで稼ぐのは普通だろ。今まで俺が何もしてなかった時はアメリーが何から何までやってくれたんだ。それが入れ替わっただけだから、別に気にする必要は無い」
それは、アメリーを気遣って言ったつもりだった。
だが、本人は何故か顔を曇らせてしまった。
ぎゅっと掛け布団を握るアメリーを見て、ジルは表情は固まってしまった。
「……やめてね。そういうのはさ」
ジルには、アメリーが怒っているように見えた。そして、それは今までジルがアメリーに養って貰っていたがために、アメリーが自分のことを子供扱いしているように見えて苛立ちを覚えた。
だが、それが八つ当たりだと言うことは理解しているので、ジルは感情を出すことはしなかった。
「――おっはー! ジル君は起きた? あ、起きてるね! 良かったよー……。私、無理させちゃったと思って……本当にごめんね」
騒がしいやつが入ってきた。
「レフィ、クエストはどうなったんだ?」
「クエストはクリアだよ。あそこまで体を張ってくれたのにクエスト達成しませんでしたーなんて、酷いにも程があるでしょ? 流石に私にも責任があるからさ……」
馬鹿な作戦を作っておいて責任、ねぇ……。
なんてジルは思った訳だが、ジル自体もその作戦を呑んでしまったわけで、ジル自身もその程度ということだ。
「あ、これクエスト達成報酬ね。あと、これはお見舞いで持ってきたよ」
そう言って渡してきたのはチャリチャリと音がする布の袋と、瓶を1本。
「この瓶、何が入ってるんだ?」
「はちみつジュースだよ。疲れてるだろうから、栄養補給にと思って」
「そうか、それは助かる」
「あ、あとなんだけど話があって、今日はいつなら空いてる?」
「すぐにでも。別に、怪我自体はそうでも無いし動けるから」
「え、お兄ちゃん」
アメリーは不安げな顔をした。ジルが無理をしているというのが、今の会話で分かったのだろう。
それに、体の至る所を怪我していることもアメリーは分かっている。それだけに余計心配になるはずだ。
「大丈夫だ。まだまだ動けるから。じゃ、行ってくる」
◇◇◇◇
話は、広場で行うことにした。木陰に隠れたベンチに座り、ジルはホッと息をついた。
「えっと、ジル君はさ、パーティを組む人がいなくて、私もパーティを組めないからこれから2人で頑張ろうってなったでしょ。でも、パーティを組めても出来ることは限られてるなーって。なんでか分かる?」
「ああ。俺たちの実力が無さすぎるんだよな。特に俺」
ニート生活ばかりだったジルのブランクは相当なものだった。体力はすぐ切れて、まともに筋力がついているわけでもなく攻撃に打たれ弱い。
採取クエストだけではアメリーの分なんて到底稼げないと討伐クエストを始めたわけだが、このまま続けたら体が持たないだろう。
「そう。ジル君は体力が圧倒的になくて、このままだと危ないっていうのが分かったでしょ? だから、私が特訓に付き合ってあげようかなって思って」
「特訓か。まあ確かに、何もせず休むだけですぐに討伐クエストに挑むっていうのも怖いしな。お願いするか」
1番は、ジルとアメリーの頭が回らないふたりで破滅するだけの無能な作戦に手を出したくないだけだ。
策を考えられないのに無理やり考えて大穴のある作戦を考えるなんて死んでも嫌だろう。
「分かったー! じゃあ、まずジルが何を出来るかだね。ステータスは?」
「ん? ああ、そういえば見るの忘れてたな」
◆
名前:ジル・エヴァンス
職業:遊び人
HP:50
MP:15
攻撃:10
防御:12
魔法攻撃:5
魔法防御:5
素早さ:25
スキル:昼寝 睡魔 堕落 半死 逃走 忘却 隔絶 楽観 自暴自棄 けん玉 カードゲーム 壁のシミを数える なんか人っぽい 呪われる!? 脳内鬼ごっこ モノマネ 発想力 作成
◆
「低っ!?」
冒険者カードはその人の能力を数値化出来る。
以前はここまで低い数値では無かったのだが、ブランクによってここまで落ちてしまったらしい。
そして、職業は戦士から遊び人へ落ちて余計なスキルばかりが増えているようだ。
「へぇー。凄いね! 私、ここまで終わってる人は初めて見たよ!」
「終わってるとか言うなよ。てかなんだよ呪われる!?って。ただの独り言じゃねぇか」
その辺の子供でも抜かせるレベルのステータス。これはもはや、冒険者試験からやり直した方がいいレベルだ。
「因みに、レフィはどうなんだ?」
「私はこれに5割増くらいだね」
……まあ、たかが知れてるなと思ったのは秘密にする。
「よし、それじゃあまずはスキル云々じゃなくて体力からだね! さて、じゃあまず剣からかな」
そう言って、レフィが木剣を持ってくるくると回した。
どうやら、スキルの方はそうそうに見切りをつけられたらしい。
早速遊び人とは関係の無い武器から練習することになった。
木刀を持ってきて、レフィと共に構えた。
レフィ本人は剣術を教えることは出来ないので、単純に手合わせだけというふうになるだろう。体力という言葉を考えるに、ひたすら打ち続けて体力をつけるということなのだろう。
「よーし。準備はいい?」
「ああ」
しかし、レフィはスキルに見切りをつけたようだったが、ジルはまだ諦めてはいない。
幾つか使えそうなスキルがあったからだ。
まず一つは発想。これ自体は魔法や剣術スキルなどと違って内的なものなのが面白い。アイデアが出しやすくなるだとか、そういうものだとするならば面白い。
そして、アイデアが生まれれば今度は実行する能力が問われる。それが作成の力になる。
「よそ見してちゃダメだよ?」
「ぐっ!?」
不意打ちのように襲ってくる攻撃。ジルは何とかそれを受け止めてまた思考の海へ潜りながらレフィの剣をギリギリで受け流した。
作成の能力と発想をふたつで1つと考えるのならば、その本質は「発明」になる。もしかしたら、自分達が想像している以上に遊び人のスキルは有用なものがあるのかもしれない。
「くっそ、見た目に反して重いな!」
細身の体からとは思えないほどの一撃の重さ。受け続けていると木剣を握る手がヒリヒリと痛み始めた。
そして、受け続けているとすぐに体力の限界はやってくる。
ジルは、何とかスキルで何かできないかと考える。今持っているものや周りのもので何が出来ればそれだけで不意打ちになる。
「……駄目だ、なんも思いつかん」
肺も限界に達して、ジルはお手上げとばかりに剣を投げ捨て両手を上げた。
体が動かないので、もう何も出来ない。
そのままスコーンと景気のいい音が鳴り響いた。
見ていただきありがとうございます!
『面白かった』『続きが読みたい』と思っていただけましたら、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願い致します!
面白かったら星5つ、つまらなければ星1つでも構いません!
また、気に入っていただければブックマークもしていただけると嬉しいです。
是非ともよろしくお願いします!