ボッコボコニート
ジルは息をゼェゼェと吐きながら、なんとしてと倒してやると走り回った。しかし、幾ら走っても大ニワトリに追いつかず、標的から離れていくのみ。
もうジルの体力は限界で、その場で立ち止まり膝に手をついた。
「これは、想像以上にやべぇ……」
もう少しやれると思っていた。しかし、ニートしていた時のブランクは思って着る以上に酷いらしく、もう動くことが出来なくなった。
「……? ぶっ!!」
突然人影が近付いてきて、誰かと振り向いた瞬間顔面に衝撃が走った。
そして、勢いのままにゴロゴロと転がった。口の中は血の味がして、頭もグラグラとめまいも起きる。体力も限界。もう起き上がろうともできなかった。
「……家で寝てぇ」
情けない言葉を恥もなく言い寝転がって青空を見た。
ポカポカと陽気があり、絶好の昼寝日和。これで、目眩と鈍痛がなければ最高だっただろう。
「コケェ!!」
大ニワトリが猛スピードで近付いてきた。脚力は普通のニワトリと比べ物にならない。先程の蹴りで顎が外れなかっただけ運が良かった。当たりどころが悪ければ骨折や、下手すれば頭蓋骨をやられて死ぬなんてこともあっただろう。
だから、このまま何もしなければもう終わりだ。
だが、ジルは案外それでもいいのかもと思い始めた。妹には迷惑をかけるが、多分出費も安くなるだろう。
ジルは目を瞑った。
「ちょっと!! なんで諦めるのぉ……!」
割り込んできたレフィが細身の剣で大ニワトリを一突きした。
辺りに飛び散る血飛沫は、非常にグロテスクでジルは思わぶ顔を青ざめさせた。
「うぇ……」
思わずむせそうになり、同時に胃の内容物も戻しそうになった。
ポカポカ陽気が、一瞬にして地獄に変わった。
「や、やっと2匹目……ていうか、もっと頑張ってよ! 死のうとしないでよ!」
「うん、ごめん。頑張る」
なんとも気の抜けた返事だった。
「それ、寝ながら言ってても説得力ないからね!? 早く起きてぇ!」
レフィはジルの腕を引っ張って無理やり起こした。だが、ジルは簡単に立とうとしない。
足もパンパンで、息もまだ荒い。周囲が何となく生臭い。そして暖かい。
このカオスな空間からさっさと現実逃避がしたかった。
「ジル! まだ2匹目だから! そんなに座り込んでたらあっという間に時間が無くなっちゃうよ!」
「いや、でも1人で頑張れば? 俺じゃ多分役に立たないから。ここで突然強い魔物が現れないか監視してるから」
「あ、ほんと? ありがと〜って絶対サボるつもりでしょ! ダメだから! ねぇ〜お願い立ってよ〜戦ってよ〜」
ゆっさゆっさとジルを揺さぶり、ただでさえ目眩のしている頭が更にぐるぐると回ってくる。そして、段々と気持ち悪くなってきた。
「うぷっ……。や、やめろマジでやめろ。わかったから。手伝えばいいんだろ? 動くから動くから」
ジルは体を揺さぶるレフィを押しのけて、仕方なく立ち上がった。
「……よっこらせ。でも、やるにはやるけど俺じゃ捕まえられないかもよ?」
「大丈夫だよ大丈夫。あと3匹だから、力を合わせればきっと倒せるよ。ほら、ちーむぷれーをちゃんとやって連携すれば絶対できるよ」
「まあ、やるだけやってみるか。で、その作戦とやらで俺は何をすればいいんだ?」
そう言うと、レフィは頭に手を当てて考えた。
「うーん……囮……人質……生贄……」
「おいちょっと待てその不穏なワードはなんだ」
「いやさ。大ニワトリの待ち合わせ作戦だったらそんな感じになるかな〜って」
「待ち合わせってなんだよ。待ち伏せだろ。お前俺をそっちのけで魔物と遊ぼうってのか?」
「あ、それもそうだね」
「そうだねじゃねぇ。それで、待ち伏せするんなら大ニワトリを呼び寄せないといけない訳だが、それはどうするんだ?」
大ニワトリは、先程2匹やられてかなり警戒している。最初よりもかなり遠く距離をとっていて、簡単に近付けそうにない。
「えっとね、それじゃあね……」
レフィはポーチをガサガサと漁り、その中から瓶を何本も取り出した。
「回復薬か、助かるわ」
ジルはまず1本の瓶を取り、その栓を開けようとしたが静止された。
「ううん、今使うやつじゃなくてこれから使うやつ」
「そうだな。この怪我で使うのは勿体ないか。レフィは何か作戦を思いついてるのか?」
「うん!」
先程の言動を見ていると、どうも怪しさが拭えないがジル自身なにか作戦を思いついている訳でもないので、取り敢えずレフィの作戦に合わせようと決めた。
「それで、レフィはどんな作戦を思い付いたんだ?」
「えーっとねぇ……。まずおとり役がジル君ね。やっぱり、大ニワトリを倒すとなるとどうしても力不足な気がするから」
「まぁ……そうだな」
本当なら嫌だが、仕方がない。
ジルでは大ニワトリを倒すとなると体力も力も足りない。トドメはレフィに任せるのが1番だろう。
「でも、大ニワトリは俺でも逃げるんじゃないか? 現に俺から逃げてたし」
「それなら大丈夫だよ! ズテッてコケてボッコボコにやられちゃえば全てが丸く収ま……「らねぇよ! なにわけ分かんねぇこと言ってんだよ」えへへ、駄目かぁ」
無邪気な笑みを浮かべるレフィ。ジルは、レフィがちょっと抜けてて可愛い一面もあるのかと思っていたが、作戦に関してはただ鬼畜なだけであった。
「でもさ、そのくらいしか今の私達じゃ出来ないというか……」
「まぁ、確かに」
ジルの体力は使い物にならない。レフィだけでは追いつけない。そうなると、大ニワトリに隙がないと倒すことは出来ない。
諦めようなんて言っても、レフィは言うことを聞かないだろう。クエスト失敗のペナルティは積み重ねると痛い目に合う。
そうなれば、答えは1つだった。
「……しょうがないな。回復薬がなくなったら直ぐに戻るからな」
「うん! ジル君、どぅーざべすとだよ!」
「……そうだな」
◇◇◇◇
作戦が決まったとしても大ニワトリに近付くのも一苦労だ。
相手を刺激しないようにゆっくりと近付く必要がある。だからジルは茂みに隠れながら少しずつ近づいていった。
「……さて、行くか」
さりげなく茂みから出て、駆け出してゆっくりと加速する。
丁度3匹が纏まって草を食べている。これを纏めて倒せれば、一気にクエストを達成することが出来る。
3匹もジルに気付き逃走を始める。それをジルが大ニワトリの進む方向を邪魔するように割り込む。
ここでジルがやることは……。
「ぐっ……!」
すっ転んで目立つこと。
お願いだからレフィ。早く着てくれぇ!!
「「「コケェ!!」」」
3匹は馬鹿なヤツだと思ったのか、のそのそと歩いてジルを足蹴りし始めた。
「ぐほっ。し、死ぬ。ヤバいヤバい」
ゴスッ、バキッと痛々しい打撃音が鳴り響く。1発1発が重く、蹴られる度に意識が遠のく。
必死に回復薬を飲んで耐える。
よく良く考えれば、俺が追いかけてレフィが待ち伏せすればそれで全部丸く納まったんだよ!!
そんなことを思っても今更遅い。
「ごめん! 遅くなっちゃった……!」
レフィも流石に不味いと思ったのか、悲痛な顔をして突撃してきた。
その表情を見て、ジルはゆっくりと意識が薄れていった。
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