デコボココンビ
「冒険者ギルド、かぁ」
ジルにとっては久しぶりの響きで、久しぶりの空気。
そもそも、外に出ることすらも久しぶりなのだ。以前の嫌な思い出や、これからの不安がぐちゃぐちゃに混ざり合い、なんとも言えない気持ちに襲われていた。
早く帰りたい。家にいたい。
そういう気持ちはあるも、行かなければ。動かなければ未来はない。
「人生って理不尽なんだよな」
ギルドの扉を開けて中に入る。
何となく見覚えのある人もいるし、自分より後から冒険者になったのか全く見覚えのない人もいる。どうやらまた被害者が増えているようだ。
冒険者という仕事自体、憧れと夢だけで出来ているようなもので、現実を知らない人達は可哀想だと、ジルは思った。
取り敢えず、もう一度冒険者登録はしてあるので手早く登録の更新をして、さっさと依頼を受けようとした。
ただ、ここで問題が発生した。
「おいおい。なんだ、腫れ物扱いかよ」
一体、ジルが冒険者を辞めてからどんな噂が立っていたのかは知らないが、誰もジルへ近づこうとしなかった。
皆目を背けたり、近づこうとしても離れていったり散々だった。
依頼を受ける際の条件として、この冒険者ギルドには必ずパーティを組むことという決まり事がある。だから、誰とも離せないのは致命的だ。
これも自分勝手に過ごしていたつけなのだろうか。
そんな風に思いながら、椅子に座りため息をついた。
すると、隣に誰かが座った気配がした。
「あの、ジルさん……ですよね?」
「ん……? まあ、そうだけど」
「なんかお困りのようですけど、どうかしたんですか?」
桃色の髪をサイドに束ねていて、声もハキハキとしていて元気そうな少女だ。
「……中々パーティが決まらないんだよ。なんか、皆俺の事をスルーしてるみたいなんだよ」
「あー。やっぱりそうですよね。私もなんです。最近は皆強い人ばかりで、私どちらかと言うと弱い方なので、あまり呼ばれなくて……」
どうやら、彼女もジルと同じく溢れ者だったみたいだ。
「冒険者になったのは最近なのか?」
「はい。昨日です。昨日冒険者になりました。貴方は?」
「冒険者になったのは3年前だな。最近は冒険者としては活動してなかったから、年数程実力はないけどな」
その時は、ジルも冒険者に憧れを持っていた。
上位のクエストをバンバン受けて、強い魔物を倒して活躍して人気者になる。それを夢みて行動していた。
しかし、それは難しいと気付き、ついでに知り合いから心をポッキリと折られてそれ以来冒険者の仕事は受けなかった。
だから、3年前とは言っても、実質冒険者をしていたのは1ヶ月もないのかもしれない。
「あ、そうだったんですね! それなら、私とパーティを組みませんか? このままだと折角冒険者になったのに、何も出来なくて……」
「折角、ねぇ……。折角って言うほど大層な仕事じゃないけどな。そんなに冒険者になりたかったのか?」
「は、はい! 見たことがない景色を見て、感じたことの無い感動を探すんです! その為に冒険者になったんですから」
ジルは、何となく面接みたいになってしまっていたことに気が病んだ。
仕事なんてやりたくないと思ってたのにな……。これがミイラ取りがミイラになるってやつなのか。絶対違うと思うけど。
「そういうことか。まあ、俺自体どういう形でもいいからクエストをやりたかったしな。それなら、手っ取り早くクエストを受けるか」
正直なところ、ジルはこの少女とパーティを組みたくなかった。
理由は幾つかあるが、まず一つは性格が正反対な事だ。
この少女は話すことが好きそうで、さっきからずっと話の話題を探している。
話すのが苦手なジルはからすれば、話の話題に困らないのは助かっていた。ただ、そうは言っても話の内容が好きではなかった。
憧れだとか、夢だとか、そういうことをタラタラと話す人は苦手なのだ。
この世界には、覆せない現実がある。
それは、身分であったり、能力であったり、学力だったり、様々な要因が組み合わさって生まれている
どれだけ憧れや夢があったとしても、それが叶うのはほんのひと握りなのだ。それを本気で叶うと信じている人を見ると、気持ちが冷めるのだ。
ただ、このギルドはパーティを組まなければクエストを受けることが出来ない。そうでなければ、パーティーを組もうなどとは思わなかった。
「それなら、私が丁度いいクエストを知ってるよ! ほら、これ!」
そう言って手渡されたのは大ニワトリの討伐。
大ニワトリは魔力に当てられたニワトリが巨大化、凶暴化し野生化した魔物だ。
魔物とは言っても、ニワトリなので食べられる。しかも、結構美味しいので好んで食べられている。
町周辺にも生息していて、油断さえしなければ大きな怪我を負うことも無い。確かに、丁度良いクエストと言えそうだ。
「なんだ、思ったより現実的なんだな」
「? 何が?」
「いや、てっきり洞窟で宝物見つけたいとか言い出すのかと」
そう言うと、少女は頬をふくらませた。
「もう! そんなこと言うわけないでしょ? でもさ、このクエストははじめの一歩を踏み出すっていう感じが凄いするからさ! 良さそうじゃない?」
良さそうなのだろうか。
「まあ、よく分からないけど打算的なのは良い事だな」
そう言うと、少女はますます不満そうな顔をした。
「むー……」
「あ。よく考えたら名前言ってなかったよな。ジル・エヴァンスだ。お前は?」
「……レフィ・エルメス。お前って酷くない?」
「レフィって呼べばいいんだろ? 急いで行くぞ。時間が惜しい」
「あ、ちょっと待って!」
◇◇◇◇
「てことでここに来たわけだ」
来たのは見渡す限りの草原。
そこかしこに大ニワトリが歩いていて、皆がジルたちを警戒しているのか近付いてこない。
毎度毎度冒険者に狩られて、ニワトリの方もあの人間達は危ないと勉強したのだろう。
「急にどうしたの?」
「いや、なんでもない。何匹狩ればいいんだっけ?」
「5匹だよ。持って帰るのは大変そうだね」
「そうだな。帰りの体力も残しておかないといけないわけだな」
ニワトリの背丈はジル達より少し低い程度。それを5匹となると重さもかなりの物。荷台を持ってきているとはいえ、回収に手間がかかりそうだ。
「ジル君」
「なんだ?」
「どぅーざべすと」
突然、レフィがビシッとジルに指さして舌っ足らずな声で言った。
「……なんだ? それ」
「全力を尽くそうってことだよ。ほら、一緒に」
レフィがまた指をさしてきたので、ジルは言わせるものかとレフィと指の先を合わせた。
「どぅー……なに? それ」
「ボクトキミトモダチ。チガウホシオナジココロ」
「むぅ……」
どうやら、レフィのお気に召さなかったようだ。
ジルはレフィに好かれようとしていないので、レフィがどんな反応をしようと関係がない訳だが。
ただ、よく分からない空気にしてしまったせいで言葉が続かなくなってしまった。
微妙な空気が続き、居心地の悪くなったジルはさっさとクエストを終わらせることにした。
「さて、それじゃやりますか」
ジルは剣を抜き、大ニワトリをゆっくりと追い始めた。
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