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俺の考えた魔法理論が異世界で使われていた件  作者: キューマン・エノビクト
第1章: 新しい生活、始まる
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51. 決勝 #2

 俺ははじめの合図と同時に銃を両方抜いて、ほぼ同時にシルヴィーナへと撃った。

 わずか10mの間を、魔法陣と火の弾が駆け抜けていく。


「遅いですわ!」


 しかしシルヴィーナはそれを見切っていたようで、カードを1枚指に挟んで思い切り横に振った。

 魔法陣も火の弾もかき消され、俺を暴風が襲った。

 そう、これらの魔法は風に弱いのだ。

 魔法陣は所詮空気の流れでしかないし、火の弾の方も水素を散らしてしまえばいい。

 どうやら、見破られていたようだ。

 俺は風に流されるまま後ろへ跳んだ。

 それを見て、シルヴィーナも追従するように跳んでくる。

 そして魔法陣の描かれたカードを、俺に向かって叩きつけてくる。


「あっぶねぇ!!」

「痛っ!」


 ギリギリで、俺は銃身で直接シルヴィーナの手を殴ってカードを手放させた。

 シルヴィーナは声を漏らしながらも、もう片方の手でカードを取り出す。

 だが俺が銃を向けると、シルヴィーナは飛び退いて、俺から距離を取った。

 そして再び風の魔法陣が描かれたカードを胸の前に構える。

 半ば膠着状態のようになった。


「どうでしょう、わたくしが開発した『魔法唱板エルヴァントーレ』の威力は!」

「やるねぇ。だが俺のコイツをビビってちゃ勝機は来ないぜ?」


 今の所、俺は押され気味ではある。

 だがここで敢えて挑発する。

 シルヴィーナは、貴族のお嬢様とは思えない獰猛な笑みを浮かべ、カードを何枚か取り出した。


「『唱板爆陣トーレンクラドッタ』!!」


 刹那、水蒸気の嵐が巻き起こった。

 俺は視界を一瞬にして奪われた。

 2日目の試合でも見た、あの技だ。

 この状態の間、こちらは迂闊に動けない。

 それは向こうとて同じではあるが、それでも向こうに準備する時間を与えてしまう。

 手痛い。だが、それは予想できたこと。

 俺も、自分の切り札を開放しよう。


「albregt qlajun, albregt trejn」


 手の先に浮かんだ魔法陣は、風を起こすもの。

 腕を振り回し、乱暴に水蒸気を払っていく。

 シルヴィーナが見えるほどになったところで、俺は手の先の魔法陣を消し去った。


「やっぱり、風を起こす魔法も使えたんですわね…って、えっ!?」


 シルヴィーナが俺を《《見上げる》》。

 それもそのはず、俺は空中に浮いていたのだ。

 足元に、空中に浮かぶ魔法陣という奇妙なものを伴って。


「なん…ですの…この魔法は…!?」

「ハハハ」


 俺は答えず、シルヴィーナに銃を向ける。

 彼女には、それが魔法陣を発するのか火の弾を発するのか咄嗟には判別できない。

 結果として、彼女は俺に攻撃するという手段を取った。


「albregt trejn」


 手のひらに現れた魔法陣をかざし、移動する。

 詠唱で手のひらに追従させた魔法陣は、この世界に来たときにも使い、そして今も足元に光っているものと同じ、重力加速度変更の魔法陣。

 体力と魔子をだいぶ消費するのが難点だが、空中浮遊にも移動にも使える優れものだ。


「よっと」


 俺は魔法陣を解除し、地面に降り立つ。

 そしてまたシルヴィーナに銃を向ける。

 未だ気圧された様子のシルヴィーナだが、それでも足元を光らせながらこちらに跳んできた。

 2日目の試合では上に跳んでいたが、今度は横向きらしい。

 飛び込んでくる彼女を、咄嗟に腕をクロスさせて受け止める。

 衝撃を殺しきれず、俺は後ろに転がった。

 銃が二丁とも俺の手を離れた。

 シルヴィーナはそれを見逃さず、銃を蹴り飛ばした。


「終わりですわ!」

「それはどうかな? albregt trejn」


 またもや力場の魔法陣に頼って、シルヴィーナを吹き飛ばす。

 その隙に俺は立ち上がり、彼女へと突進する。

 当然、彼女もカードを取り出し、魔法を発動しようとする。

 だが、わずかに俺の手がシルヴィーナに触れるほうが早かった。

 魔法は――発動しない。


「えっ!?」


 その動揺が命取りだった。

 一瞬の間に、俺は彼女の首へと腕を回し、地面に倒れ込んだ。

 そうして、見事にヘッドロックの体制が整った。

 シルヴィーナはカードを使うのも忘れ、じたばたともがいて俺の腕を抜けようとする。

 俺は拳を握り、大きく振りかぶった。

 シルヴィーナが恐怖と痛みに怯える表情をつくった。


『そこまで!!!勝者、ヒロキ・アモン!!!』


 即座に、俺は腕を緩めた。

 解放されたシルヴィーナは、腕を抜けるやいなや自分の首に手を回し、無事を確認していた。

 当然ながら、殴るつもりなどなかった。

 できればヘッドロックを極めたところで終了の合図を出してほしかったが、そうならなかったので殴る素振りを見せただけだった。


「…本当に殴られるかと思いましたわ」

「いやあ、手加減無用ってことだったんで」


 俺は頭を掻きながらへらへらと笑った。

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