47. 観戦
「ようヒロキ、奇遇だな」
後ろから降ってきた声に振り向く。
「エルジュ、いたのか。びっくりした」
「こっちもこの広い闘技場で俺の前に来るとは思わなかったよ。…ああそうだ、ジュルペに勝ったの見てたよ。おめでとう」
「ありがとう。正直疲れた」
「まあそりゃ、あんだけもみくちゃにされてたらな…」
「おまけにみんなジュルペへの文句を俺に言ってきやがるもんだからなぁ…」
「おつかれ。英雄も大変だな」
エルジュはそう言って俺を労い、視線を闘技場のフィールドに移した。
新入生対抗戦2日目。今の試合では、2人が互いに剣と盾を使って激しい攻防を繰り広げている。
「すげー…俺なんか一瞬で斬られて終わりそう」
「いや、ああいうのに限って魔道具の一撃に弱かったりするんだ。もちろん、戦闘によっては魔法よりも剣が適している場合もあるから、あいつらが劣っているわけではないけど」
「詳しいんだな」
「まあ、うちは魔道具とか作ってる家だから、そういうこともわかるようになるっていうか」
「魔道具?」
「ほら、俺はオングスティート家の人間だから」
「…あー!アーヴェニルの…」
「俺はひ孫だよ。…アーヴェニル爺と違って、ここ3代はそんなすごい成果上げてるわけじゃないから、期待しないでほしいけど」
エルジュは疲れた表情を見せた。
まあ、魔法陣改造に成功した人の一族ともなれば、世間の見る目は違ってしまうのだろう。
「安心してくれ。俺は記憶喪失だし、記憶が戻る予定もない」
「そりゃ助かる。元々うちは魔道具を作る専門だから、研究してるわけじゃなかったんだよな。アーヴェニル爺がなんというか特殊だっただけというか」
尊敬してるんだけどね、とエルジュは付け加えた。
「…えっと…その人は…どなたでしょうか…」
リーサが控えめに訊いてくる。
そういえば、エルジュとリーサを引き合わせたことはなかった。まあ入学して日も浅いし、当然だが。
「エルジュ・オングスティート。席が隣だったんで仲良くなった」
「どうも、エルジュっす。よろしく、マルティルート」
「…えっと、なんで知ってらっしゃるんですか…?」
リーサの顔がひきつった。警戒モードに入っているな。
知ってか知らずか、エルジュは平然と続ける。
「だって、ジュルペとの勝負の商品にされていたしな。知らない人のほうが少ないだろ」
「おい、さすがに人聞き悪いぞ」
「別にヒロキを貶めてるわけじゃないって。けど事実だろ。ま、ヒロキが勝ってくれたからよかったけどな」
やれやれと、エルジュは肩をすくめてみせる。
「まあだけど、その前から知ってた奴も多いと思うぞ?28組の美少女優等生、って結構有名だったし」
「びっ…!?」
リーサが固まる。
「いくらデカいとはいえ同じ建物にいるんだし、22組から42組の奴らも噂ぐらいは聞いたことあったんじゃないか?ジュルペみたく第1教室棟の連中は知らないかもしれねぇけど」
「そんな噂になってたとか、全く知らなかった…」
リーサは頭を抱えた。
「貴族連中もいるなかで一般の奴が学年20位とか取ってたら話題にもなるだろ。1700人中20位だぞ?」
「貴族に向かってそんな口調でいいのか…?」
「貴族といえばジュルペみたいなやつだったしな…あいつに印象を悪くされた貴族も可哀想だよな、ほんとに」
マジか…あいつ、貴族だったのか。
まあでも追い出されて1ミリもかばわれないところを見てると、多分そういうことなんだろう。
「それに、少なくとも学内では平等を保てってのは国王陛下直々のご命令でもあるからな。貴族だって逆らえんよ。まぁ、貴族が嫌いってわけでもないけど」
「ふーん」
今の所貴族周りの話には興味がなかったので、適当に聞き流した。
「…ん?あれ、片方魔道具だな」
「え?」
リーサが反応し、戦っている2人を凝視する。
俺もじっと見てみると、たしかに片方の手元から青い光が放たれているのが見える。
魔法陣は見えないが、多分リーサが言っていた加速の魔法陣だろう。
特筆すべきは、魔道具を使っている方が押され気味ということだ。
「魔道具相手に、ただの剣で渡り合っているの…?」
「いや、違うな」
リーサの問いを、エルジュが否定する。
「ありゃ魔道具使いのほうが未熟だ。剣術の腕はどっちも同じくらいだろうが、おそらく最近魔道具を使い始めたばかりなんだろう。ある程度は扱えるようになったから大会に出てみたものの、実際剣術に魔法がついていってないといったところか」
エルジュの辛口な評価を、俺とリーサはほうほうと頷いて聞いていた。