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俺の考えた魔法理論が異世界で使われていた件  作者: キューマン・エノビクト
第1章: 新しい生活、始まる
29/140

29. 契約

「あれ?リーサさん?」


 呼びかけると、リーサはハッとしたような表情をしたあと、真剣に問いかけてきた。


「…その魔法陣に線を足して、射程距離を伸ばすには?」

「うーん…力場を強めるかな…外側にもう一つ環を足して、こことここを繋いで…でも待ち時間は伸びるな、2秒くらい」


 指で追加すべき線をなぞる。売り物だから掘れないが、やろうと思えばできなくはない。


「どうしてそうなるのか、説明できる?」

「単純な話だよ。魔素が回転する流れを作ることで、一定方向の力場ができる。それを、環を増やすことによって重ね掛けして強めるだけ」

「…そんな細かい単位での話、聞いたことない」

「まぁ、この世界ではそんなに魔法陣工学が発達してなさそうだなとは思ったけど…細かい単位ってどういうことだ?」

「魔法陣は、効果を発動させる意味の塊というのが一般常識。その塊同士をつなげるのは、ほぼ不可能に近いことだと言われているの。そもそも、魔法陣は前文明の遺跡から掘り出してきたものをそのまま使うのが普通。組み合わせるというのを思いつくこと自体普通じゃない」

「…なるほどね、道理でなんか変な魔法陣だと思った。これは力を発生させる魔法陣に無理やり火起こしの魔法陣を組み込んだんだな」


 たしかに機能はする。しかし非効率的。

 魔法陣の中から魔素が抜けるのに数秒かかる。魔素を逃がすルート…言わば電気回路における接地アースのようなものが、この魔法陣にはない。

 まるで、素人がネット上のサンプルプログラムをコピペしてなんとか繋いだような、歪な魔法陣プログラム

 理論《文法》を知らない人間には、まともな魔法陣作り(プログラミング)はできない。…それでも試行錯誤を繰り返せば、できてしまうことはあるが。


「この2つを組み合わせた人は120年前の人なんだけど、偉人として伝わってる」

「まあ、何も知らずに組み合わせ続けて偶然ちゃんと動くものを作れたっていうのはある意味すごいよな…俺には真似できねえ」

「それはそうだけど…でも、元を辿れば結局、前文明から発掘されたもの。今の文明に、オリジナルの魔法はないと言っていい。前文明からたくさん魔法陣が発掘されたおかげで、今の魔法に支えられた文明がある、それは認める。でも、前文明に頼り切りじゃ、これ以上は進めない」


 熱のこもった演説に、俺は舌を巻いていた。

 何がリーサをそこまで駆り立てるのかは知らないが、彼女が文明を押し進めんとしているのはよく伝わってきた。


「だから、わたしは研究がしたい。ヒロキの持ってる魔法の知識を使うのはちょっとズルいかもしれないけど…」

「いや、せっかく与えられたズルだ。ありがたく不正させていただこう」


 リーサを遮り、口を挟んで肯定する。


「持ってる手段は使わなきゃ損だろ?」

「…そんな悪そうな顔もできるのね…」

「え、俺そんな顔してたか…まあいいや。それに加えて、リーサならなにか俺が考えもしなかったものを作り出してくれる気がするんだ」

「わたしが?」

「リーサみたいに熱意に溢れている人に、《《俺の》》魔法理論を教えてみたい」

「俺の…?」


 リーサが首を傾げる。


「すまん、俺はまだ一つリーサに嘘をついていた。魔法は俺のいた世界のものじゃない。俺のいた世界に、魔法は存在しない」

「えっ、嘘!?でも、じゃあ、ヒロキの魔法の知識って…」

「魔法の理論は、俺が作り上げた。元々は、もし自分の世界に魔法があったらこんなものなんだろうなって妄想するためのものだったけど、まさかこうして現実になった世界に飛ばされるとは」


 今度こそ驚きで口を大きく開けたまま固まるリーサに、俺は向き直った。


「俺は魔法理論に詳しいんじゃない。知ってるんだ。自分で作り上げたものは全て知ってる。それでも、理論だけだ。現実に動くものなんて作れなかったしな。だからこそ、実際に動かせる世界で、何が作り上げられるのか見てみたい」

「…すごい。まるで神様みたい」

「神か。言い得て妙かもな」

「認めるんだ」

「謙遜することでもないしな」


 二人して小さく笑いをこぼす。


「ま、そういうわけだ。俺は教えたい、リーサは教わりたい。互いに利益があると思わないか?」

「言うまでもない。乗った」


 リーサの差し出した手を取り、固く握り合う。


「わたしは、この世界を変えたい。いろいろ質問するから、覚悟しておいて」

「無論だ。それじゃあまずは…」

「まずは…?」

「…この魔道具を買って、依頼を受けに行こうか」


 場の雰囲気が思い切りぶっ壊れ、リーサがずっこけた。

 世界を超えても共通のリアクションに目を細くしながら、俺はレジに向かった。

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