27. お買い物
「それじゃあ、先に服見に行こう。いいお店知ってるから」
土地勘がない俺は、素直にリーサのあとについていった。
途中、古着を売っている露店があったが、リーサはそれをスルーして進んでいく。
「アレじゃダメなのか?」
「別にダメとは言わないけど、ああいうのは安かろう悪かろうだからね。わたしが行くところは古着もちゃんと修理してくれるし、破れた服を持っていったら直してくれるの」
「サービスが充実してるんだな。値段も高そうだが」
「少なくとも、ヒロキが買えないほどじゃないから大丈夫。わたしは一度買ったら何度も直してもらうけど、それならわたしの稼ぎでもなんとかなるし」
よく見ると、たしかにリーサの服にはところどころ縫った痕が見える。
言われて見てみるまで気づかなかった。腕の良い職人がいるのだろう。
「着いた。ここだよ」
リーサはそう言って店内に入っていった。
俺も後を追う。
店にはわりとたくさんの古着が吊るされていた。
目を凝らせば修復された跡が見えたが、そうでもしないと見えないということは本当に質がいいのだろう。
そのかわり値段も上下合わせて1セットあたり700ガットほどする。
この中世みたいな世界基準で考えると安いが、数着ほど買わないといけない俺にとっては決して安い出費ではない。
「いらっしゃい…お、リーサちゃんか」
「こんにちは、オーヴァレングさん」
人の良さそうなおじさんが店の奥から出てきた。
「またどっか引っ掛けたのかい?あんま茂みに入りながら戦うのはやめたほうがいいと思うぞ、修理代だってあるんだし」
「わたしはそれしかできないし、貯金はできてるからいいの…って、そうじゃなくて、今日は新しい客を連れてきたの」
「ほう?」
オーヴァレングさんは顎に手を当てながらこちらを見やる。
「…なんだその服。見たことねえな」
視線が急に鋭くなった。優しそうな表情はどこへやら。
ちょっと怖くて後ずさってしまった。
「どこで入手したんだ?」
「それが、覚えてないんです…記憶喪失で、気づいたときにはこれを着ていました」
「ふーむ…その服、できればワシに売ってくれんか?」
「へ?」
予想だにしないその問いに、俺は変な声を上げてしまった。
「ワシはな、その質の高い服を研究したい。もちろんそれなりに金は出す」
「そうですね…ここの古着、上下2セットと交換でどうですか?」
「…良いだろう。好きなのを持ってきな」
俺はリーサにいくつか似合いそうな服を見繕ってもらった。
ファッションに1ナノたりとも興味がない俺が選ぶと確実に大事故を起こすし、そうでなくともこの世界での常識的なファッションを選べるとも思えない。
まあ寝間着はどうでもいいんだけど…
何度か試着を繰り返して、ようやく決まった普段着2つと寝間着2つを持っていく。
「割と買うんだな」
「今までこれ1着しかなかったんで…」
「なるほどな。2つ無料にして…2180ガットだ」
支払いを済ませて、試着室で普段着を着用する。さすがに下着は勘弁してもらったが、また別のところで買う必要があるだろう。
俺を一瞥したリーサは満足げな表情で頷いた。
「うん。似合ってる」
「助かった。これなら動きやすいし依頼もこなしやすそうだ」
「依頼受けに行くのか?服に穴開けちまったら持ってきな、直してやるから」
「き、気をつけます…」
微妙に噛み合ってないような返しをして、俺は店をあとにした。