21. お持ち帰り
ウサギたちには体内魔素流乱しはキツかったらしく、どうやら7匹全てがショック死していたようだった。
「ごめんな…でも、俺も生きなきゃいけないんだ。来世では赤魔法使いの魔族にでもなってくれ」
「獲物に対して律儀だな」
「こうでもしないと、俺みたいな平和ボケした人間は罪悪感を感じてしまうからな。いずれこうやって狩りを続けて罪悪感を感じなくなるまでは、こうするつもりだよ」
「…なるほどな」
ガルゼも俺のように手を合わせた。
「それじゃあ、持って帰るか。…つっても、袋がないわけだが…」
「俺が持っておくよ。そのかわり報酬の半分は俺のな」
「元からそのつもりだよ、わざわざ護衛として来てもらってるんだし」
「ヒロキお前…良い奴だな。ところで、話は変わるんだが…さっきのアレはなんだ?」
「理屈としては、昨日ガルゼを倒したのと同じだよ。生物の体内には魔素の流れがあるんだ。それこそ血が流れてるように。それを外から乱してやると、ああなる。魔族なら離れててもできるんだ。みんな知らないだけで」
「へぇ、便利な技だな。…そしてヒロキ、お前は不思議なやつだな…」
「俺もそう思うよ。俺はなんでここにいるんだろう」
今の所は答えが出そうにない問いを空中に発しながら、俺たちはギルドへと戻っていった。
「…魔物化したアルスレーウサギを、7体も?」
「え、これ全部魔物化してたんですか?」
「そうですよ。目が青くなってるでしょう?本来のアルスレーウサギは目が赤いんですよ」
ガルゼの方を向くと、さっと目を逸らされた。
本当は依頼書に書いてあったに違いない。
「…で、これはどこから入手してきたものですか?」
「え?普通に倒してきたんですけど」
「…いくら3級冒険者と同行したからって、7体も同時に倒せることはありませんよ。それにガルゼさんは遠距離攻撃を得意とするタイプではないでしょう」
「まぁ、そりゃそうだが…」
「えーと…つまり、俺、疑われてます?盗難とか」
「少なくとも、この状況下ではそれを疑わざるを得ません」
チッ、と鋭い舌打ちが横から聞こえてきた。
恐る恐る横を向くと、ガルゼが青筋を浮かべていた。
こっわ…昨日はともかく、今は敵じゃなくて本当によかった。
「俺も見たんだがなぁ。ヒロキがウサギ共を一発で倒すのをよ」
倒置法って人を脅せるんだ。初めて知った。
いや、この世界の言語が実際に倒置法になってるのかは知らないけど。
「それを証明できるものはありますか?」
「物的証拠はねえが、ヒロキならすぐにでもできんじゃねえか?」
「え、実演すんの…?」
「しょうがねえだろ。このままじゃ犯罪者にされちまうぞ」
「はぁ…」
前途多難とはこういうことを言うのだろうか。
とりあえず、仕方ない。
「殺してもいい動物を2体以上用意してください。人間以外で。あと、できればあまり見せたくないので必要最低限の職員だけに留めてください」
「…第4訓練場のカウンターでお待ちください」
受付嬢は後ろへ引っ込んでいった。
「…俺が言えたことじゃねぇけど、災難だな」
「本当だな。…悪い、第4訓練場とやらに案内してもらえるか」
「わかった」
歩きだしたガルゼのあとを、俺は少し早足で追った。