134. 赤魔法開発 #5
男だらけの部屋にマーリィ先輩を招き入れて赤魔法開発を行うわけにもいかないので、俺は女子3人がいる部屋へと出向いた。
「……」
部屋は静寂に包まれていた。
ベッドにちょこんと座ったマーリィ先輩の顔が真っ赤なのを見ると、何をやるかはもうリーサあたりから伝えられているらしい。
自分の口で伝えるよりは抵抗がなさそうで、正直助かった。
「…よろしく、お願いします」
いつも静かな口調のマーリィ先輩が、いつにもまして静かになっている。
声が小さくて、部屋が静かじゃなければ聞き取れなかっただろう。
俺は、マーリィ先輩の背後に回り、ベッドの上に乗った。
「それじゃあ…服を、脱いでください」
マーリィ先輩は、シャツの裾に手をかけ、そして持ち上げた。
そのまま脱ぐと、白く細い背中が顕になる。
俺やリーサたちよりも幼いように見えて、実のところ年上の彼女。
その滑らかな肌に、手のひらを置いた。
「…ん…」
マーリィ先輩が心臓を鳴らしている。
リーサの時もかなりドキドキしたものだが、これは2回目だ。
一度深呼吸して、体内魔素流との同期を開始する。
「先輩、深呼吸です。落ち着いて、なるべく動かないでください」
下手に動いてしまうと体内魔素流乱しと同じ結果を招いてしまうからだが、その説明は今は省くことにした。
リーサとシルヴィが緊張の面持ちでこちらを見つめている。
「…今から、見本をやります。それと同じ感覚を掴めば、赤魔法が使えるようになるはずです」
体内で、水ベースの魔素を魔子と水分子に分解し、純粋な魔子を放出して窒素と結びつける。
その感覚を、マーリィ先輩の体内で再現する。
「今の感覚が、赤魔法を使う感覚です。試してみてください」
「うん。…えっと…」
「魔法陣なら、これを使うといいですわ」
シルヴィが魔法唱板をスッと差し出した。
溝が直接掘られている、少し古い方のものだ。
「光を発するだけの魔法陣ですわ。実害はないはずですの」
シルヴィは魔法唱板を受け取ると、そっと指先から魔素を放出し始めた。
「…あ、できてる…!」
溝に赤い光が灯った。
「よかった、これで――」
次の瞬間。
部屋は眩い光に包まれた。
「わっ!?」
「ぐぇっ」
驚いて仰け反ったマーリィ先輩に強かにぶつかられ、俺はベッドの外に転がり落ちた。
「ヒロキっ!?」
リーサが俺を引っ張り起こしてくれたようだが、何も見えない。
視界がクラクラして方向感覚すら失いそうだ。
「ヒロキ、今マーリィ先輩に服を着せますから、見ちゃいけませんわ」
「み、見えねえって…」
立ち上がろうとしたが、地面が見えない状態ではバランス感覚が狂う。
結果として、俺の体は大きく傾き――
「きゃあっ!?」
「うおっ…」
リーサにぶつかって、ベッドに倒れ込んでしまった。
しかも、リーサを下敷きにして。
「うぅっ、ヒロキ、重いっ…」
「わ、悪い、今どくから…」
慌てて体を起こそうとして、手をベッドに突く。
…突こうとした。そうしたら、別のところを触ってしまった。
「ひゃっ!」
部屋の中で、何度目かもわからない声が上がる。
…どう考えても、この手はリーサの体を触っている!
「も、もう動かないでいいから!とりあえず、見えるようになるまで待って!」
「…すまん…」
リーサに支えられつつ意気消沈していると、だんだん視界が回復してきた。
「……」
俺が掴んでしまっていたのは、リーサの肩だった。
ちょうど、俺が押し倒した形で、リーサと目が合っている。
「――っ」
リーサと俺の顔が沸騰したのは、多分同時だった。
俺は急いで離れた。
「ご、ごめん!」
そして、そのまま部屋を出て男部屋に逃げ帰った。