隠しキャラルートに入りたかったヒロインが逆ハーレムを築いたらしいけどその隠しキャラ、私です。男装王女ですけどよろしくね。
隠しキャラルートに入りたかったヒロインが逆ハーレムを築いたらしいけどその隠しキャラ、私です。男装王女ですけどよろしくね。
「やっとお会いできましたね、アレックス様…!」
そう言って目を輝かせるのは男爵令嬢、ルイーズ・ロアン嬢。この“乙女ゲーム”の世界のヒロインだ。
「はじめまして、ご機嫌よう。貴女のような美しいご令嬢にお会い出来て光栄です」
「まあ!そんな、美しいなんて…!」
頬を赤く染め、恥じらう姿は実に可愛らしい。“私のルート”に入るためだけに、数々の高位貴族を誑かそうとしたとは思えないほどに。
「ルル…ルルはアレックスが好きなのかい?」
兄である王太子、ジュール・ド・ブルボン兄上がルル嬢にそう聞く。でもルル嬢に向ける目はかなり厳しい。兄上、もうちょっと抑えてください。ばれてしまうではないですか。
「ええ、そうなの…だから、みんなの気持ちには答えられないわ…ごめんなさい」
申し訳なさそうに俯くルル嬢。それすらも演技だとわかっているが、それでも思わず心が揺さぶられる。ふと私のつけているピアスが揺れる。…魅了魔法か。魅了魔法を解くピアスをつけていてよかった。
「いや、いいんだ。ルルが幸せになれるなら、僕はその恋を応援しよう」
やや引き攣った表情でそういうのは魔術師団長令息、クレモン・レニエ。仮にも魔術師なんだから、もっと頑張って表情を作ってほしい。
「ルル、お幸せに」
そう無表情に伝えるのは騎士団長令息、ライアン・ルテル。まあ、彼の無表情はいつものことなのでばれはしないだろう。
「ルル、それなら私達はルルの恋を応援し、婚約者とは婚約破棄しないよ。それでいいんだね?」
にこにこしながらそういうのは公爵令息、テオ・モンペザ。にこにこ笑顔に圧を感じるんだが…。
「ええ、私、アレックス様と添い遂げたいの!」
私は魅了魔法にかかっていないんだがなぁ。なんでそんなに自信満々に相思相愛だと思い込めるのか。
「そうか、いやいや、ルルが幸せになれるならよかった」
そう笑顔を顔に貼り付けているのは裕福な商家の令息、ノエ・ポワティエ。さすがサービススマイルが得意だね。
「アレックス様…私、アレックス様が好きなんです!私を婚約者にしてください!」
にこにこと愛嬌のある顔で私に擦り寄るルル嬢は、たしかに可愛らしい。私が“男なら”魅了魔法なんてなくても堕ちていただろうな。
「…もちろんいいとも」
私も、この日の為に色々と準備してきたのだから。
ー…
私は、第二王子アレクサンド・ド・ブルボン。前世で日本という国の平民だった。そして、女だった私は、乙女ゲームという遊戯に嵌っていた。そして、私は突然前触れもなくトラックに轢かれて死んだ。私は気が付いたら赤ん坊になっていた。前世の記憶を持ったまま転生した先は、あの乙女ゲームの世界に酷似した世界だった。ただ一つ。隠しキャラである第二王子が私であり、私は男装王女であること以外は。
男装王女であるのには、意味がある。この国では、ある魔女の呪いで王家の女児は早死にするのだ。だから、王女はその対抗策として男として育てられる。
さて、この乙女ゲームではいくつかのルートがあり、もっとも攻略対象者達とその婚約者達が泣くのは逆ハーレムルートだ。逆ハーレムルートはその名の通り逆ハーレムが形成され、婚約者達は婚約破棄される。だが本当に可哀想なのはここから。逆ハーレムルートに入ったらその後、とある分岐で隠しキャラ、第二王子が現れる。そしてヒロインが第二王子を選ぶと、他の攻略対象者達は振られて、それでも健気にヒロインの幸せを願うのだ。
誰だよこんな最低なルート考えたの。まあ逆に、お陰で助かったけれども。
私はどうにか誰も泣くことがない結末を迎えたかった。だからヒロインのことを調べた。この乙女ゲームのヒロイン、ルイーズ・ロアンは魅了魔法持ちだった。そして、逆ハーレムルートのその先、私のルートを求めていることがわかった。王家の影は優秀で助かる。
だから私は、兄をはじめとして攻略対象者全員に魅了魔法を解くピアスを渡した。そして、将来ピンク頭の少女が誘惑してくるでしょうが適当に相手をして魅了魔法にかかったフリをしてください。もちろん婚約者達には事情を説明してください。大丈夫、最終的に私と婚約したがりますから。と伝えた。
その結果がこれである。これで攻略対象者達が泣くことも、その婚約者達が泣くこともない。…まあ、ヒロインは泣くだろうけれど、私のルートに入るためだけに兄達を誑かそうとした罰だ。
「私、幸せです」
「私も貴女のような可憐な花を愛でられて幸せだよ」
さあ、仮初めの幸せを楽しもうじゃないか。いつまで持つかわからないけれどね。
ヒロイン以外みんな幸せ