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あたしのパパは高校二年生  作者: 聖場陸
魔法探偵シャルエッテ編
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第11話 少女たちの決意

「…………」


 夕食後、白鐘は自室に戻ってPCのオンラインFPSファーストパーソンシューティングをプレイしていた。このゲームは彼女のストレスが溜まった日に、解消用にプレイするためのものではあったが、その実力はやはり凄まじく、一週間に二、三日ほどのプレイ数であってもランキング入りするほどであった。


「……っ!」


 しかし、今日に限っては思うように操作できていないのか、彼女の使うキャラはほとんどの敵プレイヤーをキルできず、逆にキルを取られてしまうばかりだった。ゲーム内でのチャットでも、そんな彼女を心配する書き込みが多くなる。


「……だめ、今日は集中できないや」


 ため息をつきながら、ヘッドホンを外してPCの電源を切る。夕食前にかかった一本の電話から燻り続けてきたモヤモヤは、今もなお彼女の心臓を締めつけるように、ねっとりと纏わり続けていた。


 結局、あの後も諏方から追求されるような事は特になく、夕食は重い空気のまま、無言で淡々と進んでしまった。時折挟まれるシャルエッテの味への感想も、どことなくぎこちのないものとなってしまっていた。


「…………」


 頭を切り替えようとはするも、白鐘の脳内に思い出される映像は、まだ幼い少女の屈託のない笑顔ばかり。


 あれから少女の母親からの再度の連絡はない。それはつまり、少女はまだ家に帰れていないという事を意味しているのだろう。


 ――彼女が今どこに消えてしまったのか。考えるたびに、心臓はさらに強く締め付けられてしまう。


「……もう寝よ。明日になってから、どうするかまた考えよ」


 この心境のままでは何をすべきか判断できないと、白鐘は一旦眠る事を選択する。その時――、


 トントン――。


 部屋の扉からノックが聞こえた。


「っ……!?」


 不意を突かれる形でのノック音に、白鐘は思わず身構えてしまう。


「――シャルエッテです。……入ってもよろしいでしょうか?」


「っ……。いいわよ」


 すぐに聞き慣れた少女の声がして、白鐘は安堵の息を吐いた後、居候少女の入室を許可する。


 恐る恐ると入ってきたシャルエッテは、白鐘から借りた白のパジャマを着ており、両手で大きめの枕を抱きしめていた。


「……ちょっと、怖くなっちゃいまして……今夜は一緒に寝ても大丈夫でしょうか?」


 何かと思えば、まるで怖いテレビを観た後の幼子おさなごのような提案に、白鐘は思わずクスりと笑ってしまっていた。


「もう! 笑い事じゃないですよー」


「アハハ、ごめんごめん。……さっきまで気が張ってたから、ついね。……いいわよ、今日は特別に、白鐘お姉さんが一緒に添い寝してあげましょう」


 ――「と言っても、ベッドは一人用だからねぇ」っと、白鐘は泊まりに来た友人(主に進)用の敷布団を準備する。


「ごめんなさい、お手数おかけしちゃいまして」


「いいのよ。……本音を言うと、あたしもちょっと心細かったしね」


 ベッドの横に布団を敷き終えた後、白鐘はベッド、シャルエッテは布団にそれぞれ寝そべる。


「えへへ……誰かと一緒におやすみするのは久しぶりなので、ちょっと楽しいです」


「そうなんだ? お師匠様って人と一緒に寝てたの?」


「いいえ。……私と同じ、お師匠様の弟子の皆様とですね」


「へー、お弟子さん、シャルちゃんだけじゃなかったんだね?」


「はい。私を含めて、お師匠様のお弟子さんは三人いるのです。……私と違って、他の二人はとても優秀なのですよ」


 その言葉は誇らしげにも、少し悔しげにも言っているように、白鐘には聞こえた。慌てたように、彼女はいつもの満面の笑みを浮かべて、


「でも! この人間界で修行を積んで、向こうに帰る頃には立派になった姿をお師匠様たちに見せたいのです! ……私がお師匠様に、この世界に送られたのもちゃんと理由があるのだと、私は信じているので……」


「そっか……」


 いつも天真爛漫な彼女にも、いろいろと抱えているものはあるのだろうと、白鐘はこれ以上かける言葉が見つからなかった。


「……シロガネさん。実は一つ提案があるのですが、聞いてもらえるでしょうか?」


 急にシャルエッテの表情が真剣なものに変わり、白鐘も無言で頷く。


「これはまだ確証のない事なのですが……ユキちゃんさんや行方不明になった女の子たちは多分、魔法使いにさらわれたのではないかと思うんです」


「っ――!?」


 彼女の口から出た言葉に、白鐘は驚きで目を見開く。


「……どうして、そう思うの?」


「……ユキちゃんさんが言っていた『路地裏の魔女』という人物。どうしてもこの名前に引っ掛かりがあってしまうのです。……ただ先程も言ったように、確証のあるものでは決してありません……」


 そこまで言うと、急にシャルエッテは上半身を起こして、ベッドの上の白鐘をまっすぐに見つめる。


「シロガネさん! ……もしよければ明日二人で、ユキちゃんさんたちを捜索しませんか?」


「っ! シャルちゃん……」


「私、悔しいんですっ……! あの子がちゃんと家に帰るまで見守ってあげていたら、こんな事にはならなかったんじゃないかって……! それに……もしかしたら魔法使いの仕業かもしれないと思うと、同じ魔法使いとして絶対に許せないんですっ……!」


 本当に悔しそうに声を上げるシャルエッテの瞳には、涙が溢れていた。


「っ…………」


 彼女も同じ思いを抱いていたのだと、安心感と心強さを得ると共に、彼女は自分より前を向いて、事態を解決しようと決断していたその強さに、白鐘はほんの少しの羨ましさを感じた。


「……あたしも、このまま何もしなかったら絶対に後悔するし、何より、夕紀ちゃんのことが心配なの。……あたしに何かできることがあるかはわからないけど、こちらこそ一緒に協力させて、シャルちゃん……!」


 白鐘はそう言って、シャルエッテの拳を両手で握り締める。


「っ……はい! シロガネさんが一緒にいてくれるだけで、百人力です!」


 少女たちは互いに笑顔を向けながら、心の中に強く決意を抱いた。


「……それじゃ、明日の英気を養うために、今日はもう寝よっか?」


 白鐘はシャルエッテの拳から手を離すと、部屋の電灯の紐に手をかける。


「その……スガタさんには、本当に黙ったままでよかったのでしょうか?」


 ふいの問いかけに、白鐘の心臓はまたも締め付けられたかのように痛みだす。


 本当は父に相談するべきだと、白鐘もわかってはいた。だが父に相談すれば、危険だからと今回の事態から引き離されてしまう事を、彼女は恐れていた。


 ――それ以上に、父がある目的・・のためにバイトしていることを知っていた白鐘には、今回の事態に巻き込むことに気が引けていたのだ。それに、今回の事で父がまた危険な目に遭う可能性があることが、白鐘には何よりも嫌なのだ。――自分を守るために、傷ついた父の姿をまた見てしまうのが、白鐘は何よりも嫌だったのだ。


「……今回の事はあたしにも責任があるし、できればお父さんは巻き込みたくないの……」


「……わかりました」


 白鐘のその言葉に、どれほどの決意が込められていたのだろうかと思うと、シャルエッテもこれ以上は諏方について触れないことにした。


「……それじゃあ、おやすみ、シャルちゃん」


「はい……おやすみなさいです、シロガネさん」


 電灯の紐が下ろされ、明かりが消えて部屋は暗闇と化す。


 二人はそれ以上、互いに言葉を交わさずに床へと入り、子供たちを助ける決意を胸に、静かに瞳を閉じた。


   ○


「それじゃ、バイト行ってくるぜ。二人とも、今日は出かけないんだろ?」


「……うん。今日は二人で家でのんびりしてるから、心配しなくていいよ。ほら、行った行った」


 翌朝の日曜――玄関前にて、バイトへと向かう諏方を、二人の少女が見送りにきていた。


「んだよー、そんな犬を追っ払うような見送り方ってあるかよ? ……昨日はああ言ったけど、やっぱり心配してんだぜ?」


「……ご心配なく。あたしもシャルちゃんも、特になんも悩んでる事なんてないから。ねっ、シャルちゃん?」


「ふえ!? あっ、はい! 何も心配事はありませんよ、スガタさん!」


「……まあ、ならいいけどさ。なんかあったら、バイト中でもいいから連絡くれよ?」


 普段通りのクール顔の白鐘と、どこかソワソワしている感じのシャルエッテに訝しげな視線を送りながらも、バイトの時間までにあまり余裕のなかった諏方はモヤモヤを一旦胸に仕舞いつつ、玄関を駆け出して行った。


 すぐ後にバイクに乗ったエンジン音が遠ざかるまで、白鐘とシャルエッテは玄関前に立ち続け、互いに顔を見合わせて頷き合う。


「……それじゃあ、夕紀ちゃんたちを探しに出かけるよ」


「了解です。あっ! ちょっとお待ちいただけますか?」


 そう言うと、シャルエッテは手から彼女のケリュケイオンを出現させ、それを高く掲げたまま一回転し始める。


「ディテクティブ・メイクアップ!」


 掛け声と共に、シャルエッテの身体が光に包まれる。しばらくして光が消えると、彼女の服装はリリカル・ドイルと同じ、ピンク色の探偵服へとチェンジした。


「どうですか!? アニメを何度も見返し、ついに変装魔法にてリリカル・ドイルの衣装を再現できるようになりました! この衣装で、一緒に事件を捜査しましょう! 白鐘さんにも着せられますけど、いかがですか!?」


 期待たっぷりキラキラ笑顔のシャルエッテに対し、白鐘はこれまでにないくらい冷たい眼差しを向けながら、


「遠慮するわ。あと、恥ずかしいからその服装で出歩かないでね」


「ふえぇ! 何でですかぁ!?」


 ――この調子じゃあ、思った以上に前途多難な捜索になりそうだなぁ……っと、白鐘は頭を抱えながら、不安と呆れが入り混じったため息を大きく吐き出したのだった。

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