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あたしのパパは高校二年生  作者: 聖場陸
魔法探偵シャルエッテ編
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第4話 黒澤白鐘のファッションチェック

 原宿の竹下通りに入って数分。様々なファーストフード店や喫茶店、アパレルショップが並び立つ中、その中でも比較的狭めの建物に三人は入店する。


 店内に入ると、見た目よりは広めの空間ではあったが、壁沿いにギッシリと並ぶ陳列棚はもちろん、店内のほとんどを服を立て掛けるハンガー什器じゅうきが占めており、それぞれ多種にわたるジャンルの衣服が並べられていた。照明も暗いためか、他の店のようなおしゃれな雰囲気はそこにはなく、どちらかといえばアンダーグラウンドチックな空気が店内には流れていた。


「そのぉ……改めてなんですけど、やはり私のためにお洋服を買っていただけなくても、大丈夫ですよ?」


「なーに? ここまで来て、まーだ遠慮してんのかい、留学生ちゃん?」


「それもあるんですが……こういうお店の服とかって、着たら呪われたりしません……?」


 怯え気味に震えているシャルエッテの言葉に、ポカーンとする進。


「ああ……シャルちゃんって、ホラー苦手だから」


 白鐘からの説明を聞いて進は納得すると同時に、悪意の篭った笑みを見せる。


「……実はこのお店、好きな服を着れずに死んでいった女の霊が――って痛っ!」


「普通に営業妨害だからやめなさい」


 白鐘の渾身のチョップを受け、進は頭は抑えながらうな垂れた。


「でっ、どうする、シャルちゃん? お店変える?」


「あっ、いえいえそんな! ……そもそも私、今まで魔法界で生活していたものですから、こういう煌びやかなお洋服は似合わないのでは……」


「ん? マホウカイ?」


 訝しげな表情を浮かべる進を見て、あっ、とシャルエッテは口を押さえる。


「あー……シャルちゃんが住んでる街の名前ね。――それより何度も言うけど、シャルちゃんだって女の子なんだから、おしゃれの一つもできなきゃダメだよ?」


「そうそう。シャルエッテちゃん、素材はいいんだからもったいないよ? 綺麗で長めの茶髪に、天真爛漫さがそのままに出てる可愛らしげな童顔。……そして何より、そんな幼げな見た目とは激しいギャップを生み出すほどの巨乳おっぱい!」


「おい、なんでこっち見ながら言った? ていうか、あたし(Cカップ)よりあんた(Bカップ)の方が小さいんだからね!」


「……ふふん。陸上女子にとって、おっぱいなんて邪魔な荷物なのだよ……」


「血涙流しながら言わないでもらえる?」


 ひとしきり進とのコントを繰り広げた後、白鐘は目の前で不安げな表情をするシャルエッテの心を和らげるように、優しげな笑みを向ける。


「ほんとはあたしたちに遠慮してるだけでしょ、シャルちゃん?」


「……それは」


「なーんだ。シャルエッテちゃんって、普段元気っ子なくせに、変なところで気使うんだね?」


 一方の進も、爽やかな笑みでシャルエッテの肩を叩いた。


「だーいじょうぶ! アタシたち、別にお金に困ってるわけじゃないし。シャルエッテちゃんがどこの国から来たかはよくわからないけど、せっかくお友達になったんだし、一緒にオシャレして遊びたいじゃん?」


「ススメさん……」


「進もこう言ってるんだし、友達の好意は素直に受け取っていいんだよ、シャルちゃん? あなたが頑張ってるの、一緒に住んでるあたしはよく知ってるし、こういう時ぐらいは甘えていいんだから」


 友人となってくれた二人の少女の純粋な善意を受け、先程まで不安げだったシャルエッテの表情も、元の天真爛漫な笑顔に戻った。


「はいっ! ……っと言っても、服装に疎いというのは本当で、これだけ種類が多いと何を選べばいいものか……」


 この店は白鐘と進の行きつけであり、あらゆるジャンルの衣服が所狭しと並べられ、この店一つで大抵好みの服は揃えられる。品揃えに関しては原宿の中でも随一であるものの、店の雰囲気はおしゃれ好きな女性たちからは忌避されてしまい、必然、この店の空気が楽しめるマニアか、とりあえず何でもいいから服を買いたいという人が、主な客層となる。


 基本的な服装がローブしかない魔法使いにとっては、この手の店はまさに未開の地。シャルエッテにとっても、店内に並べられた商品の全てが、初めて目にするものばかりだった。


「……となると、あたしたちがある程度選んだ方がいいわね。何がいいかしら?」


「はいはーい! ここでシャルエッテちゃんを使って、ファッションショーを開催したいと思いまーす!」


 勢いよく手を上げたのは、やはり進だった。


「さっきも言ったけど、シャルエッテちゃん素材はいいんだし、せっかくだからいろんな服を着せて、その中から似合うと思ったやつを買ってあげようよ?」


「えっ……ええ!?」


 突然の彼女の提案にシャルエッテは戸惑い、白鐘は呆れ気味にため息を吐く。


「それ、あんたが着せ替えごっこしたいだけでしょ?」


「そうとも言う! 服を選ぶのはアタシがやるとして、白鐘には審査員をお願いしたいなぁ?」


「シ、シロガネさんは、もちろんやらないですよね!?」


 進の言っている事の半分近くはわかっていないものの、嫌な予感だけはビンビンに感じ取れたシャルエッテは、白鐘に助けを懇願する。


「はぁ……まったく、仕方ないわね」


「シロガネさぁん……!」


「あたし――ファッションには厳しいからね?」


「シロガネさあん――!?」


 珍しく、なぜかノリ気になっている白鐘。


「……でっ、でも! お店の中で騒がしくするのはご迷惑じゃ……」


 助け舟を求めようと、今度は近くにいた女性店員に視線を送る。


「面白そうだからオッケーです」


 店員までなぜかノリ気だった。


「さあ! おとなしく試着室の中で待機しようねえ。大丈夫大丈夫。おじさん、悪いことしないから~」


「はっ、はうううう」


 さっと何着か服を手に持った進と共に、強引に試着室に放り込まれたシャルエッテ。


「はうう……これ着るんですか?」


「だいじょーぶ。似合うって、絶対」


「わっ、わかりましたから! 自分で着ますから! ちょっ、そこ触っちゃダメです!」


「ふふふ~、よいではないか、よいではないか」


「すすめー、調子に乗ると通報するわよ?」


 親友のハチャメチャっぷりに呆れながらも待つこと数分。小さく開いたカーテンから、先に進だけが出てきた。


「レディース・アーン・ジェントルメーン! これよりー、シャルエッテ・ヴィラリーヌちゃんのファッションショーを始めまーす! 審査をしてくれるのはもちろんこの人、我がレジェンドフレンド(心の友)、くろさわーしろがねー!」


「わー、いい感じにバカっぽいよー、すすめー」


「さあー、棒読みで素敵に罵られたところでー、さっそく参りましょー! エントリーナンバーワンはこちら!」


 バッとカーテンが開かれると、服装を変え、恥ずかしそうにモジモジしているシャルエッテの姿が出てきた。


「まずは定番中の定番! 大人を演出するグレーのブラウスに黒のロングスカート! ロリータフェイスと大人な服装のギャップに、道行く人はメロメロだぁー!」


「は、はうぅ……」


 初めて着るタイプの服に少女モデルは戸惑い、恥ずかしさで頬を赤らめてしまう。


「審査員の白鐘氏、いかがでございましょうか!?」


「……はぁ」


 白鐘はやはり呆れたように、ため息を一つついた。


「あはは……やっぱり似合わないですよね、シロガネさん?」


「…………ありね」


「はい?」


「普段の子供っぽい雰囲気イメージを打ち壊すような、落ち着いた大人っぽさがよく出てる。進の言う通り、ギャップ萌えの魅力を引き出しつつ、茶色のセミロングヘアーが上手い具合に違和感を打ち消してくれてるわ」


「けっこうノリノリですね!?」


 カッと見開いてシャルエッテを見つめる瞳は、さながらのプロの評論家の如く、まさに真剣そのものだった。


「にひひ~、白鐘、ゲームと同じくらいファッションにもうるさいからねぇ。それじゃ、どんどん参りましょうか!」


「えー!? まだ続けるんですかぁ!?」


「あったりまえでしょ? ほらほら、文句言わずに次のに着替える!」


 再び試着室のカーテンが閉められ、また待つこと数分。


「お待たせしました! エントリーナンバーツーはこちら!」


 カーテンが開かれ、先程とはまたおもむきの違う服を纏ったシャルエッテが出てくる。


「お次はピンクの花柄ワンピース! どストレートにロリータファッションで攻めてみました!」


「うん……花柄ワンピースは王道ではあるけど、ちょっと古臭さも感じて、あまり現代的なファッションとは言いにくい。だけど、それが気にならないぐらいにシャルちゃんの容姿にマッチしているわ……アリね」


「はうぅ……」


 恥ずかしさで頭パンクしそうになりつつ、もう二人を止められないなぁっと、どこか冷静に分析して諦めるシャルエッテ。


 ――それからも、この破天荒カオスなファッションショーは続いていく。


「さあ、まだまだいきますよー! お次はより大人っぽく(アダルティ)を目指して、上は黒のへそ出しノースリーブ、下は限界ギリギリを攻めたホットパンツで、わがままボディを押し出してみました!」

「ススメさん……これ、いくらなんでも露出度高すぎませんか!?」

「セクシーさを前面に押し出しつつも、恥じらいで顔を赤くする様が庇護欲を掻きたてられて、犯罪的なビジュアルね……!」


「続いて続いて、身を包むは強者の証たる特攻服。胸元に巻かれたサラシは、不良という殻の中に咲き誇る乙女の花園。時代遅れがなんぼのもんじゃ!? 七〇年代のレディース風衣装でブッ込んでみたんで、評価の方夜露死苦(ヨロシク)!」

「わぁー、これスガタさんみたいでカッコいいですぅー……じゃなくて! なんでこんな服が売ってるんですか!?」

おとこという外装に隠し切れていない少女の表情かお……可愛いわね……!」

「だんだんコメントが適当になってきてません!?」


「まだまだいくよー! お次はみんな大好き癒しの天使! ちょっと開いた胸元が妄想を加速させる! エッチな男子みんなの憧れ! ピンク色のナース服だぁ!」

「わ、悪い子にはお注射しちぃますぅ――って、いくら私でも、この服が売られてるのがおかしいってわかりますよ!?」

「まあまあ、細かい事は気にせずに。さてさて、こちらの評価はいかがでしょう!?」

「いや、普通のアパレルショップにコスプレ衣装が売ってるのはおかしいでしょ?」

「そこは正論言う(ツッコむ)んかい! さ~て、お次はどの服着させましょ――って、シャルエッテちゃん、どしたん、震えだして?」


「ッ――! いい加減にしてくださあい!!」


   ○


「いやぁ、笑った笑った!」


「笑い事じゃありませんよ!」


「そうよ、進? あんまりシャルちゃんで遊ぶのはよくないわ」


「シロガネさんだって、途中までノリノリだったじゃないですか!?」


「な、なんのことかしら?」


 店をあとにした三人は、若者行き交う竹下通りを再び歩いていく。二人の友人に挟まれて歩くシャルエッテの両手には、いくつもの手提げ袋がぶら下がっていた。結局あの後も、何着かの服を吟味し、実に二時間以上の買い物となったのだ。


「お店を出た後で言うのもなんですが……本当に、こんなに買っていただいてよかったのですか?」


「なーに、遊びすぎたお詫びだと思ってよ?」


「それに、あの店は他と比べても安いから、シャルちゃんは気にしなくてもいいんだよ?」


 シャルエッテは両手の買い物袋をジーと見つめた後、朗らかな笑みを浮かべてくれた。


「……ありがとうございます、シロガネさん、ススメさん。次また一緒にお出かけする時は、目一杯オシャレしますね!」


 そんな彼女の微笑みに、二人は改めて彼女にプレゼントをあげられてよかったと感じ、二人共に笑顔を向け合った。


「それじゃあ、この後どうしようか? 他の洋服屋に行く? それとも休憩がてらお茶にする?」


「う~ん……どっちもアリっちゃあアリだけど、一番の目的は達しちゃったしなぁ……あっ、そうだ!」


 突然、進が何かを思いついたように目を輝かせると、ガシッと隣のシャルエッテの肩を掴んだ。


「ススメさん!?」


「ねえねえ、シャルエッテちゃん。確か今『魔法探偵リリカル・ドイル』にハマってるんだよね?」


 そう問われた彼女の瞳も、同じように輝きだした。


「はい! ものすごくハマってます!」


 今日一テンションが上がったシャルエッテの反応を見て、うんうんと満足げに頷く進。


「実はこの後、秋葉原でリリカル・ドイルのファンイベントがあるんだ。コスプレ体験会なんかもあるんだけど、行ってみる?」


「アキハバラ……アニメが大好きな『オタク』と呼ばれる方々が集う、所謂聖地と呼ばれる場所ですよね!? テレビで何回か見たことがあります。しかもリリカル・ドイルのイベント……私、すごく行きたいです!」


「オッケー、決まりだね。白鐘も一緒に行くっしょ?」


「えっ、やだ」


 白鐘の心底嫌そうな表情に、途端にシャルエッテが泣きそうな瞳を向ける。


「そんな……アキハバラがお嫌いなのですか?」


「うっ……そういうわけじゃないんだけど……」


「いいじゃんいいじゃん? もうアレ(・・)からけっこう経ってるんだし、誰も白鐘のこと覚えてないって。ほら行くよ?」


「うわっ! ちょっと、引っ張らないで!?」


「あっ! お二人とも、待ってください!」


 進は嫌がる白鐘を引きずり、その少し後ろをシャルエッテが小走りでついてくる。


 三人はそのまま駅の方へと進み、原宿とはある意味対極な人々が集う街、秋葉原へと向かったのだった。

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