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あたしのパパは高校二年生  作者: 聖場陸
外伝『黒澤諏方は高校二年生』シルバーファング結成編
312/323

第25話 四天王、動く

 静かにメガネの中央(ブリッジ)()()で押さえる八咫孫一。


 フェンスの前で強気な笑みをたたえる猿崎晋也と夜空明里。


 そして三人の登場に戸惑い、震える豚山猪流。




 ――桑扶高校屋上にて、久方ぶりに四天王の四人が揃って集結したのであった。




「テ、テメーらいつの間にそこに⁉︎ 入り口そばにいた転校生を助けた八咫ならともかく、真反対のフェンスに繋がれてた人質たちを他の誰にも気づかれずに、助けられるわけがねえ⁉︎」


 豚山の叫び同然であった問いかけは、人質の鷹走武尊と茶髪リーゼントを助けたフェンス前の二人に向けられる。その疑問に対し、あっけらかんと答えたのは晋也であった。




「もちろん……校舎の壁を()()()()()()()()()()()ッス!」


「ちょっと、ウチまでサルみたいに言わないでよね? ウチはちゃんと()()()()()()()()フェンスを伝って登ったんだから」




「バ……バケモノどもめ……!」


 校舎の壁をよじ登るという人間離れした行動を、なんの事ないように語る二人。だがそれがウソではないのは、彼らの人外じみた身体能力を考えればわかる事であった。




「あ……あざまっす! 助けていただいて……」


「でも……なんで四天王のみなさんがボクたちを?」




 感謝しながらも疑問の言葉をつぶやくのは、晋也と明里に助けられた武尊と茶髪リーゼント。学内での揉め事であっても、管理するクラス内の事でなければ基本動く事のなかった四天王がこうして総出で一生徒を助けるなど、少なくとも二人は聞いた事がなかった。


「それに関しては転校生に感謝するッスよ」


「アニキに?」


「ウチら四天王は学内の大きなトラブルを裏で処理した事は今までもあったけどさ、こうして表立って動いたのはまごいっちが転校生に触発されたからなんだ」


 桑扶高校四天王がこれまで存在が都市伝説化されるほどに大きな動きを見せなかったのは、不良界での不要な争いに巻き込まれないための処世術であった。


 それを是とした孫一を突き動かしたのは――、


「転校生――黒澤諏方は出会って間もない君たちのために、重い身体を動かして豚山猪流に立ち向かった。それを知って一番に動いたのは誰よりも争いを嫌ってたまごいっちなんだ。『損得勘定(そんとくかんじょう)なく動く不良(バカ)は、やはり不良()が正してやらねばな』って」


「「っ……」」


 人質であった二人は驚き呆けながらも、その視線をメガネの少年の方へと向ける。諏方と対峙した際は冷徹な印象(イメージ)(いだ)かせた彼であったが、思い返してみれば病院への手配をしてくれたりなど、八咫孫一は案外情に厚い男なのかもしれない。




「ぐっ……チッ! おいテメーら! 何をしてやがるッ⁉︎ 今日一日オレ様の指示に()()()()ってんなら、全員でコイツらまとめて叩き潰せッ!!」




 屋上周りに響くように(SOS)を上げる豚山。それを合図に、周囲に立っていた金髪の不良たち六人、さらにどこかに隠れ潜んでいたのか、ゾロゾロと同じ髪色をした不良たちが現れ、のべ五十人近くの金髪たちが屋上を占領していく。


「誰が絶対服従だ、ゴルァ! ……まあ、(テメー)の指示に従うのは癪だが、これも()()()の命令だ。それに――」


 金髪たちの中でもひときわ背の高いリーダーらしき男は、一歩前へ出て豚山の手から折れた金属バットを奪い取り、地面をバットで叩きながら孫一を睨みつける。




「――これはオレたちにとっても上に昇がるためのまたとないチャンスだ。()()()()()()()()()()は、目にかけるほどの実力(ちから)ありませんでした――とな」




 折れたバットを肩にかけ、他の金髪たちも何人かはそれぞれ武器を持って臨戦態勢へと入る。


「『黄金猛獣(ゴールデン・ビースト)』傘下のチーム、『金色魚群(ゴールド・フィッシュ)』だな? お互い同じチームの傘下同志、ここで争うのは無益だと思わんか?」


「ハッ、今まで引きこもっていただけの四天王が今さら表舞台に出ようとしてんじゃねえよ。テメーらを潰せば、オレたちは傘下内でさらに上の地位へと昇れる。こんなチャンスみすみす逃してたまるかよ」


「……解答(こたえ)の見えてる質問(とい)ではあるが、一応訊いてやる。……貴様らに命令をした『あの方』とは、誰のことだ?」


「……フン、それを口にするわけがあるか」


「だろうな。口を割れば、あの方とやらに粛正されるのは貴様らだろうからな」


「…………ほざけッ!!」


 折れた金属バットを持った男が吠えると同時に、金髪の男たちが一斉に孫一たちに襲いかかる。


「まだ動けるか、黒澤諏方?」


 呼吸を静かに、闘う構えを取りながら孫一は、背後に立ったままの諏方に声をかける。


「さすがにこの人数相手では、貴様のお()りをしながら戦う余裕はない。何もできないならどこかに隠れておけ。だが――戦う気概が残っているのなら、その拳を握れ」


「ッ――!」


「貴様がいかな過程を経て、この学校に来たかはわからん。貴様がどのような思いで不良界に殴り込んできたのかはわからん。だがこの不良界(せかい)で生きるつもりならば、その拳を握れ」


 淡々と、だがどこか熱い思いを秘めながら、孫一は諏方の戦意に発破(はっぱ)をかける。


「相手は貴様の事情など憂慮しない。生き残りたくば、守るものがあるのなら、その拳を握りしめて戦えッ!」


 言い終えると同時に孫一は足を強く踏み出し、金髪の猛獣の()れに飛び込んだ。


「…………上等だ」


 呼吸を一つ。それは意識してのものか、あるいは自然なものか――諏方の身体を静かに、『気』が纏い始める。




「舐めんなッ! オレは……オレはまだ戦えるッ!!」




   ◯




「オラオラ、どっせいッ!」


「ヒギャアアアア――⁉︎」


 猿崎晋也は金髪の一人の脚を掴み上げ、その場でグルグルと回転しだした。脚を掴まれた金髪は遠心力で宙を回転させられ、そのまま棍棒のように他の金髪たちを巻き込んで薙ぎ倒していく。


「そろそろ投げるッスよー! 予告はしといたんで、頑張って受け身取ってくださいッス!」


「無茶言うなぁぁッー⁉︎」


 金髪の泣き叫ぶ声を無視し、晋也は彼を遠くへと投げ飛ばした。その際、投げ飛ばされた先に立っていた何人かの金髪たちが合わせて巻き込まれて弾き飛ばされる。


「ふぅー、久々に『ジャイアントスイング』決められたッス……! さて――」


 一仕事終えたかのように額の汗を拭う晋也。だが彼は周囲を見回してすぐさま次のターゲットを絞り始める。


「次はテメーに決めたッス!」


「ひいッ⁉︎」


 真っ先に背を向けた金髪に向かって晋也は飛び込み、彼の腰を両腕で掴んで身体全体を抱え上げた。そのまま金髪ごと頭上高く飛び上がり、空中で彼の身体を反転させて地面に向けさせ、回転しながら勢いよく落下する。




「これが――スクリューパイルドライバーッス!!」


「ぎゃああああッッ――⁉︎」




 捕まった金髪は喉がちぎれんばかりの叫び声を上げながら、屋上床に背中を強く叩きつけられる。


「うおッ――⁉︎」

「があッ――⁉︎」


 さらに着地した時の風圧で、周りの他の金髪たちも吹っ飛ばされていった。




「…………くッッッッうううう――!! やっぱ『プロレス技』は最高に気持ちいいッス!!」




 技をかけれた喜びを噛み締め、歓喜の声を上げる晋也。


「桑扶高校に入って四天王になってからは、表立ってケンカする事がほとんどなかったッスからねぇ。久々にフルでケンカできるこの機会……全力で楽しませてもらうッスよ!」


 圧倒的パワーを見せつける晋也に金髪たちはすっかり萎縮してしまったが、お構いなしに彼は両腕を広げた構えを取り、猛スピードで金髪集団の中へと突っ込んでいったのだった。




   ◯




「ヤァッ! ハァッ! ヤッ!」


「ぶへッ――⁉︎」

「がはッ――⁉︎」


 血しぶきをあげながら、金髪不良たちが縁を描くような流れで天高く飛び上がっていく。


 その中心に立っていたのは夜空明里。彼女は彼らよりも明るめの金髪を振り乱しながら、激しめの動きで()()()()()いた。


 手を地に付け、身体を上下に反転させて脚を振り上げ、その足で金髪たちを次々と蹴り上げていたのだ。


「な、なんだよあの女……ただ踊ってるだけなのに、みんなどんどん吹っ飛ばされていきやがる……⁉︎」


「いや、オレは知ってるぞ……あれは『カポエイラ』だ! まるでダンスするような動きで攻撃する、足技を主体とした格闘技だ……!」




「せえ〜か〜い! といっても、ウチなりにアレンジは加えてるけどね」




 明里の嵐のような動きのダンスに、近づくことすらままならないでいる金髪たち。


 そうこうする内に明里は床に付いた手で身体を押し出して、空中で身体の上下を正しながら水平に滑空(ジャンプ)し、今度は()()()のように優美に回転しながら一番近くにいた金髪の頬に横なぎの蹴りを浴びせる。


「ごべらッ――⁉︎」


 断末魔を上げて蹴り飛ばされる金髪不良。さらに明里の回転は止まることなく、近くに立っている他の金髪たちにも次々と回転蹴りを加えていった。


 そしてあっという間に明里の周りには、気絶した金髪不良たちが積み上がっていった。


「子供の頃は『バレエ』を習って、最近のマイブームは『ブレイクダンス』。んで、その両方を技の型に組み込んだのがウチのオリジナルカポエイラファイティングスタイル


 明里はつま先立ちでくるりと回転し、優雅な踊りの後に手を地に付けて激しい動きのダンスへと自然な動きで繋げる。


 二つの異なるジャンルの舞い(ダンス)を華麗に決める明里。彼女の踊りに見惚(みと)れてか、あるいは捉えどころのない動きに戦意が喪失してか、他の金髪不良たちは身体を震わして動けなくなってしまった。


 ひとしきり踊った明里は姿勢を正して地に足を付けると、激しいダンスの後とは思えないほどにほとんど息を乱さず、手のひらを上に向けてかかって来いよと言わんばかりに金髪たちを挑発する。




「さあ――まだウチと踊ってくれ(シャル・ウィ・ダンス)?」

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