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あたしのパパは高校二年生  作者: 聖場陸
外伝『黒澤諏方は高校二年生』シルバーファング結成編
311/322

第24話 集結

「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」


「…………」


 豚山による諏方への蹂躙ショーは、始まってから一時間ほどを経過した。


 その(かん)、諏方の身体に打ち込まれた木刀による打撃は千発以上。それほどに打ち込まれる前に、とうに意識を失っていてもおかしくはないだろう。


「ハァ……ハァ…………なんなんだよ……」


 闘い(ケンカ)と呼ぶにはあまりにも一方的な暴力の嵐。その中で激しく息を乱していたのは――、




「なんなんだよ…………なんで倒れねえんだよ、黒澤諏方ッ⁉︎」




 ――豚山猪流の方であった。


「…………」


 諏方は一時間木刀を何度も身体に打ち込まれてなお、仁王立ちの構えを解かないでいた。


 病院服はちぎれた布切れのようにボロボロになり、肌は青あざだらけ。頭から垂れ流れる血の雫は、諏方の立つ床周囲を水たまりのように濡らしていた。


 常人ならば気を失ってもおかしくないほどの痛みと傷――しかし諏方は体勢を崩す事なく、鋭い視線で豚山を睨み上げたままでいた。


「……そろそろ、人質を解放してもらえねえか?」


「ぐっ……くっ……!」


 血だまりができるほどの血を流しながらなお、諏方の気迫は豚山の身を震わす。


「……う、うるせえッ! オ、オレ様が満足するまで、テメーは黙って殴られ続けりゃいいんだよッ!」


 さらに二発、三発と木刀による打撃を浴びせられる。しかし諏方は息こそ切れ切れにはなっているものの、依然倒れる気配を見せなかった。


「くそ、なんなんだよ……なんでテメーはこんだけ木刀で殴られてるのに倒れねえんだよッ⁉︎」


 もはや絶叫同然の豚山の叫び。蹂躙する側であり、まったくのダメージを負ってないはずの彼の方が気づけば精神的に追いつめられ、今にも倒れそうになっていた。


「……別に痛くねえわけじゃねえよ。でもな――」


 豚山を見上げる諏方の視線には、怒りとも違う強い信念が込められていた。




「――剛三郎(あのクソ野郎)の鉄パイプに比べりゃ、テメェの木刀なんざ軽いんだよ」




 この程度の暴力、この程度の理不尽――こんなもの、監禁生活(あの地獄)に比べれば生ぬるいものだ――。


 すでに地獄を乗り越えた諏方にとっては、木刀の乱打など十分に耐えられる痛みであった。


「ぐっ、くッッッッ…………おい! その金属バットをオレ様に貸せ!」


 豚山は焦り混じりの表情で、金属バットを持った金髪の不良に駆け寄る。


「あん? テメー、誰に指図して――」




「――いいから貸せッ!!」




 豚山は金髪の不良から無理やりバットをぶん取ると、諏方に対する怒りと恐怖をないまぜになったグチャグチャの感情のまま、彼の元へ再び近づく。


「もう四天王なんてどうでもいい! テメーが生きてる限り、オレ様の平穏は一生訪れねえ……オレ様はこの先の人生、テメーに怯え続けなけりゃならねえなんて、まっぴらごめんだッ!」


 頭上高く振りかぶった黄金色のバット。その硬さや重さは木刀と比するものではなく、殺意を込めた腕で振り下ろせば容易(たやす)く相手の命を奪えるであろう。




「逃げてください、兄貴ッ!! そいつ本気で兄貴を殺す気っす!」


「お願い……逃げて、アニキッ!!」




 二人の自称舎弟たちの悲痛な叫び。それでもなお、諏方はその場から動こうとはしなかった。


「っ……」


 木刀の時よりはさすがにわずかだが眉根を寄せていたが、それでも諏方は金属バットを受け切る気構えのようであった。




「死ねッ! 黒澤諏方ッッ――!!」




 今まで以上に勢いよく振り下ろされた金属バット。まともに受けようものなら、頭蓋ごと頭をかち割ってしまうであろう。


「ッ――!」


 反射的に目をつぶる。訪れた暗闇の世界。


 耐え切ったのか、それとも死んだのか――諏方は未だ痛みを知覚できていない。











「――――たわけ。今の貴様の気じゃ、金属バットはさすがに耐えれん」











「ッッ――――⁉︎」


 豚山、武尊、茶髪リーゼント、金髪の不良たち――そして諏方までもが、眼前の光景に目を見開く。




「メガネ……野郎…………!」




 豚山と挟まれるように諏方の前に立っていたのは、桑扶高校四天王の一人、八咫孫一であった。


 彼は左手の()()でメガネの中央(フロント)を押さえながら、もう片方の腕を前方に突き出し、豚山の金属バットを受け止めたのだった。


「バカな……腕一本で金属バットを防いだだと……⁉︎ しかも……バットが折れ曲がってやがるッ⁉︎」


 人力で形状を変えることなど不可能であろう金属バットが、まるで枯れ枝のようにくの字に折れ曲がってしまったのであった。


「テメェ……メガネ野郎! なんでここにいやがるんだ⁉︎」


「八咫孫一だ。いい加減覚えろ、たわけ。……俺の情報網は、この学校そのものを範囲としている。学校内での異変は、すぐさま俺のところに入るようになっている」


 まるで何事もなかったように、落ち着きを払った声でそう説明する孫一。


 しかし諏方は気づいていた。孫一が金属バットを腕で受け止める寸前、彼の手首の周囲に空間が一瞬歪むほどの大気が渦巻いていたのを。


「あれが……本当の意味で『気』を操っているって事なのか……⁉︎」


 諏方自身、まだ気のコントロールの(すべ)を知らないなりに全身に気を巡らせて、豚山の木刀のダメージを抑えることはできた。


 だが孫一の瞬間的に一部分を大量の気で覆うコントロール力は、少なくとも今の諏方では不可能な技であった。


 おそらくは孫一が長い年月の鍛錬の果てに得たであろう高等技術。あのわずか一瞬で、諏方は改めて目の前のメガネの少年との実力差を見せつけられてしまった。




「…………すまなかったな、黒澤諏方」




「っ……? なんでテメェがオレに謝るんだ?」


 あまりに小さな声ではあったが、ふいの孫一の謝罪の言葉に諏方は困惑してしまう。


「……もっと早くここでの情報を掴んでいれば、貴様も人質もこれほどのケガを負う事もなかっただろう」


「っ……」


 表情はぶっきらぼうであったが、思っていた以上に真っ当であった孫一の謝罪理由に諏方はどう返せばいいかわからず、ただ黙って受け止めるしかなかった。




「…………そ、そうだ! 人質、人質がいるじゃねえかッ!」




 金属バットをへし折った孫一に対しすっかり怯えきった様子の豚山であったが、依然自身が有利な状況にいる事を彼は思い出す。


「お、おい、孫一……には効果が薄いな……おい! 黒澤諏方ッ!! 人質を返してほしかったら孫一を止めろ。自分の命をかけてでもなッ!」


 卑怯にも、豚山は人質二人を使って彼らと関係性の薄い孫一にではなく、諏方に彼を止めさせようとする。


 しかし――、






「――人質って、誰のこと言ってんスカ?」






 声がしたのは、人質たちが(はりつけ)されているフェンスから。豚山たちが視線を向けるとそこには二人の男女が立っており、豚山の子分たちを地に伏せさして、武尊たちを解放していたのだ。




「なっ……猿崎晋也に、夜空明里⁉︎」




 武尊たちを助けたのは、孫一と同じ桑扶高校四天王のメンバーである晋也と明里。




 八咫孫一、猿崎晋也、夜空明里、そして外されたとはいえ元は彼らとともに並び立っていた豚山猪流――今この屋上に、桑扶高校四天王が全員集結したのであった。

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