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あたしのパパは高校二年生  作者: 聖場陸
外伝『黒澤諏方は高校二年生』シルバーファング結成編
304/323

第17話 小汚い病院

『――グフフ。諏方くん……君はもう籠の中の鳥だよ。ボクが()()()()()()()、この地下室(カゴ)から一生出ることはできない』


『…………いやだ……おうちかえりたいよぉ……』


『ああ……涙する顔までなんて愛おしいんだ……でも諦めなさい。今は地下室(ここ)が、君のおうちなんだ。誰も助けに来てはくれない……』


『うぅ……ぅぅぅう…………』


『おじさんはこれから()()()があるから、しばらくいい子でお留守番しててね? 夜になったらまた、おじさんと一緒に遊ぼうねぇ……』


 男が地下室から立ち去り、残されたのは暗闇と無音。まるで自分一人だけが世界に取り残されたかのような感覚に襲われ、まだ幼い子供の心臓が締めつけられるように痛みだす。


『こわいよぉ……だれかたすけてよぉ……』


 子供が好きな、ピンチを救う特撮のヒーローなんて現実にはいやしない。だが、少年がそれを知るにはあまりにも幼く、何も見えない、聞こえない籠の中の世界で少年は一人叫び続ける。




『たすけてー! パパー! ママー! おねえちゃーんッ!!』




   ◯




「ハッ――⁉︎」


 黒澤諏方(少年)は目覚める。


 悪夢を見たためか吐き出される息は荒く、全身を汗が濡らしていた。


「ここは…………病院か……?」


 壁面、天井ともに白で染まっている部屋だった。自身は固めの白いベッドに寝かされており、服も学ランから水色の病院服へと変わっていた。


 壁は白くあるものの、よく見ると隅の方などで若干(じゃっかん)黒ずんでいる部分が見受けられ、照明もどこか薄暗く、病院にしては少しばかり小汚い印象を(いだ)いてしまう。


 一ヶ月前、地下室から出て警察に保護された際に、検査のために連れられた病院がキレイな場所であったため、よりここが貧乏臭く感じられたのだ。


「…………ぐっ……⁉︎」


 頭を襲う痛みに思わずよろめいてしまう。


 病院で目覚めたという事は意識を失っていたという事。意識を失う前の記憶……ハッキリと思い出せないまでも、薄ぼんやりと思い浮かぶのはメガネをかけた一人の少年と、自身を呼ぶ二人のクラスメイト――、






「――うわーん!! アニキ、目が覚めたんですね⁉︎」

「よかった……兄貴、意識が戻って本当によかったっす……!」






 薄い記憶の中で聞こえたのと同じ、二人の少年の声が(じか)に耳に届く。そのうちの一人は滝のように涙を流しながら、目覚めたばかりの黒澤諏方の身体をガシッと抱きしめた。


「バッ⁉︎ いてーよ! 抱きついてくんじゃねえ、武尊!」


 嫌そうな顔で、抱きついている少年を押しのけようとする諏方。しかし、当の武尊はなぜかより嬉しそうに目を輝かせていた。


「アニキが……アニキがボクの名前を覚えててくれたぁ……!」


「っ……んな事かよ。……たりめーだろ、クラスメイトなんだからよ……それと、茶髪リーゼント」

「あ、大丈夫っす。その呼び方、もう慣れたっす」


 諦めたように目を点にして渇いた笑いをこぼす本名不詳(茶髪リーゼント)


「つか、テメェらがなんでここに? それに、ここはいったい……」


「ここは町外れにある小さな病院っす。俺も初めて存在を知ったっすけど、下手な医者より腕は確かみたいっすよ?」


「ボクたちはお見舞いに来てたんです。アニキが倒れてから()()()、毎日(かよ)ったんですよ」


「一週間⁉︎ そんなに寝てたのかよ、オレ……」


「外傷は大した事ないように見えるっすけど、中身はかなりボロボロだったみたいで……普通の人間なら一生車イス生活だったかもしれねえって、お医者さんも言ってたっす」


「ボク……アニキが死んじゃうんじゃないかって、ずっとずっと心配だったんですよ?」


「っ……」


 改めて意識すると、身体の内部のあちこちに痛みが間隔的に疾る。わずかに襲う吐き気にも耐えながら、頭の中で霧がかっていた記憶がだんだんと鮮明になり、自身を(くだ)したメガネの少年の顔をハッキリと思い出す。






「――――で、なんでオレをこんな状態にした()()がここにいて、さらに後ろの二人は誰なんだ?」






 ベッドそばに立っていた武尊と茶髪リーゼントのさらに横、足元側に一つだけ置かれたイスに座って読書をするは、記憶の中にあったメガネの少年。さらにその後ろに二人、見覚えのない金髪ポニーテールの少女と、豚山ほどじゃないが大柄な体格の少年がそれぞれ、興味津々といった表情で諏方を見下ろしていた。


「フン、それが見舞いに来てやった先輩への態度か? それと、複数の質問をまとめて投げるな。全て答えてやるのにいちいち手間取る」


 メガネの中央(フロント)()()で押し上げながら、その奥にある瞳で高圧的な視線を向ける八咫孫一。後ろに控えるもう二人の男女は何やら早く喋りたそうにウズウズした顔を互いに見合わせた後、改めて諏方の方へと向き直る。




「ヤッホー! ウチは夜空明里。桑扶高校四天王の一人で、アンタと同じ二年生。クラスはお隣のA組だよ」


「オレっちは猿崎晋也! 同じく四天王の一人! クラスは三年D組! 一応先輩ッスけど、気がねなく猿崎先輩サマって呼んでくれてオッケーッス!!」




「…………」


 二人のあまりのテンションの高さに呆気に取られる諏方。同じ四天王(ポジション)である孫一が暗めな雰囲気である分、余計にテンションの高低差に耳鳴りがしそうだった。


「四天王のうち三人が揃いぶみ……同じ空間にいるってだけで圧巻だな……」

「でもこれで、桑扶高校四天王が実在していたっていうのは証明されたわけだね……」


 武尊と茶髪リーゼントも、四天王の圧倒的な存在感に引き気味になっている。だが三人の存在感はそれだけで同じ四天王であるはずの豚山よりも圧倒的な強さを持っているのだと、闘っている姿を見ずとも本能で理解しえた。


「……んじゃ、もう一個だけ質問。なんで四天王が揃ってオレなんかの見舞いに来てやがるんだ? ……あの豚を倒した報復にでも来たのか?」


 諏方の瞳は疑念に満ちている。目の前にいるのは自身を打ちのめして、今病院(ここ)にいる原因となった男。さらにその仲間も一緒となれば、警戒するのは当然と言えよう。


「たわけ。報復が目的なら眠ってる間にトドメを刺している。それに、この病院の紹介や入院費の負担は()()()でやっているんだ。感謝こそすれ、そうやって睨まれる筋合いはないぞ」


「この病院にテメェが? ……なんのために?」


 これも当然の疑問であろう。この状態まで追い詰めた本人が病院の手配や入院費の負担までするなど、手厚く扱う理由がまるでわからない。罪悪感に駆られて――なんて雰囲気はまるでなさそうだが。


「フム……回りくどく話すよりは簡潔に伝えた方が早そうだな。まず貴様が転校初日に倒した豚山猪流だが、彼はすでに四天王から除名した。ゆえに我々が貴様に報復する理由は何もない。そして――」


 孫一は本を閉じて足を組み、諏方の方へと向き直ってメガネのフロントを()()()()で押さえながら――、






「――黒澤諏方、貴様を新たな桑扶高校四天王に任命する」

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