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あたしのパパは高校二年生  作者: 聖場陸
外伝『黒澤諏方は高校二年生』シルバーファング結成編
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第13話 三巨頭②

「お? なんだなんだ、何が起きてるんだ?」




 喫茶店の客や店の周囲にいた一般人たちが普段見慣れない光景に視線を注目させている。


 数十台のバイク、それらにまたがり、あるいはそばで仁王立ちをするは目を尖らせている明らかな不良と呼ばれる者たち。繁華街では不良に限らずガラの悪い人間は珍しいわけではないが、聖域にも似た静寂なるこの喫茶店にこうして不良たちが集まっているのは滅多にない事なのだ。


 一斉に集まった不良たちはそれぞれ色やデザインが違いながらも、全員が派手めな特攻服を身に纏っていた。




「オレたちは『(アンチ)蒼青龍(アズール・ドラゴン)連合』!」



 陣頭に立っていた右目を黒い眼帯で覆った男が蒼龍寺葵司(蒼いコートの少年)と真向かい、、バイクの騒音にも負けない張り上げた声でチームの名を語る。


「それぞれがテメーの()()()()で潰されたチームのメンバーで構成されている。総数二十チームのメンバー百名超! テメー一人の首を取るために、この人数をかき集めてきたんだぜ!」


 眼帯の男に呼応するように、威嚇を込めたさらなる爆音をバイクにまたがる不良たちが鳴らす。


「またこの手合いですか……一度は叩き潰されたというのに、本当にしつこい連中だ」


 このような状況は何度もあるのだろう。葵司の側近である昇はあわてることなく冷静に拳を握りしめ、臨戦体制へと入る。




「――昇、()はお婆さんを安全な場所まで避難させてほしい」




 そんな昇に振り向かぬまま、彼の前に立っていた蒼コートの少年が声で制する。






「総数百十二人――この人数なら、()一人で十分だ」






 瞬間――大地が振動する。


「なんだ⁉︎ 地震か⁉︎」

「え? でも地震のニュースなんか出てないっぽいよ?」


 周囲は一瞬地震が起きたのではないかと不安げな様子を見せ、しかし携帯ニュースやSNSなどでの無反応っぷり、周辺のテーブルやイスなどが特に揺れたり倒れたりしていない事に戸惑っている。


 実際、本当に大地が揺れたわけではない。葵司の放った気は大気を大きく振動させ、本来気を感じえないような一般人にすら地震が起きたのではないかと錯覚させたのだ。


「こ、これが蒼龍寺葵司の『気』……」

「ほ、本当に俺たちでアイツに勝てるのか……?」


 先ほどまで意気揚々としていたアンチアズール・ドラゴン連合の不良たち(集団)は、目の前に立つ圧倒的な存在()()し潰さそうになる。


「では指示通り、この場は総長一人にお任せします。まだ三巨頭会議の打ち合わせが残っていますので、お早めのご帰還を――ではマダム、少々速く動くので、しっかりと掴まってください」


「え? キャ⁉︎」


 昇は盲目の老婆をお姫様だっこで抱えると、ボクシングの上体逸らし(ウェービング)のように身体を左右に振りながら素早いステップで移動し、数瞬で不良たちの包囲網を抜けた。


「さ、さっきのお方は一人にして大丈夫なの? 目には見えなくとも、あそこに悪い人たちがいっぱい集まっていたのはわかるわ」




「ご安心を、マダム――あの方は、『最強』ですから」




 ――――




「オイ、テメーら! ビビってんじゃねえッ! こっちは百人超の人数を集めたんだ。対して向こうはわざわざ一人になってくれた。たしかに蒼龍寺葵司は『不良界最強』かもしれねえが、戦争ってのは『個』よりも『数』だ。たとえ三巨頭であっても、一人なら百人の不良に勝てるわけがねえッッ!!」


「「「ウオオオオオオ――――!!!!」」」


 眼帯の男に発破をかけられ、不良たちの不安げだった目の色が闘争のそれへと変わる。




「一つだけ――先に言わせてほしい」




 その声音(こわね)に感情は見られない。ただ淡々と、蒼龍寺葵司は告げる。


「挑むなら拒みはしない。だがもし、俺に勝てないと判断したなら、その時点で拳を収めてほしい。迎撃はするが、こちらから仕掛ける気はない。可能なら――」


 その瞳も、その表情も、全てから感情を読み取ることができない。だが言葉の上では彼は優しく、自身の思いを告げる。




「――()は、君たちを傷つけたくはない」




「…………」


 あくまで傷を負う者が一人でも少なくなるようにという少年の願い。しかし彼の優しさを交えた言葉は、逆に不良たちの怒り()に油を注いだ。




「死ね! 蒼龍寺葵司ッ!」




 ある者は拳を、ある者は金属バットなどの凶器を構え、百十二人の不良たちが一斉に葵司に向かって襲いかかった。




   ◯




「チッ、まさか三巨頭の蒼龍寺葵司に絡まれるなんて、オレたちも運がねえぜ」


 老婆にわざとぶつかったアロハシャツの男性二人組は電車で(ひと)駅移動し、先ほどの街とそれほど規模の変わらない繁華街の中を不機嫌そうに大股で進んでいる。


「あー、イライラする! こうなったらテキトーな女でも引っかけて、憂さ晴らしといこうぜ」


 そう言って街中を歩く女性たちに二人は目を光らせる。若者向けの繁華街だけあって、道には露出度が高めな格好をしたモデル体型の女性たちがあちらこちらを行き交っていた。声をかけるには事欠かないと言えよう。


「お! アレとか良さげじゃね?」


 男性の一人が指差す先を歩いていたのは、髪先が跳ね返った紅いポニーテールをたなびかせる一人の女性。紅いトップスの下から覗かせる腰つきの(なまめ)かしさは後ろ姿だけでも十分に感じられ、さらにその下のショートデニムはぷっくりとしたヒップラインを際立たせる。


 その背中だけで女性の高いプロポーションは街歩く他の女性たちと比べても一際(ひときわ)目立ち、それだけで彼女の美貌ぶりも容易に想像できた。


 男二人は小走りで駆け、女性の横へと並び進む。


 トップスを尖らせるほどのバストは軽くEを超えるであろう。サングラスをかけてて目元は見えないが、それでも隠しきれないほど整った美顔に男たちは思わず感嘆の息を漏らしてしまう。


 もはや雑誌を飛び越えて、パリコレのモデルと形容した方が自然に感じられるほどの絶世の美女が、男性たち二人に気づかぬまま街中を進んで行く。


「お、お姉さん……ちょっとウチらとお茶でもし、していかない?」


 いつもは軽いノリの男性も、今回ばかりは目の前の女性の美貌ぶりにドギマギしてしまっている。




「――あら? アタ……私にナンパしてるのかしら?」




 女性はクールな見た目に反した陽気そうな声で、男たちの声がけ(ナンパ)に応じる。先の跳ね返った紅いポニーテールが揺れ動き、バラのような香水の香りを漂わせながら彼女はサングラスを外した。


 サングラスの下の瞳は切れ長で、クールな彼女への印象が一気に力強いカッコよさげなものへと変わる。だが彼女の美貌が損なわれたというわけではなく、むしろ彼女の造形美に力強さが加わり、異性はもちろん同性すらときめいてしまいそうなほどの存在感を際立たせた。


「そ、そそそそんな、ナンパなんて! えーと……でもよろしかったらオレたち……いや、僕たちで良ければお話だけでも……」


「いいよいいよ、君たち顔は悪くないし大歓迎!」


 思った以上の彼女のノリの良さに男性たちは緊張が少しばかり緩和される。本来なら引っかけた女をホテルに連れ込むところだが、彼女ならば喫茶店でお茶を飲むだけでも十分に満足してしまいそうなほどに、こうして会話するだけでも充足感を感じられた。


「あの……よければお名前をお訊きしても?」


「アタ……私の名前? えーと……まあ偽名じゃなくてもいいか」


 名を訊かれた女性はなぜか少し焦りを見せるも、居直って素直に本名を答える。




「茜――私の名前は園宮(そのみや)(あかね)!」




 爽やかな声で自身の名を呼ぶ園宮茜。その名を聞き、男性の一人のキラキラとした瞳がわずかに疑念の色を見せる。


「そのみやあかね……どっかで聞いた覚えが」


「んなのどうだっていいだろ! それで茜さん、オレたちと一緒にデートしてくれる?」


 もう一人の男性は緊張も完全に解かれ、すっかりナンパが成功したとノリ気になっていた。


「もちろんオッケーだよ! あ、でもアタ……私にも好みの男性のタイプってのがあってさ」


 そう言って彼女は肩にかけていた小さめのショルダーバックを下ろし、何かを取り出そうと中をまさぐっている。




「アタ……私はね――私より()()男がタイプなんだ」




「これは……ヨーヨー?」


 茜と名乗った女性がバックから取り出したのは、二つの円盤の間に糸を通したおもちゃである、よく見るタイプの紅いヨーヨーだった。




「試しにこれ――ちょっと持ってみてくれない?」

ついに総合300話突破いたしました!

いつも読んでくれる読者の皆様に感謝しております。


物語は最初の山場である日傘の魔女との闘いも終え、主人公である諏方の深掘りのための過去編へと突入しました。

諏方と共に青春を歩んだ四天王、そして彼がのちに肩を並べる事になる三巨頭、そしてのちの彼の妻となる蒼龍寺碧――それぞれが登場する物語を、少しばかり時代を遡ったノスタルジックな雰囲気とともに楽しんでいたければ幸いです。


しばらくは過去編になりますが、その後は新シーズンとして物語は続いていきますので、これからもどうかよろしくお願いします!

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