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あたしのパパは高校二年生  作者: 聖場陸
外伝『黒澤諏方は高校二年生』シルバーファング結成編
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第9話 桑扶高校四天王

「――なんで、この部屋は避けたんだ?」




 諏方立ち止まった部屋の扉には『文芸部室』の札がかけられている。それを目にし、二人の案内役の少年たちの顔が固まった。


「他の入れない所は教師専用の部屋やそもそもが立ち入り禁止の場所だったりするからわかるけどよ、この文芸部室はそういう注意書きだったりが貼られてるわけでもねえじゃねえか。なのに二人はこの部屋の前を通る時に『今は使われてない』だなんて簡素な説明だけで、あわてるように通り過ぎてった。まるで、この部屋そのものを避けてるようにオレには見えたぜ」


「「っ…………」」


 武尊と茶髪リーゼントは、互いになぜか気まずげな表情で目を見合わせる。


「……すまねえっす、兄貴。さっきも言った通り、ここは今は使われてないはずの空き部屋……通称、『開かずの文芸部室』って呼ばれてるんすよ」


「開かずの文芸部室……まるで学校の怪談だな。つうか、使われてない()()って事は、実際にはこの部屋は使われてるって事なのか?」


 当然の諏方の疑問。それに対しどう説明するべきかと、武尊と茶髪リーゼントは難しげな表情を浮かべている。


「……そもそも文芸部って部活は、今は廃部になってるんです」


「廃部……?」


「不良でわざわざ本を読もうだなんて奇特な奴はそうはいねえっすからねえ。それになんつーか、この部屋は前を通るだけでなんて言うんすかねー……こう近づいちゃいけねえ的なオーラってやつを感じるんすよ」


「オーラ……?」


 先ほどから二人の説明に要領が得られず、諏方の瞳がだんだんと訝しげに細められる。


「ああいや、俺もすぴりちゅある? 的なやつは信じてるわけじゃねーんすけど、そうとしか表現できねえんすよ」


「それにこの文芸部室はある噂があるんです……なんでも、この部屋は桑扶高校四天王のたまり場になっているんだとか……!」


「四天王のたまり場……そういや、オレが倒したあの豚山(ブタ)も四天王最強だとかなんとか言ってやがったな。四天王って呼ばれてるぐらいなんだから、あのブタを除いてもこの学校にはまだ三人も強え奴があと三人はいるって事でいいんだよな?」


 四天王は四人――つまりは豚山と同等であろう実力を持つ者があと三人はこの学校にいるという話になる。とはいえ豚山が四天王最強と名乗った以上、その言葉が本当なら他の三人は彼よりも弱いという事になってしまう。


 ただ一つ、諏方の中で引っかかる事があった――。




「――なんで他の四天王は、オレを襲いに来ないんだ?」




 同じ四天王のメンバーが転校生に敗れたのだ。転校生の存在をすぐさま感知した四天王が、その情報を把握してないとはとても思えない。


 四天王同士がどういう関係性にあるかは測れない。だが同じメンバーがやられたのだから、他の四天王が報復に襲いかかってきてもおかしくないだろうに、今のところそんな気配は微塵も感じられなかった。


「もしかしたら、諏方のアニキが怖くて襲いに来ないのかもしれませんね……!」


「たしかに、兄貴に圧倒された豚山さんが最強だったんだ。豚山さんより弱い他の四天王がビビってたっておかしくねーよな!」


「…………」


 たしかに二人の言う通り、自身を恐れて姿を見せない可能性は十分に考えられる。だがこうも影も形も見せない他の四天王に対し、諏方は言いようのない不気味さを感じていた。




「――そもそも、四天王の残りの三人はいったい何者(ナニモン)なんだ?」




 ここにきて一番の疑問をようやく諏方は口にする。各学年の四つのクラスをそれぞれ管理する四天王――当然、それほどに実力のある者たちなら、当然この学校の生徒たちは四天王が何者なのかも把握しているはずであろう。


 だが、またも二人はどこか歯切れが悪そうな表情を見せていた。




「実を言うとわからないんです……豚山さんを除く他の四天王が誰なのかを」




「わからない……だと……?」


 豚山や他の生徒たちが何度も口にした四天王という存在。だがよりによってそのメンバーをこの学校の生徒が知らないと言うのだから、諏方はますます混乱を増してしまう。


「四天王はA組からD組の四つのクラスをそれぞれ統括、管理しているというのは前に説明しましたよね? そしてこの学校は同じ学年であっても、クラス同士の交流が極端に少ないんです。そのせいでお互いのクラスの情報はほとんどわからなくて……だから他のクラスを統括している四天王が誰なのかもわからないんですよ」


「そもそも四天王という存在も豚山さん一人がそう名乗っていただけっすから、他の四天王は実在してない可能性もありえるんすよねえ……」


「っ……」




 ――本当にそうであろうか。




 もし四天王が実在していないのだとしたら、そもそも他のクラスを管理し、他クラスとの交流を断絶してまで情報を制限する理由がわからない。


 豚山が四天王という存在をでっちあげ、全てのクラスを秘密裏に管理している可能性ももちろん考えられる。だがそれにしては豚山の実力はあまりにも低く、不良高と名高いこの学校を一人で管理できるとはとても思えなかった。


 学校の生徒たちにすら正体不明の四天王――考えれば考えるほど、その存在はより不気味さを濃くしていく。




 もし四天王が実在し、さらに四天王最強という豚山の言葉が偽りであり、他の四天王が彼よりも強かったとしたら――、




「だ、大丈夫ですよ……! 諏方のアニキなら、他の四天王だってボッコボコに――」






「――ほう。どうボコボコにするのか、教えてほしいものだな」






「「「ッッッ――――――⁉︎」」」


 突然だった――音もなく気配なく、その少年は中指でメガネの中央(ブリッジ)を押し上げながら、三人の間に割って入るように現れたのだ。


「な、なにもんだテメー⁉︎」


 すぐさま身構える茶髪リーゼント。武尊は怯えた様子で震えながら、彼の影に隠れてしまう。


 そんな二人にメガネの少年は特に視線を向ける事もなく、ただ面倒くさげに深くため息をつく。




「三年C組、八咫孫一――貴様らの探している、桑扶高校四天王の一人だ」




 少年は自ら名を名乗り、だがそれ以上に付随した情報に三人は驚愕した。


「なっ……本当に実在してやがったのか、豚山さん以外の四天王……⁉︎」


 驚きながらも、構えは解かない茶髪リーゼント。本当に四天王ならばかなわい相手ではあるだろうが、闘うにしろ逃げるにしろ、すぐさま行動できるようにと彼は呼吸を整える。


「……俺を前にしてその呼吸の落ち着き、未熟だが将来性はあるな」


 感心した様子は見せつつもやはり視線は茶髪リーゼントに向けられず、その瞳は別の少年の方へと向けられる。




「貴様が――黒澤諏方だな?」




 メガネの奥で光る瞳は、転校生の少年を鋭く捉える。


「……テメェは、豚山よりも強えのか?」


 常人ならば視線を合わせただけで震え上がるであろう孫一の瞳にしかし、諏方は物怖じする様子を見せない。


 彼の疑問には答えず、孫一は次にようやく他の二人に視線を移し変えた。


「……鷹走武尊だな?」


「え? ボクの名前も知ってるんですか……?」


 まさか自身の名を呼ばれるとは思わず、驚きで目を見開く武尊。




「それと――――茶髪リーゼント」

「うおおおいッ! テメーもそのノリかよ⁉︎ ここで名前呼ばれなかったらこの先も呼ばれねえ流れじゃねえか!!」




 雄叫びに近いツッコミを上げる茶髪リーゼントだが、それもやはり意に介されず、孫一はまた中指でメガネを押さえる。


「今からここで起こる事、見聞きするもの――その全てをなかった事にしろ。そうすれば、貴様ら二人には危害を加えない事を約束する」


「…………は?」


 突然の意味不明な申し出に二人は困惑し、やがて茶髪リーゼントはメガネの少年に舐められているのだと解釈して、怒りの感情が湧き上がる。


「テメーC組だって名乗ったよな? 俺たちB組のリーダーはあくまで豚山さんだ。いくら同じ四天王だからって、あんま舐めたことぬかすと――」






「――俺に二度、同じことを言わせる気か?」






 瞬間――まるで何倍もの重力がのしかかったかのように、身体が動かなくなってしまう。


 対峙せずとも、目を見ただけで理解する――この男は、豚山(さいきょう)よりもはるかに強い。


「……に、逃げましょう、兄貴……こいつには、絶対に勝てねえっす…………」


 身体も声も震えが止まらない茶髪リーゼント。武尊に至っては、口を開くことすらままならなかった。




 ただ一人――、




「兄……貴…………?」




 黒澤諏方は――、




「……まるで好敵手を見つけたかのような顔だな」






 ――――(わら)っていた。

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