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あたしのパパは高校二年生  作者: 聖場陸
外伝『黒澤諏方は高校二年生』シルバーファング結成編
293/322

第6話 転校生、黒澤諏方②

「オレの名前は黒澤諏方。テメェらに訊きてぇ事はただ一つ――この学校で一番つえーヤツは誰だ?」




 途端、教室内がざわつき始める。




「ソイツを倒せば、オレがこの学校の最強(テッペン)って事でいいんだよな?」




「「「ッッ――――⁉︎」」」


 不良たちの瞳に、明確な怒気が宿る。転校生の突然の発言――それは明らかなるこの学校そのものへの挑戦状であったのだ。


「あちゃー……また面倒な(ゴミ)が転校してきやがったな……」


 ため息を吐き出す青ジャージの担任。いくら不良相手に物怖(ものお)じしない彼でも、怒りに満ちた不良たち(集団)を止める(すべ)はなかった。




「いい事を教えてやるよ、転校生。この学校には『四天王』と呼ばれる四人の不良たちがいる。つまり――この学校には『最強』が四人いるんだ」




 クラスの中でも一際目立つ茶髪リーゼントの不良が拳をポキポキと鳴らしながら前へと出る。それに合わせてクラスの三十人近くいる不良たちが転校生一人を取り囲んだ。それらは集団で獲物を狩る獣のように、ギラギラとした瞳で目の前の転校生(エサ)を睨みつける。


 だが、転校生はあわてるそぶりを一切見せず、静かに周りの不良たちを見回していく。




「――じゃあ、その四人を倒せばオレが最強って事でいいんだな?」




 さらに重ねた発言は、不良たちの逆鱗(げきりん)へと触れた。


「てめぇなんぞを四天王に会わせるわけがねえだろ! てめぇは今日からクラス共有のいじめられっ子(おもちゃ)だ、ゴラッ!!」


 ――その言葉を合図に、二年B組の不良たちが一斉に転校生へと襲いかかった。




   ◯




「――ねぇ、聞いた? 二年に転校生が来たって話」


「――聞いたッス、聞いたッス。たしか、金髪のチビだって話ッスよね?」


「――金髪じゃなくて銀髪ね? 金髪はウチのことでしょうが」


 桑扶高校の一角にある文芸部と札の貼られた一室。そこはとある四人の不良のたまり場となっていた。


 今部屋の中にいるのはその内の三人――メガネをかけた少年は黙々と本を読んで話に入ろうとはせず、残りの男女二人が本来静かな空間であるはずの文芸部室を賑やかにさせていたのだ。


「でもたしか、B組って二年の中でも一番凶暴な連中が集まってるとかじゃなかったッスか? 転校初日にボコられて病院が新しい転校先にならなきゃいいっスけど……」


 左頬に傷跡の付いた黒髪の少年は、まだ出会ってもいない転校生の無事を案じていた。


「B組は豚山(ぶたやま)の管轄だしねぇ……仮に無事に生き延びられたとしても、あの豚に目をつけられたらまともな高校生活は送れなくなるでしょうね」


 室内唯一の女子である短めの金髪ポニーテールの少女は哀れみの言葉を口にしながらも、手に持っている携帯の画面から目を離さずにいた。


「まーた携帯小説ッスか? 前にオレっちもちょっとだけ読んでみたッスけど、内容ムズすぎてソッコーで読むのやめちまったッスよ」


「それはアンタが漢字読めないからってだけでしょ? ていうか、豚山のやつどこ行ってんの? いつもならここでお弁当(豚のエサ)食べてる時間でしょうに」


「さぁ……今ごろ、転校生(新入り)の顔でも見に行ったんじゃないんスかねえ?」




   ◯




「――う……ぐぐ……ぐっ…………」


 わずか一分――わずか一分ほどの時間で、転校生(黒澤諏方)は三十人近くもの不良たちを全てなぎ倒してしまった。




「よえーな、お前ら」




 呆れ混じりの表情で諏方は、床に倒れ伏しているクラスの不良たちを見下ろしている。本来ならば背丈上常に他人を見上げる側であった彼だが、こうして他者を見下ろす側に立ったのは初めての事であった。


「てめぇが強すぎんだよ……たった一人で不良()たちをぶちのめすなんて……ナニモンなんだ、てめぇ……?」




「――元引きこもり」




 倒れたまま息絶え絶えに問う茶髪リーゼントに、諏方は感情の乗らない声で答える。


「わけわかんねー……だがへへ、てめぇはやっちゃいけねえ事をやっちまった……」


 敗れてなお、茶髪リーゼントは不敵に笑う。


「いい事を教えてやるよ、転校生(クソヤロウ)……この学校のクラス分けはAからDの四つ。そしてクラスごとに一年から三年をまとめて、それぞれを『桑扶高校四天王』が統括、管理をしている。俺たちB組の担当は豚山(ぶたやま)猪流(いのる)。桑扶高校四天王の一人にして――」


 ガタン――と、地響きのような音ともに引き戸が勢いよく開く。




「――四天王()()の男だ」




 扉の向こうから現れたのは諏方の身長よりも何等身も高い、二メートル越えの巨漢であった。




「――テメーが噂の転校生(新入り)か?」




 スキンヘッドに濃いめの焼けた肌、上部にとんがった穴が大きく見える鼻など、名が体を(あらわ)すかのように豚――または猪のような見た目をした大男がゆっくり転校生の背後に近づく。他の生徒たちと同じ学ランを着ている事から彼もこの学校の生徒に間違いはないのだろうが、それでもその異様な見た目はとても同じ十代には見えない。ヤクザや半グレと言われた方がまだ違和感はないであろう。


「ちぃせぇ……ちぃせえちぃせぇちぃせぇなあッ!! 小さすぎてハリネズミかと思っちまったぜ、銀髪のおチビさんよ」


「……あ?」


 自身よりも圧倒的に小さい転校生をせせら笑う豚山。彼を見上げる諏方の額に、ピキリと青スジが疾る。


 そんな転校生に対し、倒れたままでいる茶髪リーゼントの不良がまたも不敵に笑い出した。


「へへ、そんな強気な態度でいても意味ないぜ、転校生……豚山さんは桑扶高校四天王最強であられるお方。いくらてめぇが二年B組(俺ら)に一人で勝てるほど強くても、豚山さんには絶対勝てねえぜ……!」


 転校生に敗れ、痛みで呼吸を荒げてなお豚山の勝利を確信するのは、彼の四天王最強という実力への信頼ゆえのものである。他のB組の不良たちもまた、(あるじ)たる彼の勝利を信じて疑わない。




 だが――豚山は不服げな表情で茶髪リーゼントの不良へと近づき、まるで家畜を見るかのような蔑んだ瞳で彼を見下ろした。




「……豚山さん?」


「まだオレ様が喋ってる途中だろうが? 誰がテメーに割って入っていいと許可した、あ?」


 突然の理不尽なブチ切れ。そして豚山は、うつ伏せに倒れている茶髪リーゼントの腹を思いっきり蹴り上げた。


「ゴハッ⁉︎」


 茶髪リーゼントは血へドを吐き出し、両手でお腹を抱えながら悶え苦しむ。


「まったく、たかが転校生一人にクラスごとやられやがって……B組はオレ様の管理下な以上、テメーらの失態はオレ様の品位の低下に繋がるんだよ。ざけんなボケがッ!!」


 豚山は茶髪リーゼントの腹をさらに何度も蹴り上げる。


 明らかな怒りを見せる豚山に対し、しかし彼の凶行を止めようとするクラスメートは誰一人としていない。四天王最強という暴力の前には、誰も逆らうことができないのだ。


「ハァ……ハァ……ハァ……」


 過呼吸気味に息を血とともに吐き出す茶髪リーゼント。苦しむ彼に豚山は一度蹴るのを中断すると、今度は彼の頭上に足を振り上げる。


「いいかテメーらB組、よく見ておけよ? オレ様の役に立てねえゴミクズは、こうなるって事をよ!」


 茶髪リーゼントの頭を踏み潰そうと、豚山は自身の足を勢いよく振り下ろす。




 だがしかし――豚山の足は途中で止まった。




「なっ――テメー⁉︎」


 足の下、学生靴の底にもう一本彼のとは別の足が乗っかっており、それが踏み潰そうとする豚山の足を空中で止めたのだ。そして、彼の足を止めたのは――、






「重すぎんだろ。ちょっとは痩せておけよ――豚野郎」






 ――先ほどまで、二人のやり取りを黙って見ていた銀髪の転校生であった。

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