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あたしのパパは高校二年生  作者: 聖場陸
日傘の魔女編
275/302

第44話 決戦〜諏方VSヴェルレイン〜⑬

 ――、




 ――――、




 ――――――――、




 どれぐらいの時が経っただろうか――。




 狭間山を襲う暴風と振動は短くも長くも感じられた。まるでこの山一ヶ所に集中してあらゆる災害が発生したかのように周囲は荒れ狂い、結界の内側にいた者たちも耐えきれずに次々と身体が吹き飛ばされていった。


 だがその状況も強い閃光が放たれて目を閉じざるを得なくなり、何が起きたのかもその瞳に映すことはできなかった。


「…………っ……うっ……」


 やがて風も揺れも収まり、イフレイルはなんとかその場から吹き飛ばされずに地面を踏み締めていた。


 周囲を覆った白の閃光(ひかり)も徐々に消えゆき、やがて視界もゆっくりと開けてくる。一瞬ではあっても強い光を目視したせいか、目にモヤのようなものがかかって景色が見えにくくなってしまっているが、それも少しずつ薄まってきた。


 そして――、


「っ……これは……!」




 イフレイルの視界に広がっていたのは、憩いの場である緑豊かな丘の上の広場が、見るも無惨な荒野と化した姿であった――。




 ベンチや時計台、崖ぎわの転落防止用の柵はもちろん、周りを囲んでいた木々や草原(くさはら)などの緑も全てがチリとなり、辺り一帯は茶色(ちゃしょく)のみが広がる砂地と化してしまったのだ。


「……これが魔女のバースト魔法の威力……黒澤諏方の拳や数十の境界警察メンバー総出での大型結界で抑え込んでなお地形を変えるほどか……」


 もし結界などでバースト魔法の威力を抑えてなければ――その先の光景を想像しただけで戦慄し、イフレイルは思わず身震いをしてしまう。


「――ッ! あの二人は⁉︎」


 先ほどまで諏方とヴェルレインが立っていた広場の中心地には大量の砂煙が立ち込めており、イフレイルのいる位置からは状況が把握できなかった。


「……煙そのものに熱がこもっているな。煙が晴れるまでは容易(ようい)には近づけなさそうだが……こうなると、人間の小娘どもも……!」


 地形を変えるほどの爆発である。いくら結界で守られていたとはいえ、人間の子供では爆風で身体ごと吹っ飛ばされかねないほどの威力だったのだが――。




「――大丈夫ですよ、総支部長。この子たちの周りの結界は、一番魔力を厚くしましたから」




 イフレイルより少し離れた場所から声がする。振り返ると、多少の傷を負って息を少し切らしながらも、副支部長のウィンディーナが白鐘たち少女を(かば)うように彼女たちの前に立っていたのだ。


「……あたしたち、無事なの……?」


「ひええ……一瞬あの世っぽいお花畑が見えちまったのだぜ」


 白鐘と進は爆風で倒れてしまっていたが、上半身を起こした彼女たちの服や髪には多少のススや砂ぼこりがかぶっていた程度で、見た目からしても大きなケガはなさそうであった。


「わたしたちもがんばりました!」


「残った魔力のほとんどを使い切りましたが、みなさんがご無事なようで何よりです」


 シャルエッテとフィルエッテもそれほど大きなケガはなく、どちらかというと魔力不足での疲労の方が強く見られた。


「本当によくやったわ、あなたたち。私の結界だけじゃ、きっとこの程度では済まなかったもの」


 ウィンディーナから褒められ、素直に喜ぶシャルエッテと少し気恥ずかしそうに照れるフィルエッテ。


「貴様の方は大丈夫なのか、ウィンディーナ?」


 駆け寄りながら心配げに部下に声をかけるイフレイルに対し、彼女は信じられないものを見るような目で上司を見上げた。




「得意魔法が炎系のくせに、氷のように冷たい男と評判だった総支部長が……私の心配を⁉︎」


「うむ、元気そうで何よりだ」




 思っていた以上に元気そうな部下をジト目で見やるイフレイル。ボケをかます程度にはまだ余裕はありそうで、心配して損したと言わんばかりの呆れ気味なため息をついた。


「総支部長……我々のことも心配していただけないでしょうか……?」


 イフレイルの横からスーと、他の境界警察メンバーの一人が気まずそうに横入りをする。


「たわけ。境界警察たるもの、心配などと甘ったれた言葉を口にするな――と、いつもなら言ってやりたいところだが……」


 イフレイルが辺りを見回すと、爆風によって激しくひび割れた地面に複数の倒れている部下たちの姿が見受けられた。彼らの多くはそれぞれ軽傷で済んでいる者も見られるが、大きく傷を負って気を失っている者も決して少なくはなかった。


 自分の部下たちの予想以上の被害にイフレイルは一度頭をかかえるも、すぐさまキリッとした目つきで腕を下ろし、改めて部下たちを見渡す。


「ケガのない者、軽傷の者は十名ほどここで待機し、残りは重傷者を支部の治療施設へと(ゲート)魔法を使って移送しろ!」


「「「ッ――! はっ――!」」」


 迅速な判断で部下たちに指示を出し、部下たちも敬礼してすぐさまに行動に出る。


 部下たちからの信頼が厚くなければ、彼らもこれほどテキパキと素早く動くことはできなかったであろう。この一連の流れだけで、イフレイルの部下たちへの統率力の高さがうかがい知れた。




「……ッ! お父さんは? お父さんはどうなったの⁉︎」




 一時的に薄らいでいた意識がハッキリとし、白鐘は父の所在を求めて身体を立ち上がらせる。


「待て、人間の小娘! あそこはまだ高熱の煙が上がっている。不用意に近づけば、いらぬ火傷を負うぞ!」


 諏方とヴェルレインが闘った広場の中央へ駆けようとする白鐘を声で制すイフレイル。


「ッ……でも……!」


 足は止めるも、すぐさま駆け寄れない悔しさに白鐘は腕を震わしている。


 父の勝利は信じていた――それでも、生死不明な状況で肉親の心配をしないほど、白鐘は冷静にはなりきれなかった。






 ――その時、一陣のそよ風が吹いた。






 優しく肌をなで上げる風は戦場跡(広場)の煙をさらってゆき、やがて煙が覆っていた広場がその様相をゆっくりとあらわした。


「「「――ッ⁉︎」」」




 広場の中心には、底の暗い大きな窪みが開いていた――。




 バースト魔法の爆発によるものであろう、まるでアイスクリームを(すく)うディッシャーで(えぐ)り取られたような窪みの奥からは、まだ少量の高温の煙が尾をなびかせていた。


 そして――、




 その窪みの両端には、二つの人影が倒れているのが見えた――。




「ハァ……ハァ……」

「ハァ……ハァ……」


 両者共に荒いが、まだ息はある――。


 銀髪の不良(すがた)紫髪の魔女(ヴェルレイン)は共にあお向けの状態で倒れている。ほぼ死に体同然となった二人だが、その息づかいは彼らの生存を確かなものと確認させてくれていた。


「ハァ……ハハ、情けねえぜ。もう一ミリたりとも動ける気がしねえや」


「……それは法外な奇跡ね。魔女のバースト魔法を受けてなお五体満足でいられるなんて、この先の人生の幸運を全て使い切ったとしても割に合わないわよ」


「……その口の悪さ、テメェの方はまだ余裕そうだな?」


「……そうでもないわ。天地逆転魔法あまちさかずきのまほうに気への魔力変換……そしてバースト魔法の使用で大量に魔力を消費したのだもの。少なくとも、しばらくは魔法使いとしての活動は断念せざるを得ないわね」


「……そうか。お互い動けねえってんなら、第二ラウンドは引き分けになっちまうな。……格ゲーなら、こっから第三ラウンドに入るとこなんだが――」


「――このザマじゃ、お互いそれは無理な話ね。…………悔しいけど、認めてあげるわ」


 悔しい――そう口にしながらも、ヴェルレインはどこか――、


「先の第一ラウンドでの私の敗北と合わせて一敗一分け。つまり――」




 ――穏やかな笑みを浮かべていた。






「――あなたの勝ちよ、黒澤諏方」

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