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あたしのパパは高校二年生  作者: 聖場陸
日傘の魔女編
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第18話 丘の上の攻防〜魔法使いVS魔女〜⑩

 ――強大な魔力の波動は山全体を吹き飛ばさんが如く揺るがし、その軌道は天高く、フィルエッテの鎖に縛られた魔女へと向かってゆく。


「っ……いやよ……魔女である私が……こんなところで負けるなんて……いゃぁぁあ……」


 先ほどまで鬼の如く形相を浮かべていた魔女が、まるで少女のような悲しげな嗚咽(おえつ)を漏らすも、バースト魔法は容赦なく彼女の身体を焼き尽くさんと、そのスピードをゆるめない。


「いってくださあああい――!!」

「いっけええええ――!!」

「これで最期です――ヴェルレイン様……!!」


 少女たちの思いを乗せ、バースト魔法は魔女まであと数十メートルの距離まで迫る。


「いやぁぁあ……いやああああああッッッッ――――!!」


 魔女の最後の断末魔。弾道は空へと向かいながら、崖の手前にある柵を越えようとし――、











「――――――――なーんちゃって」











「――――ッ⁉︎」


 それまでの同情すら抱かせてしまう切なげな表情が消え、今までで一番の――心臓そのものが凍ってしまったのではないかと錯覚させてしまうほどに冷たく、不気味な笑みを彼女は表にした。




 ――瞬間、バースト魔法の放つ空気の振動による間接的なものではない、山そのものが揺れだす地響きが鳴りだし、柵の手前の地面がボコっと盛り上がって、何か巨大な突起物らしき物が飛び出す。


「なっ――」

「えっ――?」

「な、なんじゃありゃああああ――⁉︎」


 三人の少女たちは予想だにしなかった事態に、驚きの様子を隠せなかった。


 地面から迫り上がるように突き出たのは、拷問器具として有名な鉄の処女(アイアンメイデン)の形をかたどった、鉄製の巨大な入れ物であった。アイアンメイデンは砂ぼこりをこぼしながら、魔女を護るように天高くそびえ立つ。


 そして胴体にあたる部分にあったフタが轟音を鳴らしながら開かれる。中に入った者を串刺しにするための針は敷かれていながったが、その奥に広がる闇の中へとバースト魔法を迎え入れた。


 バースト魔法はアイアンメイデンを貫く事なく、まるで飲み物を容器に注ぐのと同じように鉄の棺の中へと取り込まれていく。


「あれは……いったい……?」


「なんかわからんけどヤバいってアレ⁉︎ シャルルちゃん! そのビーム止めた方がいいって!」


「ダメです! バースト魔法は一度発射されると、溜めた魔力が尽きるまで止められないんです……!」


 このまま正体不明の鉄製の棺にバースト魔法を撃ち続ける事がまずいとわかっていても、もはやシャルエッテにそれを止めるすべはなかった。


「く……あんな物が、地面の下に隠されていたなんて、そんな気配微塵(みじん)も…………まさか――⁉︎」




「フフフ、(トラップ)魔法はあなただけの専売特許じゃないのよ、フィルエッテちゃん?」




 身体を縛る鎖の魔力が弱まり、ヴェルレインは鎖をあっさりと引きちぎって、ゆっくり地面へと降下する。同じく鎖に巻きつかれていた日傘も右手で簡単に引き抜き、空いた左手は淡いを光を発して、それを胸の前へと当てる。


「浄化魔法――フフ、これでフィルエッテちゃんたちの作った毒も治癒されたわ。残念だったわね、二人とも? 私の動きを毒で鈍らせ、トラップ魔法で拘束し、バースト魔法を当てる――下等な魔法使いなりにいいアイデアだったとは思うけれど、魔女を倒す策としては、まだまだ詰めが甘かったわね」


 すました笑みで日傘を開き、頭上に差したいつもの()で立ち――大きく疲弊したシャルエッテたちに比べ、ヴェルレインの()()()()()()()()その立ち姿は、それだけで少女たちに絶望を与えた。


 やがてシャルエッテのバースト魔法の魔力が途切れ、全てをその中に収めたアイアンメイデンは再びゴゴゴと轟音を鳴らしながら、扉がゆっくりと閉まっていく。


「それは……それはいったいなんなのですか、ヴェルレイン様⁉︎」


 叫びにも似た大きな声で疑問を投げかけるフィルエッテ。疲労で今にも倒れそうな身体を足で踏ん張って支え、強い眼差しで睨む彼女をしかし、ヴェルレインは余裕の態度で受け流す。




「これは私手製の『魔力吸引装置』――使用できるのは一度きりだけど、相手の放った魔法を全て取り込む魔道具よ」




 自慢げにそう語りながら、魔女は魔力吸引装置(アイアンメイデン)のそばへと近づく。


形状(カタチ)はまあ……私の趣味(特に意味はないわ)ね。これをあなたのトラップ(得意)魔法と同様、地中の奥底に設置した魔法陣の中に封じ込めた後、私の好きなタイミングでいつでも発動できるように仕掛けておいたの」


 彼女は瞳をアイアンメイデンの方に向けると、その表面を愛おしげに撫でる。


「一介の魔法使いでしかないあなたたちが、魔女である私を倒す手段なんて限られてる。そしてあなたたちなら必ず、バースト魔法を使うって信じていたわ。あとはいかにシャルエッテちゃんにバースト魔法を安心して撃たせるか――フフ、私の追い詰められた()()、主演女優賞ものだったとは思わない?」


 ヴェルレインは楽しげに語りながら日傘を閉じて、その先端をアイアンメイデンの中心部へと突き刺す。すると鉄の塊はまるで軟体生物のようにグニャグニャとその巨体を収縮し、日傘へと吸収されてしまった。




 ――瞬間、魔女が恍惚の笑みを浮かべると同時に、彼女から漏れ出る強大な魔力でまたも山全体が激しく揺れ動いた。




「フフフ……本当に素晴らしい魔力量だわ、シャルエッテちゃん……! 魔法技術さえ伴っていれば、魔女の(私と同じ)高みに昇る可能性もありえたでしょうに……」


 山の揺れが鎮まり、魔女はゆっくりと少女たちへと向き直る。


「それにフィルエッテちゃんも……シャルエッテちゃんのバースト魔法に繋げる策を私なりにいくつか想定(シミュレート)していたのだけれど、新種の毒魔法を使ってくるのはさすがに想定外だったわ。……ほんと、ここで()()()()には、つくづく惜しい才能だったわね、二人とも」




「「「――ッ⁉︎」」」




 目を見開く少女たちの前でヴェルレインはまた日傘を閉じて、その先端を今度はゆっくりと彼女たちへ向ける。


「ま、待ってください! せめて……せめて進さんだけでも見逃してください!」


「ちょっ⁉︎ 何言ってんだよ、フィルルちゃん⁉︎」


 突然のフィルエッテの嘆願に、戸惑うは進本人であった。


「……進さんは、ワタシたちの応援に来ただけなのです。貴女に直接害を成しておらず、貴女の計画にも彼女は無関係なはずです! どうか……どうか彼女だけでも……!」


「ふざけんなよ、フィルルちゃん! アタシだって死ぬのは怖いけど……でも、あんたたちを置いて逃げるわけには――」


「――よく言ったわ。その勇気(ばんゆう)、褒め称えてあげるわよ、天川進ちゃん」


 二人のやり取りをからかうように、ヴェルレインも彼女たちの会話に割って入る。


「え⁉︎ ああいやその……褒めてくれるのは嬉しいんですけどね、魔女さん。できればそのぉ……お褒めついでにみんなを見逃してくれたり――」


「――ダメよ。どのような理由であろうと、戦場に足を踏み入れた以上、生きて逃れようだなんて甘い考えは許してあげない」


「ですよねー!」


 キッパリと切り捨てられ、それでもなんとかこの場からみんなで逃げられないかと頭の中を巡らせる進。それをあざ笑うかのように、魔女は続ける。


「それに、ここで殺さなくともたいして変わらないわ。だって――」


 魔女の笑みに再び、身も凍らせるほどの冷たさが宿る。






「――どうせあと少しで、城山市も桑扶市も、町の人間は()()死ぬもの」






「「「――――ッッ⁉︎」」」




 ――町の人間が全員死ぬ――魔女はたしかにそう口にし、三人の少女は絶望で頭が真っ白になり、立ち尽くす。


「ヴェルレイン様…………貴女はいったい……何を……?」


「教えてあげてもいいのだけど、余計な邪魔が入る前にさっさと準備を進めたいの。名残惜しいけれど……ここであなたたちとは、お別れよ――」






「――それでは遠慮なく、邪魔をさせてもらおうか、日傘の魔女よ」






「――っ⁉︎」


 声とともに一瞬にして、金の装飾を入れた青いローブを纏う複数の人物たちが、魔女を取り囲むように姿を現した。


「境界警察……!」


「ようやくここまでたどり着いた……ずいぶんと手間取らせてもらったな、魔女よ」


 境界警察たちの中から一番に目立つ赤髪を逆立たせながら、彼らのリーダーであるイフレイルが手のひらを魔女に向けて一歩前へと出る。


 魔女は明らかにイラだっている様子を隠さず、忌々しげに目を細めて彼らを睨みつけるのであった。

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