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あたしのパパは高校二年生  作者: 聖場陸
蘇る銀狼編
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第14話 一触即発

「あっ!? 天川、むやみに手榴弾投げんじゃねえ!」


「だって、爆弾使いなんだからしょうがないじゃん! ほら、大太刀使いは文句言わず、敵の足の方に斬り込む」


「二人共、敵に突っ込みすぎない! ドラゴンゾンビは、背中が弱点だから後ろから斬り込んで。私もボウガンでサポートするから」


 俺と白鐘と進ちゃんは昼休みに、教室でゾンハンの通信プレイに興じていた。


 昨夜は晩御飯の後、なぜかどんよりとした瞳の白鐘に、特訓と称されて夜中までゾンハンをやらされた。


 どうやら昨日の教室でのゲーム趣味を暴露された件に、彼女はそうとう腹に据えかねたらしく、もういっそのこと仕返しもかねて、ゾンハンをみっちり叩き込まれたのだ。


 その甲斐あって、俺の使っているキャラのレベルも上がり、難しいクエストもだいぶこなせるようにはなってきたのだが、あの時の娘のスパルタっぷりは、今思い出してもゾッとするほどだった。


 白鐘はもちろん、進ちゃんも相当やりこんでいたのか、俺なんかよりも遥かにレベルが高く、装備も俺のと比べて、見た目も豪華で強そうだ。


 周りには昨日のように、俺達の様子が気になったギャラリー達が、ゲーム画面を覗き込んでいた。


「わぁ……黒澤さん、本当にゲーム得意なんだぁ」


「天川さんも、すげえレア装備持ってやがるぞ」


「おいおい、大丈夫か黒澤従姉弟? 完全に足引っ張ってるぞー?」


 ギャラリー達は、白鐘と進ちゃんのプレイングに感心すると同時に、俺の苦戦ぶりも楽しんでいた。実際、画面の中の俺のキャラは二人に比べて動きが鈍く、完全におんぶに抱っこ状態だった。


「ぬおっ!? やべえ、大ダメージ食らっちまった」


「ほら、ミックスハーブあげるからそれで回復して。回復後は右翼に、私は左翼から相手の動きを抑えるから、進はその隙に、ありったけの手榴弾を敵の背中に投げといて」


「回復サンキュ」

「あいあいさー」


 俺達の連携プレー――っといっても、ほぼほぼ二人のおかげ――でなんとか画面の向こうの敵を追い詰め、進ちゃんが数十個の手榴弾を連続で投げたところで、ようやく巨大なボスが倒れたのだった。


 その瞬間、クエストクリアの画面と同時に、教室中が歓喜の声に包まれた。


「うおー、すげぇ!」


「高ランクレアのドラゴンゾンビを、十分もかからずに倒しやがったぞ!?」


「三人ともやるじゃーん!」


 クラスの皆が俺達のことを褒め称えてくれた。特に、俺と進ちゃんに的確な指示を与えてくれた白鐘の元に数人の男女が、同じくZwitchを持って集まってきた。


「次、俺と一緒にクエストやってくれよ!」


「ねえねえ、昨日ゾンハン買ったばかりなんだけど、やり方教えてくれる?」


「ここのクエストのシークレットミッション、どうやればクリアできるの?」


 彼女の周りがワイワイガヤガヤと賑わい、白鐘は恥ずかしさで顔を赤くしながらも、一人ひとりに優しく応対していた。


「ふむふむ、白鐘の周りに人が集まってる光景は、なかなかに貴重ですなぁ」


 進ちゃんが、我が子の成長を見守る母のような眼差しで、嬉しそうに首を縦に振っていた。


「まあこれで、アタシも堂々と白鐘とゲームトークができるってもんよ」


「……やっぱし、白鐘は自分から人を遠ざけていたのか?」


「おっ、さすが従姉弟、白鐘のことわかってんじゃん。あいつ、美人で成績優秀で大人びた雰囲気だから人気はあるけど、そのせいで恐れ多くて、みんな近づけなかったみたい。あいつと気軽に会話してたのは、アタシぐらいなもんだよ」


 進ちゃんの言葉に、俺は思わずクスッと笑ってしまう。


「ありり? ギャグ言ったつもりはないんだけどぉ?」


「わりぃわりぃ。でも――美人で成績優秀で大人びた雰囲気――なんて、あいつはそんなお嬢様みたいなもんでもなんでもねえよ」


 俺の目線の先にいる彼女は、昨日までのギスギスとした雰囲気はなく、困り顔ながらも、純粋に笑っているように見えた。


「あいつは――どこにでもいる、ごくごく普通の女子高生おんなのこだ」


 これは俺の予想だが、白鐘は今まで周りの勝手な期待に応えられるように振舞ってきたのではないのだろうか?

 ゲーム好きであることが判明した瞬間のクラスの動揺ぶりから見ても、間違いはないと思う。


 本来の彼女は一見クールだが、ゲームはもちろん、勉強や運動が好きで、変に熱血なところもある――そんな普通の女の子が、クールな優等生を演じるのは並大抵のことじゃないはずだ。


 そのストレスが、おそらく家で俺に厳しい原因だと思うと、納得できるものもある――いや、切実にそうであると思いたい……。


 だが、今の彼女はクラスの期待イメージから解放された。その顔には、俺の前でもたまにしか見せない、なんの濁りもない優しい笑みがあった。


「ほうほう、まるで長いこと、一緒に過ごしてきたようなセリフですなぁ?」


 進ちゃんの指摘に、思わずギクッとしてしまう。


 確かに、最近再会したばかりの従姉弟という設定の俺が、あいつの本質を突くような発言をするのは、いささか違和感があったのかもしれない。


「おっ……俺はあいつの従姉弟だからな。そりゃあ、会えない期間は長かったけど、あいつの好き嫌いや趣味、未だあんまり大きくならない胸やあんなことまで――」


「――ちょっと話があるんだけどいいかなぁ、四郎く~ん?」


「あっ……」


 いつの間にか、白鐘が腕を組んで俺の後ろに立っていた。


 やだ、この怖い。顔は笑顔だけど、明らかに黒いオーラのようなものが後ろから出てるんですけど――ってなにこのデジャブ。


 昨日の光景を再現するかのように、俺は娘に襟首を掴まれて、廊下まで引っ張り出されてしまった。


   ○


「なにあれぇ? 今どき女子がゲーム上手いとか、ちょードン引きなんですけどぉ」


「ていうかぁ、今まで優等生やって格好つけてたのに、いきなりクラスに媚びだすとか、マジウザイんですけど」


「それにぃ、あの転校生もイケてないのに、やたら人気だよねえ?」


「加賀宮くんの方がぁ、よっぽどイケメンでイケてるよねえ?」


 一連の様子を眺めていた少年のそばに立っているギャル二人組が、的外れな陰口を叩いている。


「ねぇ、加賀宮くぅん。やっぱあんなのより、アタシ彼女にする方がよくない?」


「あっ、てめ抜け駆けすんな。加賀宮くぅん、こいつよりも私の方が断然可愛いだろ?」


 二人は先程、自分達が批判していた媚びを、加賀宮相手にやりだした。


「はっ? テメエみたいなブス、加賀宮くんが相手してくれるわけねえだろ?」


「誰がブスだよ? お前や黒澤よりは、全然マシだっつうの」


「――鳴くな、雌豚どもが」


 彼女達に、目線も向けずにボソッと呟いたのは、先程まで沈黙を守っていた加賀宮だった。


 罵り合っていた二人が口を止め、唖然とした表情で彼を見る。


「えっと……なんか言った? 加賀宮くん」


「……ううん、何も言ってないよ」


 曇りのない満面の笑みを貼り付け、少年はようやく二人に顔を向けた。


「そっ……そうだよね! 加賀宮くんが、ひどいこと言うわけないもんねぇ」


 聞き間違えた事にしようと必死になる二人からすぐ視線を外し、加賀宮は立ち上がって教室のドアに向かう。


「あれ? 加賀宮くん、どこ行くの?」


「……ちょっと、お手洗いにね」


   ○


「あんた……余計な事は言わないでって言ったよね?」


「わりぃ、調子に乗ってた」


 渡り廊下に連れ出され、昨日と全く同じシチュエーションで、俺は娘に睨まれる。


「まったく……お願いだから、あんまり目立つような事はしないでよね?」


 諌めてはいるが、白鐘の表情に、昨日ほどの険しさはなかった。


「でも、だいぶ楽になったみたいで、よかったんじゃねえか?」


「ん? なんのこと?」


「自覚してねえのかよ……だから学校で、素のお前が出せてよかったな、ってことだよ」


「っ……」


 彼女はなぜかまた、恥ずかしそうに目線をこちらから逸らす。


「あんた――四郎のせいで、こっちはいろいろと大変だったんだからね。今まであたしが、ゲーム好きなのを隠してたのに、それもバレちゃうし……」


「っ――!」


 さりげに、娘が『あんた』から『四郎』と呼び名を変えてくれたのを、俺は聞き逃さなかった。


 ――心の中でガッツポーズ。


「コホン――そのわりには、クラスの連中に楽しそうにいろいろと教えてたじゃねえか?」


「うっ――そっ、それは……」


 図星なのか、彼女は言葉を濁してしまう。


「そりゃあ、今まで優等生やってて、そのイメージが一気に崩れちまったのは謝るけどよ……父親としては、そうやって無理に気を張ってる娘を、どうしたって心配しちまうんだよ」


「……別に、四郎に心配されなくても、あたしは――」


「――白鐘さん」


「「――っ!?」」


 突然、俺達の会話を遮るように、一人の少年が俺の背後から声をかけた。確かこいつは――、


「加賀宮君……どうしたの?」


 ――そうだ。一昨日、俺の娘を家まで迎えに来て、俺が転校してきた時に握手を交わした、あの少年だ。


 彼はその時と変わらない笑みを、仮面のように貼り付けている。


 その後ろには、様子を見に来たであろうクラスメート達の何人かが、こっそりとこちらを覗いていた。


「わかってるだろ? 僕が君のことを――愛しているのを」


「ぶふっ――!?」


 思わず吹き出してしまった。

 いやまあ、一昨日の様子からして、この男が俺の娘に気があるのはなんとなく気づいていたが、よもやこんな堂々と、他の人が見てるこの状況で告白してくるなんて思わなかった。


 白鐘は警戒度マックスの表情で、俺の背中に隠れるようにくっつく。


「ちょっと!? 他の人にも見られてるんだよ?」


「……前から、人前でも気にせず僕は君に愛を伝えてきたじゃないか? 今更、恥ずかしがる事でもないだろ? それとも……」


 加賀宮は、今度は俺の方に、見下すような攻撃的な笑みを向ける。


「その男が、そばにいるからかい?」


「なっ――!? 四郎は関係ないでしょ!」


「どうして、そんなに顔を赤らめて動揺してるんだい? 今までだったら気にも留めずに、軽くあしらってきたじゃないか? ――やはり、彼は君にとって、特別な人なんだね?」


「そっ、そんなこと……だって四郎は――」


「黒澤白鐘は、周りを寄せ付けない冷たい存在感を放つ特別な女性――他の女子とは違うその魅力に、僕は惹かれたのに……彼が来てから君は変わってしまった」


 加賀宮はゆっくりと、俺達の方へと近づいてくる。


「君は元に戻るべきだ。氷のように冷たかったあの君に。そんな君こそが、僕の恋人となるべき女性なんだ……」


「いや……来ないで……」


 彼は俺に目もくれず、俺の後ろに立っていた白鐘に、腕を伸ばそうとした。


「――やめろよ、おい」


「っ――!?」


 その腕を、強引に掴み上げた。


「男だからって、ちっとばっかし、ガッツキすぎなんじゃねえのか?」


「おとっ――四郎……」


 白鐘を含め、その場にいた生徒全員が、驚きの視線をこちらに向けていた。


 それもそうだ。大企業の御曹司が、一介の転校生に睨みつけられている光景は、彼らにとって想像すらしていなかったものだろう。


 加賀宮は俺の腕を強引に振りほどく。その顔には、いつもの笑みがかろうじて残っていたものの、明らかなイラつきが見えていた。


「……君こそ、従姉弟というだけの立場で、少しでしゃばりすぎなんじゃないかい? 彼女が誰に告白されようと、君には関係ないだろ?」


「やり方の問題だ。それに――テメェみたいな胡散臭い奴に、白鐘を渡す気はねえ」


「おおー!」っと周りから歓声が上がる。だが、俺と加賀宮はそれらを意に介することなく、互いに睨み合う。


「ほう……じゃあ君は僕と同じように、白鐘さんのことが好きなんだね?」


「へっ?」

「はっ?」


 予想だにしなかった言葉に、二人して唖然とした声が出てしまった。


「いやいや、そんなわけねえだろ! いやまあ……好きなことは好きなんだけど、女性としての好きというか……」


「ちょっと!? 四郎も何言って――」


「――なら、勝負をしないか? 白鐘さんを賭けて」


 ――思考が止まる。一瞬、彼の言葉を理解するのが遅れた。


「……あ?」


「だから勝負だよ。負けた方は、白鐘さんを潔く諦める。簡単なことだろ? 勝負といっても、殴り合いは好かないから、スポーツで勝負しないか? 種目は君が決めていい。それぐらいのハンデは君に与えよう。どうだ、悪くない提案だろ?」


 彼は自信満々な笑みを携える。


「うおー! 恋の三角関係かよ!」


「キャー、加賀宮くん超かっこいー!」


「加賀宮にケンカ売るなんて、あの転校生やベーよ!」


 加賀宮の後ろにいた野次馬たちが、興奮気味に騒ぎ出し始めた。

 

 一方の白鐘は、困惑気味に加賀宮へ抗議する。


「ちょっと待って! そんなこと、勝手に決めな――」


 そんな彼女の言葉を手で遮り、俺は彼に向かって一歩足を踏み出し、全力で彼を睨み上げる。


「――てめえ……白鐘を賭けの対象にしやがったな?」


 俺の深い怒気を孕んだ声が、騒いでいた野次馬たちを黙らせた。加賀宮も、予想していなかった行動に目を見開いていた。


「種目はてめえが選べ。お前の得意なもので叩き潰してやる」


「四郎……」


 心配げな娘の声が後ろから聞こえた。


「……へえ、ずいぶんと強気に出るんだね。いいだろう。なら、バスケはどうだい? 必要なものはボールとネットだけの、比較的やりやすいスポーツだろ?」


「かまわねえ。そのかわり、俺が勝ったら二度と白鐘には近づくんじゃねえぞ」


「……その強気、いつまで保ってられるか楽しみだよ。それじゃあ、昼休みの時間も残り少ないし、さっそく体育館に行こうか」


 余裕の笑みを浮かべて、彼は体育館へと先に向かい、俺も後ろからついて行く。


「ちょっと、なに二人で勝手なこと決めてるのよ!?」


 後ろで白鐘が、小声で俺に耳うちをする。


「……勝手に話が進んだのは悪いと思ってる。けど、俺はあいつを許すわけにはいかない」


「でも、加賀宮君はバスケ部のキャプテンなんだよ? 勝てるわけないじゃない」


「そういや、進ちゃんがそんなこと言ってたな。まあ、ここはお父さんに任せなさい。せっかく若返ったんだ。戻ってきた体力を存分に生かさねえとな」


「……本当に勝てるの?」


 白鐘の顔色が不安で陰る。俺はそれに対し、なんでもないような笑みを彼女に向けた。


「勝つさ。娘のためなら、負けはしない」


「……っ」


 あっけらかんと言う俺に少し驚くも、彼女は諦めのため息を吐いた。


「もう……知らないんだから」


 呆れたように言う彼女の顔は、なぜかほんのり赤めいていた。

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