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あたしのパパは高校二年生  作者: 聖場陸
夕闇に吠える狼編
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第1話 食事会

「むぅ……! このにらればって料理、メチャクチャ美味しいですっ!」


 食卓にて喜びの声をあげていたのは、魔法使いの少女シャルエッテ。大皿に乗ったニラレバを彼女は次々と口にかっこんでいく。


「こら! みんなで取り分ける用のお皿に自分の箸をつけるなんて行儀が悪いでしょ、シャル!」


 シャルエッテの右隣りで叱咤しったするは、彼女の姉弟子であるフィルエッテ。


「フィルエッテさんの言う通りよ、シャル。フィルエッテさんなんて姿勢も綺麗だし、食べる時の動きにも無駄がないんだもの」


 フィルエッテの行儀を褒め称えるのは、シャルエッテの真向かいに座る白鐘。


 余談ではあるが、フィルエッテとの同居以来、しばらく白鐘は彼女に対してわずかだが警戒心を抱いて少し距離を置いていたのだが、その様子を嫌がりもせず常に白鐘や諏方に気を配り、家事なども率先して手伝ってくれるフィルエッテにいつしか白鐘も心を開き、今では逆に尊敬を込めて彼女をフィルエッテさんと呼んでいるのであった。


「はうー……なんだかフィルちゃんが来てから、シロガネさんがより厳しくなった気がしますぅ……」


「ファファ、ふぇふぉふぁえに(目の前に)ふぇふぉんふぉふぁふ(手本となる)ふぉふぁ(子が)ふぁふぁふぇふぇふぁ(現れた)んふぁあ(んじゃあ)、モグモグ……ゴクン……白鐘だって張り切りたくもなるわな」


四郎・・も、口にご飯入れた状態で喋らない……!」


 シャルエッテの左隣りに座っていた四郎(諏方)は白鐘から注意され、ヤベッといった表情で彼女から目をそらす。


 食卓の片側には諏方と魔法使いの姉妹弟子二人。白鐘は三人の真向かいに座っている。いつもなら諏方と白鐘が隣同士、その真向かいにシャルエッテとフィルエッテが座るというのが主な食事時の構図なのだが、今日は少し違う。


 もちろん、白鐘が一人寂しく座っているわけではない。彼女の隣に座っていたのは――、




「いやぁ、でもこうやって美味しそうに食べてくれると、作った側としても嬉しいもんよ」




 ――白鐘の幼なじみであり、親友の天川進であった。


 今いる場所もいつもの黒澤家ではなく、今日は夕食会という名目で隣家の天川家にて、諏方たちは進の手料理を振舞ってもらっていたのだった。


「それにしても驚きました、ススメさんがここまでお料理上手だったとは……! 学校ではいつもコンビニのおにぎりやサンドイッチでしたので、てっきり料理はあまりされていないイメージでした」


「ハハ、見た目がガサツだし、よく言われるよ。アタシんちは親父が出張とかで留守しがちだからさ、料理も面倒であんまりやらんのよね。だから料理の腕が落ちないよう、こうして定期的に白鐘先生の指導のもと、我が家にて夕食会を開いてるってわけさね」


 黒澤家に天川家、共に父娘家庭であった両家は似た境遇という事もあり、子供たち二人が幼いころから両家は親子共々交流が深かった。特に子供二人は親が仕事で留守になる事も多かったため、小さいころは学校帰りにどちらかの家で遊ぶ事も多く、料理などの家事も二人で学んでいった。


 そしてたまに親二人の時間などに余裕があった時には、このような形で食事会を定期的に行っていたのだ。料理の上達をお披露目するという名目もあったが、何より仕事で忙しい親二人をねぎらいたいという娘たちの思いが強くこもった食事会。


 ここしばらくは進の父親だけでなく、――表向きには――諏方もまた長期出張のため食事会が開かれる事もほとんどなくなったのだが、黒澤家の同居人が増えてきたという事もあり、今日は交流も兼ねての夕食会となったのだ。


「指導って言ったって、あたしが特に手を出さなくても十分美味しくできてるわよ。むしろ、中華だけならあたしよりもずっと上手くできてるわ」


 テーブルにはニラレバをはじめとして、酢豚や青椒肉絲チンジャオロースなど、中華料理を中心としたおかずが並べられていた。シャルエッテが絶賛するニラレバはもちろんだが、どれもお店のものと遜色そんしょくないぐらいに一級品の味であった。


「白鐘先生にそう言ってもらえると、アタシも誇らしくなりやすね。まっ、アタシの親父はビール好きってのもあって、おつまみで油っこいものはよく作るからね。特にニラレバは親父の大好物でもあるから、シャルエッテちゃんに美味しそうに食べてもらえてアタシは嬉しいよ」


 今も豪快にニラレバを口に放りこむシャルエッテを見て、進はニカッと本当に嬉しそうに笑った。


「……ふふ」


「ん? どした、四郎?」


「……いや、なんでもねえ」


 ――そりゃクタクタになる仕事帰りでこんだけ美味いもん食わせてもらえるんだから、父親冥利(みょうり)に尽きるってもんだよな――っと、諏方は今も忙しくしているであろう進の父を思いながら、心の中でつぶやく。


「そういえば、ススメさんのお父様はなんのお仕事をされているのですか?」


 結局大皿に乗ったニラレバを全て一人でたいらげてから、ふとした疑問をシャルエッテが口にする。


「ああ、そういや言ってなかったっけ? アタシの親父は映画関連の広告会社で働いてるんよ。アタシの親父は映画好きでさ、それが高じて今の会社に就職したんだってさ。ま、最近は忙しすぎて、逆に映画観る時間がなくなったってよく愚痴ってるけど」


 進の父親の映画好きは諏方もよく知るところであった。彼もまた、いわゆるB級と呼ばれる映画が好きであり、同じくB級映画好きの諏方とは同じ趣味という点でも仲良くなれたのだ。


「あ、だからこの前ホラー映画のチケットが送られたのですね?」


「まあ、あっちは親父の友人からもらったやつらしいけどね。んで、今の会社は海外出張も多いからさ、一年で家にいる時間よりも海外の方が長かったりするんよね。ま、この前みたいにいきなり帰ってくる時も珍しくはないんだけど」


 ため息まじりで不在がちの父親の事情を語る進。父親の事を嫌っているわけではないのだが、好きな趣味を仕事にできる会社には入れたものの、忙しすぎて趣味の映画が観れなくなるという本末転倒ぐあいに、娘はただ呆れるばかりであった。


「でも、まだ一度もご挨拶してないので、いずれお会いしたいですね。ススメさんは強くてお優しいですし、きっとお父様も立派でお優しい方なのでしょうね」


「うぉう、ストレートに褒められると気恥ずかしくなるなぁ……。でも、理想は高くしない方がいいよ、シャルエッテちゃん? ガサツなところはアタシとそっくりだけど、気弱だし、人の言う事は聞かないしで、あんまいいとこないよ? ……まあ、優しいってところは合ってるかもだけど」


 最後の部分は、声を小さめに顔を少し赤くしながらこぼす。


 進の言う通り、活発的な娘と違って彼女の父が気弱な性格である事を諏方もよく知っているが、彼女が最後につぶやいた通り、娘のことを大事に思う優しい父親である事もまたよく知っている。


「っ……」


 今はこんな(若い)姿であるため、以前のような交流は難しいかもしれないが、またいつか映画の話をしながらお酒を一緒に飲める日が来る事を、諏方は心の中で願うのであった。




 ――ピンポーン。




 ふいに和気あいあいとした団らんに切り込むように、玄関のチャイムが響き渡った。


「誰か来たみたいですね? 他に夕食会に誰かお呼びしたのですか?」


「うんにゃ、ここ以外の人は呼んだ覚えはないけど……とりあえず出てくるわ」


 箸を置いて立ち上がり、進は小走りで玄関の方へと向かう。


「最近通販頼んだ覚えもないけど、いったい誰なんだ?」


 食事会を邪魔されたような気分になり、多少のイラつきを感じつつも、進は「はーい、今開けまーす」という声とともに玄関を開く。




「――進、久しぶり」




 玄関の前にいたのはスーツ姿の一人の男性。メガネをかけ、ボサボサぎみの髪にヒゲが少々とパッと見、だらさしなさそうな印象を抱かせる。自身の名を呼んだその男性を、進はよく知っていた。




「親父――⁉︎」




 よく知る男性ではあったが、いつもは事前連絡があるはずの予期せぬ父の帰省に、驚く娘の声は天川家全体に響き渡るのであった。

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