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あたしのパパは高校二年生  作者: 聖場陸
二人の姉妹弟子編
122/323

第18話 姉妹弟子対決〜シャルエッテVSフィルエッテ〜②

 二人の魔法使いの決闘を見守っていた誰もが、目の前の光景に驚きで目を見開いていた。


 先ほどまで防戦一方であったシャルエッテが傷だらけになりながらも仁王立ちしており、無傷であったはずのフィルエッテが今は血だらけで片膝を地についていたのだ。


 シャルエッテは右手の人さし指と中指を伸ばして銃のように見立て、その指をフィルエッテに向けている。彼女を串刺しにするはずだった周囲の鎖は主の命令がダメージによって途切れたためか、だらしなく地面に垂れ落ちていた。


「ハァ……ハァ……今のはいったい……」


 フィルエッテは身体しんたいへのダメージ以上に、何が起きたのか把握できなかった事への精神的ショックで呆然としていた。


 何をされたかまでは理解できている。彼女の身体を貫いたのは、複数の細いレーザー型の魔力砲であった。一発一発に込められた魔力はそれほど強くはないため、ダメージ自体は見た目ほど重いものではない。


 しかし、重要なのはシャルエッテがいつ魔力砲を撃ったのかであった。彼女はフィルエッテの鎖をよけるのが精一杯で、とても魔力砲を放つための隙などありはしなかったはずなのだ。


 フィルエッテの目の前に立つ妹弟子の姿が、まるで別人のように彼女には見えていた。




「――――魔力感知に集中してみなさい、フィルエッテちゃん」




 ――ただ一人、シャルエッテの仕掛けの真相に気づいていたヴェルレインが、冷静にフィルエッテを諭す。


「魔力……感知……」


 フィルエッテはなおも戸惑う心を落ち着かせて、目をつぶって周囲の魔力を探り当てる。


 ――そして、彼女は自身が展開したいくつかの魔法陣にくっつくように、自身のものではない小さな魔力の塊を複数感知したのであった。


「ハッ――!」


 新たにトラップ魔法を発動させ、フィルエッテは対象の魔法陣を鎖で貫いて破壊する。


「ッ――⁉︎ これは……」


 破壊された魔法陣に隠れるように浮かんでいた魔力の正体に、フィルエッテは再び驚愕の視線を向ける。


 ――魔力の塊というのは比喩表現などではない。そこに浮かんでいたのは、魔力の塊そのものであったのだ。


遠隔ビット型の魔力砲ね……。通常、魔力砲は手のひらかケイリュケイオンに魔力を集中させて放つ砲撃だけれど、魔力を一つの塊にまとめて浮遊させる事で、いつでもその魔力内での威力の魔力砲が塊から撃てるようになるわ」


 空中に浮かんでいる魔力の塊はシャルエッテによるもの。その塊から、彼女は複数の魔力砲を放ったのであった。


 なお笑顔が消えたままのヴェルレインは、わずかに感心するような視線でシャルエッテの魔力を見つめている。


「通常の魔力砲と比べて塊が霧散むさんしないよう、一定の魔力維持が必要になるし、維持する魔力が強すぎても弱すぎてもバランスが保てなくなってしまうゆえ、難度の高い魔力コントロールも必要になる。……いつの間に、そんな器用な事ができるようになったのかしら、シャルエッテ・ヴィラリーヌちゃん?」


 問いは単純ではあるが、その声には聞くだけで身体を震わすような圧を感じさせる。


 ――だがしかし、シャルエッテはその声に動じる様子を一切見せないでいた。


「いつとかれるとちょっと困っちゃいますが……わたしはフィルちゃんみたいにトラップ魔法という高難易度な魔法を今も使えませんが、少しでも似てる魔法が使えるようにと一生懸命練習したのです!」


「……なるほど、たしかにビット型魔力砲とトラップ魔法は、共に遠隔操作を主体とした魔法。操作難度の違いはあれど、その攻撃方法や操作に必要な魔法技術はとてもよく似ているものね。……フィルエッテちゃんへの憧れが、ビット型魔力砲の到達へと至った奇跡を起こした――と言ったところかしら?」


 シャルエッテの返答に満足し、再びヴェルレインの顔に妖しい笑みが戻る。


 一方、フィルエッテの方は未だにこの状況への戸惑いを拭えてはいなかった。


「……いったいいつの間に、ワタシのトラップ魔法の裏にビットを仕掛けたというの?」




「お前の鎖をよけていた時にだよ、フィルエッテ」




 戦況の変化に驚きつつも、その後は冷静に状況分析をしていた諏方が口を挟んだ。


「シャルエッテはお前のトラップ魔法をかわす際に、魔法陣のいくつかに一瞬だけ手をかざすかなんかして、フィルエッテの死角になる位置にそのビットなんとかってのを仕掛けていたんだ――そうだろ、シャルエッテ?」


「はい……そこまで見抜いていたとは、さすがですね、スガタさん」


 諏方の言葉通り、シャルエッテは次々と迫る鎖の攻撃をかわしつつも、フィルエッテにバレないようにわずかな動作で、魔力砲を撃つためのビットを仕掛けていたのだった。


「いや、今のはどうすればこの状況に至ったのかを分析しただけであって、実際に俺もお前が何を仕掛けてたのかまでは気づけなかったよ。……というかあの鎖、本気でかわそうと思えば無傷でかわせてただろ?」


「テヘヘ……バレちゃいました?」


 傷だらけになりながらも、照れ臭そうに笑うシャルエッテ。だがそんな二人のやり取りに、フィルエッテはさらに驚きを重ねてしまっていた。


「それじゃあ……シャルはビットをワタシの魔法陣の裏に仕込むために、わざと鎖に斬られていたとでも言うの……⁉︎」


「……その通りです。さすがにビットを仕込むためには、数瞬だけでも動きを止めなければなりませんからね」


「ッ……」


 フィルエッテは悔しさで歯噛みする。戦況は完全に自分の流れにあると思いこんでいた。だが実際、追い詰めていたのは自身ではなく、どんくさいはずの妹弟子の方であったのだ。


「フィルエッテ……お前はたしかに、魔法においてはシャルエッテよりも上なのかもしれねえ。だけどよ……シャルエッテも人間界に来てから、何もしてこなかったわけじゃねえんだ」


 諏方は振り返る――出会いは河川敷かせんじきで溺れているところを助けたあの日から。


 彼女は自身を落ちこぼれだと何度も卑下ひげしていた。最初の敵である仮也ヴァルヴァッラと対峙した時の震えぶりを見れば、彼女が臆病であった事にも察しはついていた。


 だが――彼女はそんな現状を良しとはしなかった。


 路地裏の魔女(シルドヴェール)を相手にした時は、彼女は白鐘や子供たちを守るために奮闘した。


 城山高校でのゾンビ騒動時には道を切り開き、青葉が追い詰められた際には彼女を守るために前へと出た。


 ――臆病で落ちこぼれの魔法使いは、いつしか誰かを守るために戦うことを覚えていったのであった。


「少なくともこの人間界で戦ってきた経験は、確実にシャルエッテを強くしたはずだ。お前がどんなに優秀な魔法使いであろうと、俺はこの人間界で成長してきたシャルエッテの勝ちを信じているぜ……!」


「スガタさん……」


 諏方の言葉一つ一つに、シャルエッテは感極まって涙を浮かべそうになる。彼には多大な迷惑をかけてきてしまった。それでも、そんな彼が自身の努力を認めてくれた事が、シャルエッテにとって何よりも嬉しかったのであった。


「っ……」


 フィルエッテは見誤っていた。たしかに彼女は、魔法界でのシャルエッテをずっと見てきた。


 だが、シャルエッテはこの人間界で成長してきたという可能性に一切気づけなかった事が、今の状況に至った最大の要因である事をフィルエッテも認めざるを得なかった。


「フィルちゃん……フィルちゃんは、わたしのことをずっと見てきたと言ってましたよね? その通りだと、わたしも思います。でも……フィルちゃんは、ただわたしを見ていただけなんです……」


「…………」


「フィルちゃんはいつだって、わたしのずっと前を歩いていたんです。追いかけようだなんて躊躇ためらってしまいそうになるほど、ずっとずっと前を……。そして、時折わたしの方に振り返っては、優しい声でわたしに語りかけてくれたり、厳しく指導してくれたりもしました。でも……あなたは決して歩みを止めませんでした。どころか、どんどんわたしと距離を離していったのです」


「…………」


「……だけど、わたしはただあなたを見ていただけではありません。あなたの背中を追いかけ続けていたんです。……簡単に追いつけないのはわかっています。時には、膝を折ろうと思った事なんて何度もありました。ですが……わたしは諦めませんでした。どんどんわたしと距離が離れていくとわかっていても、わたしは前へ進む事を諦めませんでした。だって……わたしはずっとあなたの後ろではなく、隣を歩いていたかったから……!」


「っ……⁉︎」


「姉弟子として……一人の魔法使いとして……わたしはあなたの背中に憧れ続けていた……。だからこそ、いつかあなたの後ろではなく、あなたの横で、友達として一緒に歩きたかったんです。それが……あなたの妹弟子であるわたしの一番の目標なんです……!」


「シャル……」


 心情を吐露するシャルエッテの腕はわなわなと震えている。いつしか、不敵な笑みも彼女の顔から消えていた。


「それでも……今回ばかりは本当に膝が折れそうでした。あなたがわたしをほんの少しであっても憎んでいたのを知って……たとえそれが誰にでもあるようなわずかな憎しみだったとしても、それを受け入れるのがすごく苦しかったです…………でも、スガタさんに言われて気づいたんです。わたしだって、フィルちゃんにはいっぱい不満があったって事を」


 シャルエッテは顔を上げ、キッとした瞳でフィルエッテを睨みつけた。


「フィルちゃんのお説教はお師匠様よりも長いし、たまに一言多いし、すぐ呆れてため息はつくし、鬼だし、たまにケリュケイオンで頭殴るし……知ってました? フィルちゃんのケリュケイオンって鎖が付いてて、殴られるとメッチャ痛いんですよ⁉︎」


「…………悪かったわね」


 フィルエッテは素直に驚いていた。いつも怒られては泣いてばかりであっても、素直に従ってきたシャルエッテがこれほどの不満をぶつけてきたのはこれが初めての事であった。


「でも…………そんなムカつくところも引っくるめて、わたしはフィルちゃんの全部が好きです……! フィルちゃんがわたしのことを嫌いになっても、それだけは絶対に変わらない」


 一歩――シャルエッテがフィルエッテへと近づく。踏みしめる足は、自信に満ちて力強い。


「フィルちゃんが今回わたしの攻撃をくらったのは、フィルちゃんがわたしに対して油断していたからです。……わたしを誰だと思っているんですか? わたしは、天才と呼ばれたあなたの背中を追い続けた妹弟子ですよ?」


 さらに一歩――そして、自身を鼓舞するように――いや、ありったけの怒りを込めて、シャルエッテはケリュケイオンを地に突き刺した。




「優秀な姉弟子を持つ妹弟子を――あなたの背中を追いかけ続けてきたわたしを、舐めないでくださいッ!!」

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