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第四話 出会いは闘争と共に

 何が飛んで来てもいいように魔剣を構えながら歩き進む事暫し。ソレは唐突に飛んで来た。


「っ!」


 咄嗟に魔剣で切り払おうとして、ソレが別段こちらを狙っている訳ではない事に気づく。何もしなくとも当たらない、威嚇射撃ですらないただの流れ弾だと。

 氷塊。そういう他ない砲弾は俺の二、三メートル先で壁に当たって砕ける。凄まじい衝撃と共に。そこでハタと思い出すのは先程の畜生どもの死体に残された外傷の事。考えるまでもない。あの畜生どもに致命傷を与えたのはあの氷塊の砲弾で、その射手だ。


「━━━━」


 何かが聞こえる。遠く、また反射しているせいか正確には分からないが、何かを叫んでいるらしい。先の流れ弾を考えると、恐らく戦闘中なのだろう。

 迷いは、殆んど無かった。流れ弾に対応するために魔剣を慎重に構えつつ、地を蹴って渦中と思われる場所に走り寄る。二蹴り、三蹴り、通路が終わり、視界が開ける。渦中の部屋に出たらしい。


「グルガァッ!」

「グルオォ!」

「ギャギャ!」


 先ず目につくのは最早見慣れたオーガとゴブリンが数匹。奥にはトロールらしき姿も見え、どうやら俺を襲ったのと同レベルの群れらしい事が察せられた。

 魔剣を手にする前なら、間違いなく黙って回れ右からの全力ダッシュだろう絶望の光景。だが、この魔剣はそんな安い絶望を容易くひっくり返す。

 魔剣が唸る。笑みが浮かぶ。贄が来たと。

 踏み込みは強く、魔剣は上段に、そして。


「死に曝せぇぇぇええ!」


 物騒な雄叫びと共に突貫し、魔剣を振り下ろして叩き斬れば、恐ろしき鬼は無様にも肉塊へと成り果てる。血は啜られ、贄となり、魔剣と俺の調子は絶好調へ。

 視線をずらせば俺の出現に困惑する畜生ども、遅い。


「シィッ!」


 降り下ろした魔剣を跳ね上げる様に切り上げてオーガを両断、その勢いのまま回転しつつ前進し、ゴブリンを数匹巻き込み切り飛ばす。

 生き残りがようやっと俺を認識したのか、我先にと襲い掛かってくるが……問題にもならん。先頭に蹴りを入れ、行き足が止まって団子になった所に魔剣を左から右へ、右から左へ、踏み込みつつ片手で水平に二度振ってやればそれだけで贄が増える。血は出ない。


 視界が開ける。


 魔剣を中段に構え直しながら辺りに視線を流せば、どの畜生どもとも最低で二息分は距離が合った。恐らく、獲物を囲んでいた影響だ。その証拠に、ほら、畜生どもの中心にフードで顔を隠した人影が見える。

 果たして敵か、味方か、そう思い視線を投げて見れば━━目が合う。綺麗な、吸い込まれる様な、紅い瞳と。


「っ━━」


 一秒、二秒、と視線が重なり続ける。綺麗な、透き通る様な、紅い瞳と。

 三秒、四秒、時間だけが過ぎる。何かを言わねば、しかし何を? いや、そもそも口が動かない。何かを言おうとしていたのに、あの瞳を見ると上手く喋れそうにない。

 何なのだ、これは?


「━━加勢を、お願い出来ますか!?」

「ぁ、あぁ! 勿論だ!」

 

 先に沈黙を破ったのは紅い瞳の人。かの人物はまるで少女の様な高い声で加勢を求めてきたのだ。その声音からは余裕が感じられず、切羽詰まっている様子が安易に伺えた。実際、ピンチだったのだろう。

 俺はその声に何とか返答を返し、少女と思わしき紅い瞳の人への加勢を行うべくモンスター目掛けて地を蹴る。身体と魔剣は絶好調、頭は冷えて……いや、少しばかり茹で上がっているかも知れない。だが。


「ゼェヤァァア!」


 畜生どもを殺すのに、何の支障もない。

 雄叫びを上げながら突撃した先でオーガを串刺しにし、そのまま更に地を蹴飛ばして地面に縫い付ける。血飛沫は上がらない。が、絶命。

 死体を貫通して地面に突き刺さった魔剣を引き抜きつつ、グルリと視線を巡らして獲物を探せば……臨戦体勢を取る畜生と、突っ込んでくる畜生が見えた。面白い。ボンクラばかりでは無かった様だ。


「ハッハァァァ!」


 笑う様な叫びを上げ、突っ込んでくる畜生どもから迎撃してやると魔剣を構える。

 一拍、タイミングを合わせての片手水平二段斬り。雑魚が消し飛び、デカブツが膝を付く。片手から両手持ちに切り替え、強く一歩踏み込んで追撃の袈裟斬り、贄が増えた。

 一呼吸、第二波、距離が良くない。後ろに大きく飛ぶ。足りない、もう一度。


「すぅ……はぁ……」


 迫る敵との距離は三息分。今がチャンスと一つ大きく深呼吸をし、酸素を取り入れておく。チラリと魔剣を見れば血糊の一つも付いていない、綺麗な刃がギラリと輝いた。絶好調だ。

 距離、一息分と半。魔剣を両手で持ちつつ左の方へと持っていき、刃を左奥へと流す様に手早く構える。距離、一息分。敵、一列。取った。


「シィッ!」


 短く息を吐きながら摺り足で半歩踏み込み、左から右へと魔剣を勢いよく振るう。その途上に少し大柄なゴブリンが二匹程いたが、抵抗すら感じない。首を跳ねた。奥にまだ敵、複数。続きだ、足を動かし強く地を蹴る。振るった勢いはまだ死んでない、ならば殺さずそのまま回転、刃を前へと持ってくる。前進しながらの回転斬り。今度は複数を斬った。

 魔剣が唸る。俺を突き動かす。次だ。


「ギャ、ギャギャ!」

「ギャ!」


 回転の勢いを殺し終わった俺の視界に、突貫してくる武器持ちのゴブリンが複数。手に持つ武器は、槍だ。面倒な。

 休む暇もない、ゴブリンが突っ込んで来る。後ろに飛ぶ暇は無く、半歩後退しつつ無理やり息を吐きながら魔剣の腹で横薙ぎに払う。


「ギャギャ!?」

「ギャ!」

「ギャギャギャ!」


 面倒な槍は俺まで届かない。バランスを崩し、隊列を崩し、味方にぶつかる無様を曝すゴブリン。煩い。仲間割れまでしている。敵を前にして。

 切っ先が地についた粗末な槍を踏み折りつつ、魔剣を横薙ぎに、今度は刃の方で振るう。首が飛び、腹を裂き、贄が増える。

 スッと視線を投げればこちらは殲滅できた様だ。が、敵はまだ残っている。


「━━やぁぁあ!」


 何気なく紅い瞳の人の方へと視線を向けると、丁度攻撃の瞬間だった。敵が居ない方へと後ろ飛びに下がりつつ、空中に出現させたらしい氷塊を発射する彼女。放たれた氷の砲弾を目で追えば……命中。オーガの腹を撃ち抜き、貫通し、その背後にいたオーガも撃ち抜いて炸裂。群れていたゴブリンを多数負傷させ、その多くを戦闘不能へと追い込む。大戦果だ。


「援護は、必要なさそうだ」


 砲弾として貫通し、その後爆弾として炸裂する。美しい見た目とは裏腹に、実にえげつない二段構えの攻撃。そんな事が出来るのならば心配は必要ないだろう。立ち回りも安定している様だし、直接的な援護は不要と見える。


 ならばどう加勢するか? 簡単だ。

 遊軍として暴れまわれば良い。戦場を引っ掻き回し、敵の連携と包囲を崩せば、後はどうとでもなる。


 そう結論付けた俺は軽く視線を回して一番近い集団に狙いを定め、そいつら目掛けて突撃する。

 槍の如く構えた魔剣が唸る。あと一歩。接触、貫通。


「ウ、ラァァァアア!」


 雄叫びと共に腕を振るえば、畜生に突き刺さった魔剣が贄の肉を切り裂きながら現れ、その勢いのまま辺りの畜生を斬り伏せる。触れたモノ全てを斬り捨てるその切れ味は凄まじく、斬る度に沸き上がる高揚感は止めどない。正しく、魔剣だ。

 とはいえ流石の魔剣も触れてないモノは斬れない。だから一歩踏み出す。魔剣は上段に、降り下ろして、斬り上げて、自棄の軽い一撃を柄で受け止め蹴りを入れ、追撃の横薙ぎ。時間差の攻撃が横合いから来る。槍だ。しかしそれもタイミングが合っていない畜生の一撃では驚異にならない。魔剣の腹で受け流し、一歩踏み出して斬り伏せる。

 そら、もう全滅だ。次へ行こう。


「あちらは……問題無いか」


 一応とばかりに紅い瞳の彼女の様子を伺うが、立ち回りに陰りは無い様に見えた。畜生どもと常に一定の距離を保ちながら、魔法と思わしき氷塊で確実に始末している様は手慣れている様子すら伺える。見事な引き撃ちだ。

 ……というか。これ、俺必要だったか?


「保険だったのか……? ━━いや、そうでもないらしいな」


 立ち回りに陰りや不安が無い様に見えたのは、本当にそう見えただけだったらしい。背後に周り込まれている。更に通路から新手の一団。どちらも既に彼女の後方を取っており、しかし彼女は未だ気づいた様子は無い。あのままでは挟撃を受けてしまうだろう。

 俺が、魔剣が無ければ。


「敵、後方! 前方は引き受ける!」

「っ!? 了解です!」


 全力で地を蹴って近くにいた畜生を斬り伏せながら叫んだ声に、幸いにも彼女は気づいてくれた。彼女は移動方向を変えて攻撃先を後方にいた敵集団にシフトし、今まで相手取っていた敵の処理をこちらに任せてくれる。


 ━━信頼なのだろうか? 無いとは思うが……しかし、だとしたら嬉しい話だ。


 彼女の背後を狙った奴らは遠く、手出しがしにくい。しかし今まで彼女が相手取っていた集団は俺から近く、今や攻撃範囲内だ。


「貴様らの相手は、この俺だぁぁあ!」


 彼女と畜生どもの間に割って入る様に飛び込みつつ、手近な奴を斬り倒す。

 それが気に食わなかったのか、それとも俺そのものが気に食わないのか、先頭となったトロールがその手に持った丸太と見紛おうばかりの棍棒を振り上げる。実に、大振りに。隙だらけだ。


「シッ!」


 短く魔剣を斬り上げて足を斬り付け、体勢を崩したところに魔剣の切っ先を突き込む。相手が巨体故に首を飛ばせはしない。だが魔剣はトロールのドテッ腹に深々と突き刺さり、そのまま無理やり斬り上げてやれば干からびた臓物をぶちまける。

 多く斬ってなお、いやだからこそ魔剣は絶好調だ。力が溢れる。


「グルガァ!」

「グガァ!」

「ギャギャ、ギャ!」


 オーガが二手に別れて、ゴブリンがその真ん中から、それぞれ武器を振り上げ襲ってくる。三方向からの同時襲撃、高さも微妙に違う。面倒な、まとめて薙ぎ払ってやろうか? いや、落ち着け、ここで傷付き足手まといになれば、かえって紅い瞳の彼女の負担になる事を忘れるな。慢心せず、安全策だ。

 短く呼吸しながら軽く後ろに飛んで、魔剣は左奥に流す様に構えて。そら、所詮は畜生、体格差からのスピードの違いを考慮していない。連携が、崩れた。


「セイッ! ハァ!」


 息を吐き出し、魔剣を振る。片手水平二段斬り。斬られ、オーガが崩れ落ちる。ゴブリンの一団、先頭に魔剣の切っ先を突き込み殺し、直ぐ様魔剣を引き寄せ、死体を蹴り飛ばして一団の足を止める。

 一呼吸、一歩踏み出す。魔剣は右奥から、軽く下向きに水平斬り。妙な抵抗が合った。どうやら軽く地面に当たったらしい。不覚。だが一団は壊滅だ。生き残りは少数。踏み込んで追撃、横薙ぎ、斬り上げ、突き殺し、全滅だ。


「くっ、はぁ、はぁ……」


 魔剣は絶好調、身体も疲れは無い。だが精神的にはかなりまいっていたらしく、息が乱れる。だが、休んではいられない。大見得切って引き受けると言ったのだから、最後までやりとげねば。

 前方近くに敵集団。一歩踏み出そうとして、気づく。面倒な、奴ら集団で二手に別れやがった。簡易かつ浅くはあるが挟撃だ。それに個々の脅威度もかなり高そうで、油断したら一発でミンチだろう事が察せられる。

 一先ず小さく後ろに飛んで、もう一歩下がろうとして、これ以上下がれない事に気づいた。これ以上下がれば奴らの突破を許しかねないと。


「チィッ……」


 殲滅は出来る。魔剣があるから。だが同時に相手取るのは不可能だ。魔剣は、剣なのだから。そして片方を相手取った瞬間、もう片方が突破し、紅い瞳の彼女の元へたどり着いてしまうだろう。そうなれば彼女は二方向からの突撃攻撃に曝される。それは彼女の戦闘スタイル上、かなりマズイ状況のはず。……ならばなんとしても、俺がここで両集団を同時に撃破する必要がある。

 しかし、手詰まりだ。策は無い。どうする、どうする。何か、何かないか━━


「こちらは片付きました! 援護します!」

「っ! 助かる!」


 心からそう答えつつ、どこか落ち着きを感じる声に一応とばかりに視線をやれば、紅い瞳の彼女は本当に自分の分を終わらせていた。チラリと見た様子では洞窟の一部が畜生どもごと凍り付いており、かなりの大技を放って片付けたらしい事が見て取れる。……氷系の全体攻撃か。美しくも、凄まじいな。てか心なし寒くなった気がするのは気のせいか?


「……ふっ、勝ったな」


 言ってから思う。フラグを立てんなアホ、と。

 しかし彼女の参戦で大きく余裕が出来たのは事実。俺は氷塊が撃ち込まれたのとは別の集団目掛けて気楽に突っ込み、魔剣を振るう。元々負ける気はしなかったが、今や不安すらも無くなった。


 それから魔剣を幾度か振るい、氷塊が複数畜生どもに撃ち込まれ━━俺が最後の一匹を斬り捨て、勝敗は決した。フラグはフラグでも、勝利フラグだったらしい。


 俺と彼女の、勝利だ。


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