入学、最初の課題
「第127期入学生の皆さん、入学おめでとうございます。
私が、国立ドラクロワ冒険者養成学校の校長を勤める、マルセル・ドラクロワです。
本校で皆さんは一年の間、一流の冒険者として活動していくための基礎を、身に付けていただくこととなります。
そもそも……」
国立ドラクロワ冒険者養成学校の大講堂にて。
僕はたくさんの生徒に混じって、入学式に臨んでいた。
さすが王国屈指の学校、入学してくる生徒の数も凄まじいものがある。
アルノー先生曰く融合士学科への入学は多くて3人程度だそうだが、それは人の集まらない学科である故にだ。
人気のある戦士学科や魔術師学科であれば、その入学者数は余裕で三桁に届く。
それだけ、この学校を卒業したという実績が求められているのだろう。
それにしても。
「皆さんはその身に宿る素質を見込まれて本校に入学しました。
そこに間違いはないのでしょう、しかし、それを生かすも殺すも全ては皆さん、あなた方次第なのです!
我々教師陣は常に……」
長い。
マルセル先生の話が、うんざりするほどに長い。
周囲の、僕の近くにいるということは恐らくは特待生なのであろう入学生たちが、すっかり話を聞くのに飽きているのが見てとれる。
話が始まってからもう5分以上は確実に経っているはずだ。流石に我慢するにも限界がある。
「……それでは皆さん、是非とも、一流の冒険者になってこの学校を卒業していってください。
私もそれを、大いに期待しています。
簡単ではありますが、私からのお祝いの言葉とさせていただきます。この度は、おめでとうございます」
それからさらに5分、計10分をかけた、マルセル先生の話が終わった。
もう周辺の入学生が軒並みぐったりしている。
壇上を降りたマルセル先生に代わり、学生主任のオーリク先生が登壇する。
「この後、学科分けを発表します。大講堂の外に掲示しますので、各自確認するように。
学科は皆さんの適性と傾向を元に割り振っております。転科は認めませんので、そのつもりで。
一般生徒の皆さんは8の刻より各教室にてガイダンスを始めます。遅れないように。
特待生の皆さんは、この入学式が終了した後、それぞれの学科の教員のところにお集まりください。
それでは、皆さんの配属される学科の教員を、これからご紹介します」
それぞれの学科の教員の紹介が終わり、入学式は恙無く終了した。
そして僕はオーリク先生の言っていた通りに、アルノー先生の所へと赴く。
どこにいるのかと少し探したが、アルノー先生の方が僕を見つけて声をかけてきた。
「入学式お疲れさん、疲れただろ」
「まぁ……はい」
言葉を濁した僕の肩を、アルノー先生は優しく叩いた。
そして肩に手を置いたままで口を開く。
「エリク、これから最初の課題について説明するぞ。
お前は融合士としての素質も技術も充分だが、冒険者として必要な技術が足りん。
だからまずは、それを身に付けてもらう」
「……はい」
僕が頷いたのを見て、アルノー先生はにこりと笑った。そのまま僕と向かい合うようにしゃがみこみ、もう片方の手を僕の肩に置く。
そして僕の顔を真正面から見て。
「そういうわけでだ。
1ヶ月の間、お前を山に放り込む」
「……はい??」
先生の言った課題の内容に、僕はすっとんきょうな声をあげた。
山に放り込む???
目を白黒させる僕を見やりながら、アルノー先生は続ける。
「お前には、学校が所有する山林でサバイバル生活を送ってもらう。
とにかく、あらゆる手段を使って生き延びろ。他人の手を借りず、自分自身でだ」
「……」
先生の言葉に、僕は脳内で思考を巡らせる。
他人の手を借りずに、一人で、1ヶ月間、野山で生き延びる。
いくら冒険者志望だとしても、素人がそんなに長期間、サバイバル生活を送るのは無理があるだろう。
だが、僕はただの素人ではない。アルノー先生も、その事は承知の上だろう。
それを踏まえた上で、ゆっくりと口を開く。
「先生、一つ質問があります」
「なんだ」
「他人の手を借りずに、と仰いましたが……魔物や動物は他人に入りますか?」
僕の質問に、アルノー先生はにやりと笑った。そして軽く肩を叩く。
「そこは自分で考えるんだな。
俺はあらゆる手段を使ってと言ったはずだ。持てる手段の全てを使え」
そう言って先生は僕の肩から手を離し、ゆっくりと立ち上がった。
思案を続ける僕に視線を投げかけつつ、ゆるりと背中を向けてくる。
「課題の開始は3日後、5の刻からだ。
それまでは教室で座学だから忘れるなよ」
そう言って先生は去っていった。
一人残された僕は、ようやく一つの答えを得た。
あらゆる手段を使っていいのなら、僕は僕の使える手段を使うまで。
先生もそれを望んでいるからこそ、あそこまで念を押したのだ。
それなら、僕は身に宿したカーン様の加護を存分に使おう。
1ヶ月の間、自然の中でのんびりまったり過ごしてやろう。
心の中でそう決意した僕は、冒険者としての第一歩を力強く踏み出した。





