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スターと卑屈な男(ML/芸能界)

不意になぜこの男は自分にへりくだっているのかと、ほんの少しばかり疑問を感じた。秋洋アキヒロはスターだ。アイドルと言うには、あまりにも抜きん出たカリスマにみなは「スター」と呼んだ。勿論、芸能などと携わっている時点で幾らかは自尊している者たちの一人である。スターであるという自負はあり、名もない事務所清掃員の男が秋洋にへりくだった所で当然なのだ。いや、当然だと思っていた。

痛みが酷い脱色した金髪に、無精髭。かといって清潔で無い訳では無い、制汗剤の匂いが微かに香った。

「おはよーございます」

卑屈な笑顔だと思った。図々しいというほど、自己主張はしないがスター様様、へえという時代劇でお代官に護摩を擦る男のような。

「お前、名前は?」

「へ。ああイトウっす!」

「へぇ」

別に珍しいという名前でも無い。それが逆に意外に感じた。

「俺は秋洋っつうのよ。季節の秋に太平洋の洋」

「へえ。珍しいっすね!」

また、媚びるような笑み。なんだか中途半端に不味い飲み物にハマるような感覚がして、冗談じゃ無い!と頭を振る。冗談じゃない。本当に。

「お前は?」

「へ?」

「名前だよ」

容量悪いというほどでもないが、自分が常に無いことをしているという自覚が睨みでもって現れていた。

びくりとし、はあ!と癪に障る甲高い返事。俺は、なんと血迷っていることか。

「伊藤はあれっすね。伊藤ハムの伊藤です!!」

ああそう。本当にどうでも良かった。しかも、期待した返事は得られない。言うか?スターと呼ばれている男が、頭の悪そうな世間にまかり間違って通じてしまったような腰の低い男に、「お前の名前が知りたいのだ」と?ざけんな。ふざけるな。ああ本当に本気で冗談じゃない。

「あーそっう。頑張れよ。ハム」

「え?ち…はーい!ありがとうございまぁす」

分かってるじゃねえか。逆らうのは外見だけか。苦笑しながら、マネージャーの部屋に入れば驚いたような顔。くたびれた中年男の顔。何よ、何か付いてるわけ?

「何か楽しいことでもあったのか?」

「は?何言っちゃってるの?」

いや真面目にお前、何をどうやってどこを見たらそんな感想抱くのよ。

「違った?今までにない笑顔だったからご機嫌なのかと思ったわ」

「苦笑だっつうの!」

思わず隣のゴミ箱蹴ったら、勢い余ってゴロゴロ廊下に出ていってしまった。思い付いて、廊下に上半身覗かせるとまだ、男はやる気とだるいの中間あたりのテンションで廊下にモップをかけている。

「おいハム!」

「え?へい!」

「はいだろうが!ハム!」

「はいっ!!?」

「これ片しとけ」

はいぃ!返事だけは威勢良く、護摩をする勢いでとんで来る。腰が低い。屈む勢いでゴミ箱は片された。彼のうなじに非常な誘惑を感じた。


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