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りゅう(SFBL導入部分)

設定忘れた為、途中終了。血や残酷な描写。不快表現あり。


その男を見たのは、偶然、公衆トイレに入ったからだった。ざっと見た感じ普通の中年の男だ。深いブルーのジーンズにその辺のスーパーで買えそうなグレーのシャツに、毛玉が発生しているフェルト素材の黒ジャケットを着ている。


汚い黒ずんだ壁を向いて何かやっているなあ、ぐらいだった。最初は。

一寸、疑問が発生した。トイレとは、なにをするところか。人間の生理現象を処理する場所である。つまり、体に取り込んだ後の不要物又は、過剰につき処理できずに返品廃棄する場所だった。


件の男。思わずトイレに入るまえに、Uターンして、入り口横の壁にはり付いて しまったが。今一度、様子を覗くと、やはり小便器の上の壁に向かい指をスライドさせている。夢中になるが故に、こちらには気付いていなかった。そっと壁に戻り思案する。なにをやっているのだろう。


1、残酷な幼児心を復活させた小虫退治。

2、最強の中学青春期を思い出して何かの操作。

3、普通の社畜魂にて、何らかの予習。



3。3だ。間違いない。俺は、そっとその場を離ようとした。





『5メートル範囲に××モンスターの材料、レア度5』


自分の下に展開する、黄色いLEDなみの、光量。英語に似た何らかの文字が下から上に上がって行く。かちり。手首にはまる何らかの音。枷だ。


『捕獲』

「なに、」

『分解しますか』


人の気配に、硬直した首をなんとか動かす。横に、例の男が立っていた。


『音声認証にて、分解を開始します。10秒放置で、罠解除します。イエス オア ノーでお答えください。10秒前』


「イエス」


俺の意識は、ブラックアウトした。



意識が戻ったとき、俺の五感は、暴走と言っていいほど鋭敏に回りの全てを回収しようとしていた。


女がいる。沢山の女が激しく心臓を叩いて踊り床を踏み鳴らしている。風が鳴っている。大きな痛いほどの振動を複数の何かが引き合ってギイギイと。


痒い。全身が痒い。皮膚が生まれて新しい産声を上げている。振動が痒さを、促進させていた。体のなかに次から次へと涌き出る力が有り余り、皮膚の隙間から外に出んとしているようで、暴れたくなるほどのむず痒さが全身に到達すると、俺は思わず咆哮していた。


口から吐いた大きなエネルギーが、どこかに向かって飛んで行く。鼻穴から荒く出る息の名残りが、鼻血を出した時のような濡れた感覚を思い出させた。


『岩龍 レア度4 合成成功しました。バトルステージに転送もしくは、幻想区域に放野(ほうや)出来ます。放野する場合、環境保全委員より報酬××××』


「契約」

『条件エラー No.39のレベルが、契約条件に達していません』


衝撃波のような、音の洪水は止んだ。その代わり酷く不快な金属音がキリリリと耳殻を叩く。ああ不快だ。鼻血を出したような鼻下の感覚は、まだ継続している。金属音に返す相槌が、どこか心地よかった。


「保留」

『条件エラー』

「名付け後に放野。報酬は、個人口座」

『認証。確認しました。許可文章発行、ファイル保存、素材に対する罰金項目が発生しました。確認後に返送処理してください』

「了解した。罰金は即金同じく、個人口座にて、引き落とし。名前『グレードラゴン』。検索」

「検索。使用者有り。現存します。記号付加されますか。候補『グレードラゴン93ー39』候補2『グレードラゴン・」

「キャンセル、再考『灰岩龍』記号を隠付

、カシャ・39」

『本名が含まれます。攻撃された場合のリスク有り。放野後の契約条件の特定がされやすくなります』

「認証」


淡々としたやり取りの中で、自分を何か細い紐のようなものが拘束しようとしているのを感じた。鬱陶しい。首を振り落とそうとするが、全く全身が動かない。そこでようやっと異常を感じて手に足に力を入れる。ぴくりとも動かない。荒々しい自分の興奮した息が聞こえる。自分に許された動きは、息をする事のみだった。



『放野します』



人の声だろうか。曖昧だった。聞こえ方が一つ異空間を通ってきたような間延びした音に聞こえる。それを最後に、唐突に床が抜けた。違う、全身が自由だった。ごううう、と冷たく気持ちいい風圧が全身を撫でた。あんなに、不快だった全部のものが消えている。両腕を広げると清らかな気持ちのいい空気と抱きあっているようだ。

むず痒さは、心地よい冷たさに浸されていた。

動かなかった首を、解そうと傾ける。ぐるんと体が傾いで慌てて両腕をばたつかせた。

なんだ。



そこで、俺はようやっと自身が、とんでもない高さの空に浮いているのに気付いた。あれ、と周りを、見渡す。

雲の上だ。真っ白な雲の上に俺は、無様な鳥のように両腕をばたつかせ立っていた。どういうことだと、呆然とした視界の端で見事な魚鱗が見える。自分が両腕をばたつかせる度に聞こえる空気の唸り。とんでもないことだ。何がおきている。

呆然として、腕を前に持って来ようとした。ガクンと高度が、下がる。雲にぶつかる。声なき悲鳴を上げて俺は、空からまっ逆さまに落下した。






風が強い。雨で、視界が曇る。

そういや、こんな日だったなと思い出す。警察が、ピンポンピンポンとやけに丁寧に玄関のベルを押したのは。

銅山は、そのとき、少し遅めの昼食にパンをトースターに放っていた。保険の勧誘が最近来て、少し話しを進めたので、もしかしたらそれかもしれない。面倒だな、とラフな格好のまま、寝癖もそのままの、休日スタイルで出た先に、どこか目付きの鋭い二人のスーツ姿に動揺した。


どちら様で?


こういう者ですが。と差し出されたのは、ドラマでしか見たことの無い手帳だった。神山と見えたネームに山繋がりだなと軽く違う思考経て、小さな頃に、駄菓子屋でお釣をちょろまかしたのを思い出す。



「実は、この人なんですがね」


出された写真にヒヤリとする。バイト先の同僚だった。最後に、見たのは、2日前。昨日無断欠席したらしい。舌打ちしたのは、自分で、くそ真面目なのが取り柄くんだったのにと文句を行ったのは、同じシフトをした女子高生。仲は、良くない。


「どうしたんですか?」


いやな汗をかいた。そういえば、今朝かかってきた電話。バイト先の出れないかという店長の声。どことなく不安げだった。


「いえね。一応全員知人の方にお伺いしているんですよ」



ブブー。クラクション。雑音が戻ってくる。はっとして、一歩退くと車が、苛立たしげに走り去る。


少し、灰色がかった瞳だった。そんなことと同時に女子高生が顔色悪く言った話を思い出す。

「なんか、あの人行方不明らしいじゃないですか。警察の人、何も言わなかったけど、私の友達が、報道関係者から詳細聞いって。ラインで」


連続殺人の犠牲者かもって。あの人の財布公衆トイレの前で血溜りの中に落ちてたらしいんですよ。






俺は、なんの変哲もないというには、少し逸脱している。

容姿は普通の部類に入るだろう。中肉中背で、顔も愛嬌があると言われたことはあるが、格好いいとは言われたことがない。

だが、体力値がやたらと高いうえに、軽度の味覚障害を患っていた。


だからだ。と言い訳する。


ヘドロのような、黒い粘りのあるものが口から入り込み、胃に落ちても、特に何も思わぬし、銀色の髪の少年を背に乗せてもへいちゃらなのである。少年は、自身の二倍はある赤い弓を担いでいる。銀色のチュニックを着ている意外は、休日の大学生のようなラフなシャツとジーンズ姿だ。


「お前の合成者は、抜けてるな。グレードラゴンの次に多い名は『灰』だし、現状、罰金項目に抵触する合成をするのは昔からの名の知れた探索者(プレイヤー)だ」


コツコツと皮膚に何かがあたる。どうやら、撫でてくれたようだ。蚊に刺されたようなむず痒さがある。


「強制鎮静剤が余っていて助かった」


不意に沈黙が落ちる。小人のような少年を背負い、岩山に掘った穴ぐらの中。まどろみそうになる。


「お前は、俺の初めての従獣だ。すまないが、縛らせてもらう」


ギュイン、と耳障りな音がする。

『岩竜、オートランダム、幸運消費による高確率展開。予測を開始しますか』

「イエス」

『予測開始。10、50、確定。「グレードラゴン93-39」』

「キャンセル、次」

『20、60、確定。「灰岩竜」』

「確定、記号陰付の感知」

『感知しました。陰付有』

「別検索にて、一週間以内の罰金者」

『条件エラー。該当例が300有ります』

「ワード追加。グラガ、カシャ、ロアッソ」

『ヒットしました。「カシャ」4日前、「ロアッソ」昨日、罰金項目抵触通知有り』


「履歴削除、のち、契約に移行」

『承認されました。拘束、契約に移行します』




首輪を無理やり脱がされたような変な感触。ぱちり。瞬きの後、浮かび上がる禍禍しい赤色の文字。気持ち悪いのに、俺は、どうやっても、動けない。いや、きっと無理に動こうとすれば動ける気がした。しかし、動かす気力がどうも萎えている。この謎の少年に飲まされたあの黒いヘドロが、原因のような気がする。


「灰岩龍 カシャ・39」

『条件クリア、契約しますか?』

「イエス」



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