中性的×突っ込みのギャグ(近未来/BL)
人は、美しいという言葉に幻想を抱きすぎではないか。美人と言えば、こうではあるというものの幻想の値が高過ぎる。突き詰めると人でなくなる。そう、思う羅太は、彼に言われた一言が理解出来ずに聞き返した。
「何だって?」
「美しいですね、あなた。と私は言った」
彼と、言ったが正確には、わからない。薄い金色の髪は、肩まで。目鼻立ちは、日本人らしい浅さがあるのに色がぼやけて、まるで霞のような儚さがある。一人称も、私。いや、耳にかけた翻訳機がそう訳しているだけで、もしかしたら、男性的な物言している可能性も。
「どこが」
言ってはなんだが、羅太 こうすけは、凡庸というよりかは、きつめの、鋭い顔をしている。その鋭さも、美しいといわれる形容を貰ったことはなく、一重の延長線である。
色も、黒、焦げ茶、黄色。アジア人オブ中間層。ナンパもされなければ、自分から行く感じのぎらつきもない、しがない一般市民である。
「佇まい」
「たたずまい」
佇まいとはなんだ。俺のお値段5,600円の翻訳こんにゃくよ、イヤリング型辞書搭載バーゲンセール品元値15,000円よ。答えてくれ。
…立っている様子。転じて、ものの姿。ありさま。
「あの、君、入院理由って」
「頭」
頭かー。目じゃなかったかー。失礼じゃないか。ここで、新しい情報。
実は、目の前の彼。ここ三年ほど、色月病院の併設カフェで、相席している他人である。
「が悪い」
「なんて?」
「…頭が…?うむ、脳のシナプスが働き過ぎて(abucoubaust?…error)」
「エラーだと?」
嘘だろ、言語30は入ってるぞ。分からなすぎて、AIが発音だけ打ち出して来てる。そこまで頑張らなくていいよ。難病用語だったら、例え英語でも対応できないから。貴方の専門は、日常会話です。
「所で、君は、どこの国の人?」
聞けば、翻訳機のバージョンアップ位できるだろう。古い型だがサービスが終了しているわけではない。どうせ、怪我であと、2年位は通わなくちゃいけない。
「(error error error)」
「オタク、国家機密か何か?」
この、地上の探索は、全て済んだ。という時代に、翻訳機が検索不能に陥る国とは?
「ええと、まあいいか。で、俺が綺麗だって?」
「そう。交際」
「……、ええと、まさかだけど。付き合いたい?」
「突き合う? 交合う?」
「うそだろ、翻訳機。下ネタ来たぞ」
「嘘ではない。月が綺麗」
「唐突な夏目漱石」
どうも、告白されている気がした。中性的な外見過ぎて、男女のどちら様かも判別できない、頭の病気で入院されている人に。
「お友達からなら」
「? セックスフレンド?」
お前の仕事は「日常会話」ですよ翻訳機。国際交遊が俺には難しすぎるので、やはりお断りしよう。
ここで問題。日本語を、外国語に翻訳し、それを更に日本語に翻訳するとどうなるか。答え、たまに事故る。
彼の翻訳機は、俺の「俺にはもったいないので、他をあたってくれ」とい遠回りのお断り文句を「ハイ! ホテルに行こうぜ!ラブハニー」と訳した。その翻訳機も、絶対入院した方がいい。
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