表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/43

人間の少女と龍の女


 愛などと、安くかたるな。


黄金の瞳に、獣を飼う剣呑さが私を貫いた。ごめんなさい、と口にするしかない。


女は、一目で分かる豪奢な紺の着物を纏っていた。刺繍は黄金。瞳より暗い色は、煤けた汚れのせい。

「でも、私は貴女が、」

「その口に走るうわ言をつぐむがよい」

 その背後に広がる言葉に尽くせぬほど薄汚れた壁石。そこに次元の違う繊細な細髪が広がり落ちている。女は、いくつか剥がれた爪の先で優しく腹をさする。それは、私に注がれる鋭い冷たさとは真逆だった。

「ごめんなさい」

 小さく臆病な声が空をやわやわと進み女に届く。女は、その化粧の落ちた白い眉を少し上げて、ふうと小さく息吐いた。

「なぜ、妾に執着するのだ。小さい娘。恐れならば分かる。妾はそなたを踏みにじり支配した女主人、しかし、その目の熱は理解が出来ぬ」


 少し、苦しげなのは、陣痛が始まっているからだろう。女の腹には女の血が色濃い獣の仔がいる。


 私は、そっと女に近付いた。女の額には、脂汗が滲んでいる。目尻に指を置く。


「貴女がたが、ヒトと言うもののなかには」


 私の声は、掠れていた。


「ひどい欠陥を抱えるものがいるのです」


 女の呼吸が荒くなり、睨む眼光は、閉じられる。


「私はそれでもまともな方です」


 無機物でも、学問でも、未熟な子供でもなく。ただ、鱗のある生体に欲を感じるだけだ。その美しさが長と仰ぐ龍に愛を感じた。それだけだ。


「愛してますよ、だから、助けるのです」


 安いと言われたその言葉は、女に届くことはない。女は目を閉じて強くなる痛みを堪えていた。

 龍はヒトを虐げた。ヒトは龍よりか弱く、龍より強かだ。

 革命は起こり、龍政は(たお)れた。

2017-02-02

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ