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子供が大人を知る瞬間(現代/家族)
うわあ。感嘆の溜め息。隣で上がるその幼く純粋な感動を無粋に壊したくない。しかし、それはどうしてもしなければならない仕事である。
そうだ、仕事なのである。
大場は、ぐっと堪えて登山用バックの中から、重たくてふあふあなそれを引き出した。
先ほどまで、わあだとか凄いどとか単純だからこそストレートに躍動する台詞のオンパレードだった少年と少女から歓声がやんだ。
いたたまれなくなって、それを被り、許してくれと願いをこめてめを瞑りうなだれた。
その後の反応は、二通りであった。
「許さない」
世の中の、汚れた何かに抵触した少年は唸るように宣戦布告。
「う、う」
少女は、楽しい夢から覚めたというようにぐずり出す。まさしくだが。
ポケットから震える無線機を取り出し、力なく大場は応答する。
「こちら、きゃらきゃらレモン出勤します」
頭だけデフォルトの猫が、愛嬌のある顔でステージに上がる。託児所くらい作って欲しい。大場とその息子娘の関係はたった今罅が入った。
2014-10-16




