要診察(BL)
「元気か!ハニー!」
ショーは、今日も綺麗に笑んだ。恋は盲目。あばたもえくぼ。そういうと、周りは怪訝な顔をする。
「ショーは、綺麗じゃないか?」
「そうか?」
茶色の毛並みは美しく、黄金の睫毛は輝いている。だが、熊だ。自分の目には熊に見える。毛玉に見える。
「可愛いよな」
「…あのビスクドール人形を可愛いと言うか。そして染み一つない肌をあばたと言うか」
「俺はおかしいか?」
「ああ、おかしいぞ。頭か目かどちらが悪いんだろうな」
かくいう、彼の姿も、実は昆布に見える。もしかしたら、なんとなく魑魅魍魎の中を生きて来たが、自分は何かがおかしいのかもしれない。
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僕のハニーは、不思議ちゃんである。出会いは、小学三年生。所謂、幼なじみというやつだった。
ハニーは、よく、人の容姿についてとんちんかんな答えをしていた。なんの授業だったか。
いや、授業じゃない。クラスで一番可愛い子という新聞係のアンケートだ。ハニーは、僕に票を入れた。その頃といえば、確かに僕は美少女と言っても差し支えはない姿だったせいで、ふざけて票を入れている奴はたくさんいた。
だが、理由がおかしかったのだ。‘クマが一番可愛いと思って’。困った係長の子は、クマ?と問い返していた。そうだクマだと更に返されて、とりあえずその点に触れないという結論に達したらしい。‘とーくん、可愛いっていうのは女の子だよ’とまともに返した。僕がみていたのに気付いた彼女の点数稼ぎだったのかもしれない。というのも彼女の耳がほんのり赤かったからだが。
「ちび、かな」
「え?」
「ちび」
「ちびって、ちび?」
ハニーが次に上げたのは、学校で飼っている5歳の亀だった。クラスの大半が亀の性別をそのとき知ったらしい。
そんなわけで、ハニーは、今日も不思議ちゃんである。
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ビスクドールと言われて検索して出てきた写真の羅列に、なお首を傾けることとなった。
「童顔ということか?」
その主なモチーフが少年少女であるせいだろう。丸い頬をしている。そこで、さらなる疑問に到達した。
「何故、俺はこれを人間の幼少期と理解できているのか」
不思議だ。自分がみてきた人間(と名乗る人)たちは、なぜかみんなばらばらに多種多様の生物だった。写真を見ると別人になる。いや、別人という次元を越えて別種になる。緑色の昆布や灰色の鼠や鮮やかなカメレオンが、肌色になって並んでいるのだ。
そうか。
そうして、結論した。
「ショー、俺はどうやら目が可笑しいらしい」
「知ってる!」
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ハニーは、今日も絶好調で不思議ちゃんだ。たまに、彼の視界を覗いてみたくなる。怖いもの見たさという奴だ。
「鹿かなあ」
総騨という今をときめくアイドルの容姿を聞いてみた回答がこれである。僕には、人間に見えるけど。
「牡鹿?雌鹿?」
「子鹿」
爆笑したのは、僕のせいじゃない。なぜなら総騨は、今年29になるアイドルはアイドルでもベテラン域だからだ。
「ということだよ!総騨くん!いや子鹿くん!」
「忌々しい奴だなお前は!なんでお前なんかがオレの従兄弟なんだろうな!」
それは神のみぞと言う奴である。
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ショーは、今日も元気だ。そういえば、いつもその勢いに押されて、彼の職種を聞いていなかった。
「ショーは、何の仕事をしてるんだ?」
「動物園で子鹿のマネージャー」
是非、言ってみたいというと微妙な顔をされる。別に良いと思うんだがな。大人一人で動物園行くくらい。
「言い方悪かったよ。魑魅魍魎の中で躾の悪い子鹿の面倒みてるんだ。動物園ではない!」
「そうか」
それこそ、いまさら。
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2012-10-05




