表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/43

吸血鬼×人間(GL)


[美しさに価値はあるか]

 お前は、女らしい女だと私の情夫は笑う。お好きでしょう?美しい顔に、豊満な乳房、くびれた腰に、卑猥な尻。

 赤いマニキュアと赤い唇に誘惑を乗せて、するりと下着に忍ばせるだけで、彼らは落ちる。

 落ちて、落ちて、捨てられて。私はその渦の中で舞う紙切れをひたすら拾うのだ。意地汚く、無様に。



「ただいま」

 帰る家が私に出来たということがいまだに信じられず、習慣もなかったそれを口にする。あ、かえってきた!ぱたぱたと走る音と共に、現れた少女に私の頬は濡れていた。

「え、なんで?」

 ギョッとしたように、美しい少女は私の頬を拭う。美しさとは、彼女のような命そのものだと私は思う。

「なんで、ルミナさんはそう泣き虫なのかな。…貴重な水分飛んじゃうし」

 悪戯っぽく笑って、その獣の瞳は私の健康状態を確認するように探っている。心配してくれているのだろう。


「私も吸血鬼になりたい」


 少女特有の細い身体を抱きしめて、彼女の匂いを嗅いだ。肩に押し付けるようにしていると、駄目だよと否定の言葉が返る。ねえねえ、私が美しさを犠牲に男になったら貴女は私を受け取ってくれるの?



 情夫は、言った。

「君は、性的だよ」



 この少女に押し付けた脂肪の厚さは、私の命の音を遮るほどではない。私が手繰れたのは、一緒に住む金と家と彼女自身だけだ。



[醜さを直視しない目]



 ルミナ、それが本名か源氏名かはたまた偽名か私は知らない。ただ、わかることは、彼女は病んでいる。


「私も吸血鬼になりたい」


 美しい茶色の睫毛を伝い墜ちていく雫は、まるで何か得体のしれない奇跡をみているようだった。


 駄目だよ。とかすれた返事が、ひび割れた自分の唇から絞り出される。


 彼女は、病んでいる。


 彼女の、美しさは完成され過ぎていた。それこそ、‘人ではない’美しさだ。




 ルミナと自分が出会って幾年経ったか。彼女は美しく、自分は年老いた。まるで人のように、彼女が現代社会に溶け込んでいることこそが、今の彼女の異常を押した。そう、私は考える。


「あなたは、綺麗」


 冷たいなまめかしい唇が私の頬を滑る。彼女の目には、未だに私は少女として映っているのだろう。

2012-09-01

2012-09-13

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ