吸血鬼×人間(GL)
[美しさに価値はあるか]
お前は、女らしい女だと私の情夫は笑う。お好きでしょう?美しい顔に、豊満な乳房、くびれた腰に、卑猥な尻。
赤いマニキュアと赤い唇に誘惑を乗せて、するりと下着に忍ばせるだけで、彼らは落ちる。
落ちて、落ちて、捨てられて。私はその渦の中で舞う紙切れをひたすら拾うのだ。意地汚く、無様に。
「ただいま」
帰る家が私に出来たということがいまだに信じられず、習慣もなかったそれを口にする。あ、かえってきた!ぱたぱたと走る音と共に、現れた少女に私の頬は濡れていた。
「え、なんで?」
ギョッとしたように、美しい少女は私の頬を拭う。美しさとは、彼女のような命そのものだと私は思う。
「なんで、ルミナさんはそう泣き虫なのかな。…貴重な水分飛んじゃうし」
悪戯っぽく笑って、その獣の瞳は私の健康状態を確認するように探っている。心配してくれているのだろう。
「私も吸血鬼になりたい」
少女特有の細い身体を抱きしめて、彼女の匂いを嗅いだ。肩に押し付けるようにしていると、駄目だよと否定の言葉が返る。ねえねえ、私が美しさを犠牲に男になったら貴女は私を受け取ってくれるの?
情夫は、言った。
「君は、性的だよ」
この少女に押し付けた脂肪の厚さは、私の命の音を遮るほどではない。私が手繰れたのは、一緒に住む金と家と彼女自身だけだ。
・
[醜さを直視しない目]
ルミナ、それが本名か源氏名かはたまた偽名か私は知らない。ただ、わかることは、彼女は病んでいる。
「私も吸血鬼になりたい」
美しい茶色の睫毛を伝い墜ちていく雫は、まるで何か得体のしれない奇跡をみているようだった。
駄目だよ。とかすれた返事が、ひび割れた自分の唇から絞り出される。
彼女は、病んでいる。
彼女の、美しさは完成され過ぎていた。それこそ、‘人ではない’美しさだ。
ルミナと自分が出会って幾年経ったか。彼女は美しく、自分は年老いた。まるで人のように、彼女が現代社会に溶け込んでいることこそが、今の彼女の異常を押した。そう、私は考える。
「あなたは、綺麗」
冷たいなまめかしい唇が私の頬を滑る。彼女の目には、未だに私は少女として映っているのだろう。
2012-09-01
2012-09-13