旅に出ましょう(門番×騎士)
「さあ旅に出ましょう!」
蛇のようなひょろりとした男。名をダガー。古い騎士の家に生まれた私、アダイの幼なじみである。
といっても、つい先日、家長である私の父が無実の罪で処刑され、没落前夜に相応しく、使用人らが逃げ去っていくばかり。私の乳母も先ほど『坊ちゃま申し訳ありません』と言いながら暇を願い出た。それが、少しこたえた。私は、無意識に幼なじみ…門番の息子であるダガーの住む小屋に足を向けていたのである。
「旅?」
すっかり整えられた身支度に心臓が鈍くなっていく。お前もなのか。私の真っ青な顔色に気付いているくせに、短剣の名を持つ男はにいと笑った。
「言い方を変えようか?オレと駆け落ちしよう」
気取った大仰なお辞儀で彼は私の無骨な手を取った。彼の生白い手が私の手とどこまでも道が違うもののようで、私は思わず彼の手を振り払う。否、振り払おうとした。
「瞬き3度の間に門を開け閉めしている門番の力を騎士様はご存知ないようで」
細い目がにんまり笑う。
「私は…」
「幸せにしますよ?ちょっと危ない道に目を瞑っていただければ」
彼は、そういえば、ずっと幼い頃から、冗談のような口説き文句をいう男だった。
少年の域を出た私は、堂々たる体躯の持ち主であり、勿論それでも相変わらず掛けられる彼の常套句は冗談であると考えていた。今までは。
「本気で…」
「あなたを抱きたいくらいは」
2012-12-16