(BL/終末ファンタジー)
[エゴイストジエンドフリーズ]
ふとみるとソイツはいた。明るく正義感が強くて頼りになって、高身長に高学歴。それが一気に俺と同じ場所にきやがったと嘲笑っていたのは、1日前までだった。新月族と自ら名乗る妖怪貴族らの手で狩られた人々は、喰われるかなぶられるか。
そんな恐怖の日々に降って沸いたようなリーダーシップを取れる男に、狭い檻の中で人々は歓喜する。俺はただ顔を伏せて嘲笑っていた。ようこそ、道雪。俺の過去。覚えてるか。お前と俺は、幼い日にキスをした。
「海くん!」
悲鳴を上げる男に、俺はやっと心から笑んだ。なんだ、覚えていたのか。お前に憧れて見ているしかなかった俺のことを。小さな小さなちっぽけな人間を。
喰われるかなぶられるかか。お前は生きろよ。せっかく俺がお前の代わりに、
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[エゴイストリターンプロジェクト]
ああ海くんかいくんかいくん。
小柄な海くんは、何度も俺の中で死ぬ。俺の中で。瞼の裏で。夢の深層で。
黒く真っ直ぐな髪が逆立った。真実は、ぐちゃぐちゃになって赤茶けている。夢の中だけ海くんは眠るように息を引き取るのだ。
「人間にしては、気骨のある奴よ」
俺は、人々を逃がし反目し、いつしか革命軍リーダーとして彼らと対立するようになっていた。俺の腹心と自負する江田などが、そうなったのが只の惰性と知ればきっと俺は謗られて殺されるか御冗談をと笑い飛ばされのだろう。それを今まさに思ったのは、よろしくないことに、今回の敵方に人の心を読む新月族がいた。彼らは一様に異能力者だ。
「いいや、あいつ。兄者あいつは…」
憐れみを彼奴等が持つなれば、少年のような小柄な男はまさしくそのような目を俺に向けた。
ああいけない。彼の目線は遠いが海くんと同じなのだ。
何度も何度も俺の中で、異形に喰われて死んでいく海くんの笑顔が再生されていく。淡々と。
「ずっと、同じものしかみておらんぞ。気骨?いな、あいつの中身は死人ばかりじゃ」
ならばよろしい革命の徒よ。君が望むものを与えよう。変わりにお前は私たちに飼い殺される。
そうして、俺は、海くんの笑顔を買うために人類を受け渡した。海くん海くん。君は覚えているか。
君が俺と違う進路を選ぶと言った日。俺は、告白を想いごと飲み込んだ。
2012-08-30