脇役×悪鬼王+脇役←勇者
良い子だ。そう言って、武骨な手が、自分の頭をぐしゃぐしゃにかき乱す。
見上げるそこに有るのは、無精髭の、爛々とした目だ。あなたに追い付くためならば、自分はなんだってしよう。そう思わせる引力の目だった。
ログサリー・ソウは、悪鬼百万の屍を踏み、悪鬼王を倒した男。英雄であり、恐るべき者だ。彼は、一時期、セビオの村に情報を得るために、滞在していた。
稲穂のような金髪に、爛々と光る飢えた獣のような緑の目の輝きが、人を悪鬼を後退りさせる。
「憧れだった」
ぽつり、呟いた言葉は、勇者と呼ばれるロギ・ベルサーと仲間らには、聞こえない。
「おい、置いてくぞ、セビオ」
呆れたように呼ばれて、慌てて、駆け寄った。遠くに、魔城が聳え立っている。
悪鬼王がかつて暴虐の限りを尽くした城だ。また、現在は、新たなる暴虐を迎えている。ログサリー・ソウを。
気付けば、死闘の末に、崖から落ち行く姿を追っていた。堕ちた英雄の、腕を取る。セビオ!と勇者の声。6人のうち、1人がログサリーと心中した所で帰りに支障は無い筈だ。セビオは、勇者の仲間らの中で1番弱い。
「貴様、なぜ」
「あなたは、覚えていないでしょう。昔1度、頭をなでただけの貧相な村の小僧など」
鋭く上がるばかりの切れ長の目は、よくみると苦悩に澱んで年老いていた。
「もし、生まれ変わったらずっと僕だけを愛してください。父と母は死に、残りの全てであるあなたが死を選ぶなら、僕に未練はない」
「生まれ変わりとは?」
「僕の村に伝わる伝承です。魂が繰り返し肉体の再生を行うと信じています」
バサリ、と。急に身体が持ち上がる。巨大な灰色の翼が、絶壁の上で小さく存在を主張する空を遮り、セビオの視界は影で遮られた。それは、人が手を伸ばせぬ類の事象。
「…俺が、悪鬼でも、愛されたいと願うか小僧」
「……あなたしか僕にはいない」
「呼んでいる」
真剣な顔。それが、遥か上へと遠くなった城からロギ・ベルサーが自分を、呼んでいるのだと気付いて笑う。泣き笑いに。
「僕に孤独を与えた国の、悪鬼ごと村を滅ぼした王の勇者を許せるほど、心は広くない」
ゆるりと、その温度がある夢に頬を寄せた。
「良いだろう、少年。ただ、手順が変わった。お前は生きる。俺が助けた。だから、お前は、今愛そう。その後は、保証出来ん」
獣の臭いがした。
こんなにあっさりと言ってくれるのは、互いに全てを亡くしたもの同士だからだろう。悪鬼の城は、最早亡骸しかおらず、セビオの村には何もない。
「ありがとうございます」
涙を湛えて逞しい胸に寄り添うと、上から酷く悲しい遠吠えが聞こえた。
そういえば、ロギの頭を撫でたのは、僕だったのだ。幼い姿が浮かび、少しだけ憐憫を感じた。
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