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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

パンドラ遊園地

作者: 帰り

 夏の終わり、短期で入ったアルバイトの最終日。

 職場の先輩に、私と同じ短期のバイトの男女二人を慰労会と銘打って呑みに連れ出された。


 正直、乗り気ではなった。

 他の二人もおそらくそうだっただろうが、どうせ今日でお別れなのだ、奢りならばと気も緩んだ。


 運転してくれた先輩以外にほどよく酔いが回った頃、先輩が肝試しに行こうと言い出した。

 働きづめで終わる前に最後に夏らしいイベントも良いかもと、男二人が盛り上がり出す。私と彼女は最後まで渋ったのだか、奢られた手前強くも言えなかった。


 先輩が飲めなくなるのに、わざわざ車で私達を呑みに連れてきた。初めからそのつもりだったのだと気付く。



 目指すは廃園となった遊園地。


「あ、これなんすか。心霊スポット特集?」

 助手席で彼が見つけたのは古い雑誌だった。


「たまたま見つけてな、今から行くのはそれに載ってる所だ。」

 へぇ。と、彼が先輩に答えながら雑誌を戻す。


「知ってるか、あの遊園地が潰れた理由。」

 ちらりと先輩がバックミラーを見て、視線があった。

 だか答えたのはやはり彼だ。

「えー、なんすか。知らないっす。場所じゃないすか、場所。山奥過ぎですよ、不便すぎ。」


 前席とは対照的に後部座席の空気は冷えている。

 私は、段々と人工的な灯りが遠くなっていくのをぼんやり眺めた。



 先輩は到着するなり手際よく、軍手と懐中電灯を二つと虫除けスプレーを車の後から取り出した。

 二つしかないので、懐中電灯を持った男二人に私達は着いていく事になった。


 ぼろぼろの警告看板の置かれた正面ゲートを横目に、千切れた立ち入り禁止のロープを越えて私達は園内へと足を踏み入れた。


「あっちだ。」

 園内は当然人の気配はない、しかし先輩は内緒話をするように小声で私達を先導した。

 外から眺めるのとは格段に違う雰囲気に息を潜めながら、月明かりと懐中電灯の光を頼りにゆっくりと進む。


 少し行くと、現れたのは朽ちたメリーゴーランドだった。

 塗装が剥げ、装飾も壊れている。白い色の残る馬は無惨に倒れ、ひび割れていた。


 先輩はあちこち照らした後「人影が見えるらしい。」と、突然懐中電灯を消した。

 きゃっと可愛らしい悲鳴が後ろから聴こえ、傍に居るだろう彼の持つ懐中電灯の光が揺れた。


「ちょ、先輩っ。脅かさないで下さいよ。こんなに暗くちゃ、よくわかんないすよ。」

「そうだよな、こんな所なら風が吹いただけでビビれそうだ。」

 ははは、と少しだけ場が和んだ時だった。


 ぎ、ぎ、ぎっ。


 全員がはっと息を飲む。かすかな物音なのに、それはしっかりと耳に届いた。


 ぎっ。ぎぎ、ぎ、きぃ。


 壊れたメリーゴーランドが軋む音だけがいやに響く。


「っひ。」

 誰かが耐えきれなくなった時、ぬるい風がふわりと通り抜けた。


「び、びびったー。はは、やっべぇまじで風でビビったわー。」

 後方からの彼の明るい声で、固まっていた皆が動いて、びっくりしたと笑いあう。


「やっぱ雰囲気あるだけで違うよな、まぁ他のとこもこんなもんだろ。」

 そう言うと先輩は、彼女が帰りたいと願うも聞かず。せっかく来たんだからと歩み始めた。


 車は先輩の物、勿論鍵も先輩が持っている。私達三人は先輩に従うしかない。


 いまいち盛り上がらない会話が途切れて、先輩が懐中電灯と顔を上げたのにつられて見上げると、大きな観覧車が思いのほか近くに立っていた。


「噂じゃ、ゴンドラの中を覗く女が出るって話だ。」

 今となっちゃ確かめようもないな。と乗り口で止まっているゴンドラを懐中電灯で照らしながら覗きこんだ先輩が言う。


「そうっすねー。」

 メリーゴーランドから彼女を腕にくっつけた彼は首を掻きながら先輩を見る。

「あのー、ちょっと戻りませんか。俺、喉かわいちゃって…。虫にもやられたっぽいんすよ。かゆくて…。」


 先輩は不服そうだが、チラリと私を見てから言った。

「わかった、帰るか。」


 ホッとした空気が流れ、全員が帰路につく為に観覧車を後にしようとした。が。

 バンッ!!

 と何かが壊れたのかと思う程の叩きつける様な音に、全員が反射的に振り返った。


 不幸にも先輩の手元から出る光はすぐに照らしてしまった。

 ゴンドラの窓にくっきりと付く手形を…。

「ぃや、いや、もういや、もういやっ。」

 叫んだ彼女が走り出し、追うように彼も続いて行く。


 暗闇に消える二人に先輩が慌てる。

「おい、待てっ。くそっ。」

 出遅れた私達も追いかけようとして、何気なくゴンドラを振り返返ると。確かに見えた筈の手形は跡形もなく消えていた。


 私は空のゴンドラから感じる視線を振りきるように、彼等の消えた先へ向かった。


 ぽつりと浮かぶ光源に近付くと、ぐずぐずと泣きうずくまる彼女と隣で立ちすくむ彼が見えてくる。

 一先ず無事を確認すると、何かに気付いた先輩がぽそりと言った。


「…ミラーハウス…。」


 建物を見上げた先輩は何故か私の手首を掴みズンズン歩き出した。


「お前らそこで待ってろ。」

「え、ち、ちょっと先輩!?」

 彼の驚きを無視して壊れた扉をすり抜けて中に入ると、外の音が一気に遠くなる。

 かわりに、踏み出す度にカチャリと高い音が足の下から聞こえた。


 かつては壁一面に張られていただろう鏡は、粉々に割れ落ちるか、大きなヒビが入り、バラバラに私達を写し出す。

 床には鏡の破片の他に、空き缶やビニール袋が落ちている。


 足下に注意しながら手を引かれるままいたが、広い空間に出ると先輩は歩みを止め、唐突に質問をなげかけた。

「知っているか、この遊園地が潰れた理由。」

 それは道中の車でも聞いた台詞だった。


 しかし、先輩は私の返事を待たない。

「昔、一人の女が園内で行方不明になった。だが、どこを探しても見つからない、外へ出たのだろうと捜索は中止になった。」


 私の手を掴む力が一瞬強くなった。


「暫くすると、ある噂が出始めた。いいかげんな噂ばかりの中に幾つか内容が具体的なものがあった。1つ目は、メリーゴーランドに乗っていた人が消える。証言はみな同じ、容姿は覚えていないが、確かに居たのにいつの間にか消えたと。」


 ぽつりぽつりと話す声が部屋に響く。


「2つ目は、観覧車に乗っていると視線を感じる。中を覗く女を見たって奴も居たらしい。」


 それは独り言の様で。


「3つ目は、ミラーハウスで自分ではない誰かがうつる。そいつは笑っていたと証言する奴が多かった。」


 でも、確かに私に語りかけていた。


「行方不明者の事と噂が広まると、あっという間に遊園地の経営は厳しくなった。来たのは噂に惹かれた物好きな奴等ばかりだ。」


 まるで自身が見たかのような物言いだった。


「…親父もお袋も、最後まで俺には何も言ってくれなかった。…でも、君が俺の前に現れた。珍しい苗字だったから、もしかしてと思って調べたんだ。当時の記事を。やっぱり名前も年齢も同じだった。」


 こちらを振り返った先輩と視線がぶつかる。


「あの時、行方不明になった女と一緒に来ていた一人娘って、君の事だろ。」


 確信を持った強い瞳に、私は小さく頷いた。



 私はちゃんと覚えている。手を繋いで乗ったメリーゴーランド、揺らして怒られた観覧車、ミラーハウスの鏡に写る母の顔…。


 忘れられない日。なんの記念日でもない普通の日。




 思い返せば、母が変わったのは父さんの葬式が終わってから。

 ことあるごとに、私と飼っていた子犬に暴力をふるうようになった。


 そんな日々の中、母は私をこの遊園地へと連れ出した。

 幼い私は、久しぶりに見る優しい母と出掛けられて浮かれていた。

 ミラーハウスであの笑顔を見るまでは…。


 あの感覚は、思い出したと言うよりは、本能に近かった。

 光る鏡にうつった母の笑顔には見覚えがあった。


 それは、息をしない子犬を見つけた前日の事、それまで録な食事も与えなかったのに、高かったのよと、見たことの無いペットフードを出して、母は優しく子犬の背を撫でた。

 …その時の母の笑顔と同じだったから。


 母は、翌朝動かない犬を冷たく見下ろして、淡々と片付けを始めた。

 私は気付く。母は知っていたのだ、そうなることを。


 遊園地ではしゃぐ今の自分と、記憶の子犬が重なって見え、同時に恐怖が身体中を駆けめぐる。体は勝手に走り出した。


 幸いにもミラーハウスの終わりは直ぐにあり、そのまま外へ駆け出す。


 がむしゃらに走って、目についた人気の無い小路(こみち)に入る。ロープが張ってあったけど簡単にくぐり抜けられた。そして、誘うように薄く開いた扉に体を滑り込ませた。


 中は真っ暗で、立ち止まってしまった。私の名を呼ぶ母の声が入ってきて振り返る。

 ゆっくりと近づいてくる母から逃げようと、じりじりと後ずさると、(つまず)いて、何かに腰掛けるように後ろに倒れてしまった。


 暗闇から母の手が延びてきて、絶望にぎゅっと目を瞑る。

 すると、突然母の悲鳴があがって、聞いたことの無い音が続いた。


 音が止むと、恐ろしいくらいの静寂が訪れた。


 私はパニックになって、とにかく入口に見える光に向かって走った。


 小路から泣いて飛び出てきた私を見つけた客に声を掛けられ、スタッフに事務所に連れて行かれてからはよく覚えていない。


 先輩が言ったように、母は見つからなかった。行方不明で処理され、私には新しい生活が与えられた。


 私は助かった、だから辛くも悲しくもなかった。

 もう冷たくて暗いあの場所に帰らなくてもいいのだから。


 …冷たくて暗い?あれ?そうだっかな?

 違う…でも知っている。あの場所を…あの男を…だってあの男は私の母をまた殺した…。


 また?あの男?あの場所?

 …私は何を忘れている?


 ……ああ。

 そうだ、アレは――。


「っっ!」

 記憶に溺れかけた時、急な喉の圧迫感に口から短く息が漏れた。見ると私の手首を掴んでいた筈の先輩の手が、私の首に伸びている。


 わずかに震える声で先輩は言う。

「親父は言ってたんだ、自分の遊園地をつくるのが夢だったって。完成した遊園地を見て俺も誇らしかった。お袋も一緒に笑ってた。でも、一人の女のせいで、下らない噂のせいで、あっという間になくなった。」


 自嘲した様に吐き捨てる。

「親父とお袋は閉園になってすぐ消えちまった。両親は小さい子供を捨てて逃げた卑怯者と呼ばれてさ、残された俺を誰も助けてくれなかった。可哀想にと口では言うくせにな。」


 視線を落とす先輩の口許が歪んだ次の瞬間。


「何で!俺がこんなに苦労してるのにっ、お前は!のうのうと生きてやがる!」


 目の前にあるのは怒りに染まった顔、私を睨み付ける眼。ぎりぎりと絞められる首に伸びる手。

 苦しくて、その手を離そうと抵抗しても、ピクリともしない。


 霞む視界の先に、あるものが見えた。

 先輩の後ろにある鏡の一つに、私達ではない後ろ姿がある。それがあの日の母だと直ぐ理解すると、自然と体が震えだす。

 足が勝手に一歩下がり、床に散らばる物が小さな音をたてた。


 私の視線に気付いた先輩が振り返るが、もうそこには何も写ってはいなかった。


 おかげで力が少し緩んでくれた、咳き込みながら手を振り払う。

 先輩は自分の手を見つめ驚いた顔をしてる。

「ぁ、…悪かった、君だって大切な人をなくしたのに、俺は…。すまない。か、帰ろう、話はまた今度…。」


 私は、痛む喉をさすりながら声をかけた。


 先輩。実は私、知ってるんです。母と、先輩のご両親が消えた理由を。

 先輩には、先輩だけにはお話します。私と同じ先輩には…。


 そう言えば、面白いほど先輩の顔色が変わった。

 …思わず笑ってしまいそうなくらいに。




「おそいっすよー、何やってたんすかー。」

 ミラーハウスを出ると陽気な彼が出迎えてくれた。彼女は隣でうずくまっている、疲れて眠ってしまったのかな。


 反対に先輩の顔は堅いもので。

「お前ら、先、車に戻っててくれ。俺達はもう少し見て回る。」

 そして彼に鍵を渡すと、行こう、と私の肩を軽く叩いた、私は彼等をちらと振り返ってからその場を後にする。

 後ろから、えー、と彼の呆れと怒りを含んだ声がした。




 あの時はもっと遠くまで走ったつもりだったけど、所詮は子供の足、ミラーハウスからたいして離れていない暗い小路を指差す。


 雑草がしげるそこを、戸惑った様子の先輩を無視して進む。

 あの日の様に扉は薄く開いて、中は真っ暗だ。


 中へ入ると、先輩が懐中電灯で床から室内をぐるりと照す。

 光の中に懐かしい物は変わらずそこにあって、少しほっとした。


 目的のモノまでゆっくりと歩きながら、私は口を開いた。


「さっき、先輩のおかげで大事な事を思い出したんです。

 まさかこのイスだったなんて、驚きです。」


 私は小さなイスの前で立ち止まる。


「…少し昔話をしましょうか。

 むかしむかし、とある国に立派な監獄がありました。

 その監獄の奥の奥には、小さな部屋がありました。

 そこでは毎日毎日、今では考えられない様な非道な事が行われていました。


 …いつからか部屋には小さなイスが置かれました。そこには似つかわしくない小さなイスです。

 イスにはいつも女の子が座っていました。


 その部屋では囚人にとって一番恐ろしい場所でした。

 連れて行かれたら最後、生きては帰れない拷問部屋だったからです。


 ふふっ。狂ってますよね、子供にそんなものを見せるなんて。

 ホント、狂ってたんです、あの男も、…私も。


 あの男はいつも罪人を始末した後、私に膝まづいて許しを乞うんです。

 私の天使、どうか罪深い私をお許し下さいって。イカれてますよね。

 それを見るのが楽しかった私も大概ですけど。ふふふ。


 何を言っているのか分からないですよね。いいんです。ちょっとした思い出話ですから。


 さて、経緯は分かりませんが、先輩のご両親は、いわくつきのイスを手に入れました。もしかしたら、お化け屋敷の目玉にと思われたのかもしれませんね。」


 先輩の様子から察するに、思い当たる事が有るようだ。


「今なら解ります、あの日、あの男は遠い昔と同じように、私の母に手をかけました。」


 私は感謝している、二度も私を解放してくれたあの男に。


「きっと先輩のご両親もあの男に裁かれたんですよ。まあ、本当に逃げた可能性もありますけど。確か、お金の事で問題になってましたよね。」


 くすりと笑ったのが気に入らないのか、真実を言われたせいか、先輩に睨まれてしまった。


「きっと、あの男は迷子なんです。私を探して遊園地をさ迷う母のように。」


 膝をついて、小さなイスの輪郭を確かめるように優しくなぞる。


 安心して、私はここにいるわ。だから、また私に見せてちょうだい。

 楽しいショーを。


 …そして、先輩の悲鳴と懐かしい音がした。


 ――穢れた大人はいらない――

 あの男の声が聞こえた気がした私は、とても大事な事をもう一つ思い出した。

 私も遠い昔のあの日、今みたいに、あの男に首を





 …………………


 静かな車内。運転席に座る彼はずっと手元の端末でゲームをしている。


 後ろの席に座るわたしは此処に来たことを後悔していた。


 友達に気味悪がられてから、少しだけ見えてしまう事は秘密にしていたのに、先輩達を待つ間、彼につい話してしまった事も。


 観覧車で、わたしは見てしまったんだ、ゴンドラの中から張り付くようにこっちを見つめる女を。


 彼は何も見えなかったらしくて、信じてくれなかった。しかも霊感アピールする面倒な女だと思ったみたいで、気まずくなってしまった。


 仕方なくぼーっと後部座席から自分が写り混む窓から外を眺めていると、遠くに何かがチラリと見えた。瞬間、わたしは叫んだ。

「車を出して!早く!!」


 突然の大声に、うぉっと驚いた彼が振り向く。

「ちょ、びっくりした、急にどした。」


「お願い!車を出して!早く!」

 恐怖のあまり窓の外から目を離せない、早く、お願い、と彼に言うのが精一杯だ。


「はぁ、何だよ。あ、なんだ先輩達戻ってきたじゃん。」

 外に気付いた彼には見えていないんだ、先輩達と共にこっちに向かってくる顔が。


 暗闇に白く浮かび上がる顔、顔、顔、顔。

 顔だけじゃない。その後ろの闇に何か、いる。


 手の震えが止まらない、早く逃げなきゃと、それだけが頭を支配する。


「絶対降りないで!お願いだから車を出して!」

「そーゆーのいいから、ちょっと黙っ…ひっ!!」


 ぺたり。ぺたり。


 気付くと窓に手形が付いていて。数は徐々に速さを増して増えていく。

 彼にも見えているみたいで、焦り出す。


「う、嘘だろ、なんだよこれ…。」


 ぺたり

 後ろの窓に、生気の無い真っ白な先輩達の顔が中を覗き混んだ。


「!!!!」「っ!かかれよ!!」


 彼が慌ててエンジンをかける、三回目でやっとかかると急発進させた。


 二人の顔が遠くなって見えなくなって暫くしても、わたしは後ろから目を離さないでいたら、急にかかったブレーキにぐらりと体が揺れた。


「おいおい…嘘だろ。」


 見れば先には大きな門が道を塞いでいた。


 彼が車から降りたので、慌てて続く。

 気付けば辺りは朝霧と共に明るくなり始めていた。


 遊園地のゲートらしき門は、何重にもなった錆びた鎖と古ぼけた南京錠でしっかり閉じている。

 二人ともこんな物に見覚えは無かった。

 ここまでは一本道だったから間違えようもない。


 まるで、誘い込んだわたし達を逃がさないと言われてるみたいだ。


 話し合った結果、警察に電話することにした。

 電話の向こうから、そこから動かないようにと言われたけど、わたし達は車を置いて歩いた。


 あそこで待つ勇気は無かった。少しでも離れたかった。


 寒さと恐怖で無言のまま歩くわたし達は、山道でパトカーに拾われた。



 警察にはありのままを話した。でも、やっぱり信じては貰えなかった。


 警察から聞いた話では、ゲートは開けられた痕跡も無かったらしい。車はそこにあったが、外も中も手形のような泥が大量についていたそうだ。



 …そして、先輩達は見つからなかった。




 その後、彼はこの事を面白おかしく周囲に話していたみたいだけど、とてもじゃないが、わたしには無理だ。


 だって、わたしと彼が助かったのは運が良かっただけ。

最悪、わたし達もあの顔の仲間になっていた。

あの得たいの知れない、何かに追い付かれていたらと思うとゾッとする。



願うのは、あの遊園地に行く人がもう現れない事。



 あの遊園地には、出口の無いアトラクションが今も誰かを待っている筈だから――。

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