第一章66話 『定められた運命』
シャルルによって飛ばされた結衣はアメリカのロッキー山脈まで飛ばされていた。岩盤に突きつけられたにも関わらず、結衣は立ち上がり、そしてまだ暴走状態のままだった。結衣は破壊の衝動のままに魔法を使って辺りの自然を破壊し始める。炎で燃やし、氷で凍らせ、風で荒らし、電気で麻痺させた。そのあいだに山門たちが結衣のもとにきた。山門は再びサブリンとシャルルを出現させて、結衣と交戦した。しかし、結衣はインぺラル・エンジェル・スカイを発動し、天地を支配し、さらにゴッド・オブ・サンダーを使い、近くに誰も寄らせなかった。それから、結衣は逃げるように東へと飛んだ。
「まずいな。あっちは世界の中心、ニューヨークがある。あそこで暴れられちゃ困る。だがやむを得ん。エマ、至急、手配を頼む。ニューヨークで包囲網をつくる。あそこでやつを止める!」
山門にからの命令をうけ、エマはアメリカにある協会の支部とヨーロッパにある本部へと連絡をする。ニューヨークに人員を固めるのだ。
「大和様!連絡は致しました。配置まで1時間はかかる模様です。」
「ならば、俺たちで時間稼ぎだ。行くぞ!」
山門の指示でシャルルがゲートを開き、ニューヨークへ先回りする。ビル群が並ぶ大都市では結衣の姿は捕らえにくい。シャルルとサブリンがそれぞれ魔法を発動させて周囲に警戒を張り巡らせる。しかし、そこまでしなくとも結衣の位置はすぐに分かった。すでにニューヨークの西部で破壊を始めている。粉塵があがり、悲鳴が聞こえてくる。さらには炎もあがり次第に煙もあちらこちらであがり始めた。よくある怪獣が都市を襲う映画のシーンが浮かび上がる。でも、この騒ぎの犯人は小さい少女だ。山門たちは結衣を追う。しかし、山門たちに気づいた結衣は高速魔法でにげまわる。それから次々と建物をファイアボールで破壊していく。さらに悪いことにアメリカ軍やニューヨークの警察が動き始め、ニューヨーク市内各地で陣をとった。それらはすべて結衣の標的となり、例外なく抹殺していった。戦車や銃などの武器を含め、破壊されてそれらが壊れることによってさらに街に被害がおよぶ。サブリンやシャルル、エマたちが応戦をするが歯が立たない。山門はさらに多くの魔法使いを出現させて戦わせた。シャルンホルストやメイソンも出現した。しかし、結衣は2つの上級魔法によって山門がだしたすべての魔法使いたちを消滅させてしまったのだ。そこに手配していた魔法使いの陣の配置が終了したと連絡が入った。しかし、山門はまだ出撃命令を出さない。それどころかさらに人員を増やすためアメリカ軍をほかの地から動員させた。この戦いの指揮権をすべて山門が握ったのだ。そして、山門が直々に結衣と相手をする。山門の目的は結衣に攻撃をすることではなく、結衣に攻撃をさせることだった。結衣が攻撃する度に山門は避けて挑発をした。そして、ある時を見極めて結衣を誘導し、地まで降ろすと全部隊に攻撃命令を出した。銃弾や魔法が結衣に向かって飛んでいく。結衣はそれを避けるべく剣をふるったが、すべてを防ぐことはできなかった。そして、初めてそこで魔力が尽きたことに気がついた。
暴走状態が解除され、私は意識を取り戻した。すると同時に無数の魔法の砲弾が飛んでくる。魔力を尽きて意識が戻った途端に総攻撃されるなんて・・・。それでも剣を振り回して防ごうとするが、やがて剣を維持する力も絶え、剣が消滅した。何も残っておらず、完全に無防備なところを撃たれ続けた。体が左に飛び、右に飛び、前後に飛び、余すことなく全方位から弾丸のシャワーが私を痛めつける。痛みを全身で感じ、絶叫するほどだったが、そのうち声すらも出なくなった。目の前が暗くなり、感覚が無くなっていく。力がぬける。再び、意識が薄くなる。
どうして、私だけこんな目にあわなきゃならないの?こんなの、ひどい。
呼吸が静かになっていく。ひどい眠気に襲われる。
山門が攻撃をやめさせた。攻撃の嵐が止むと私の身体はゆっくりと地面にうつ伏せに倒れた。
終わりだ。戦いは終わった。眠い。冷たい。
私は闇に吸い込まれていくかのように意識を失い、眠っていった。
血だらけになった結衣の身体に山門は近づいて状態を確認する。息はあり、脈がわずかにある。眠っていることを確かめると、ポケットの中にしまってあった手錠を取り出して背中で手錠をした。もちろんこの手錠は結衣用に特別に作られている魔具だ。これを足にもつける。最後に首元にもはめた。そして、立ち上がり、宣言をした。
「たった今、化け物である指名手配犯の神城結衣を捕らえた!多くの者を犠牲にし、ようやくここで捕まえることができた。皆に感謝し、不幸にも亡くなった方々に冥福をお祈りする!この件はきっと後世にまで言い伝えられるだろう!我々は大きなことを成し遂げたのだ!誇りに思え!それと、神城結衣の処遇、刑罰については新たに話し合い、特別に厳しいものになるであろう。世界の秩序の安定を祈って、解散とする。」
山門の言葉にみんなが拍手をした。それから、各部隊が慰労をかけあって、各地へ帰っていった。みんなが帰ったあと、山門とエマたちが残った。山門は魔法を使って壊されたニューヨークの街を元に戻す。そして、結衣を浮遊させて連れていった。
目が覚めた。けれども、目の前は暗かった。起き上がろうとするけれど、手足が動かない。そこで私は捕まったことを思い出した。暗闇の中、誰かがこっちにくる足音がきこえた。その音の正体は山門だった。
「よぉ、起きたか。おまえの処遇が決まったぞ。あれだけ暴れといて死刑にされないとは羨ましいな。不老不死の特権といったところか。さて、おまえはここで監禁だ。ずっとずっとここで鎖に繋がれてろ。そして、残念ながら化け物であるおまえに人権はない。食料もくれてやらない。このなかで何が起ころうとも外には出さないし、なんの手助けもしない。いわば、ここは無法地帯だ。ここでおまえにどんなことをしても何も罰せられない。むしろ、喜ばれるかもな。こうなったのはおまえのミスだ。世界のためにここでくたばっていてくれ。」
そう言うと私を蹴り飛ばした。壁にぶつかり、受け身も取れないのでそのまま床に落ちる。山門はこの牢から去っていった。
なんの術もない。魔力も回復していない。それはこの手錠のせいだろう。何時間も何も無いままこの暗くて冷たい硬い部屋のなかにいる。ああ、また眠くなってきた。その睡魔に抗うこともできず、私は深い眠りへと堕ちた。
それは永い永い眠りになる。また1人暗いなか、結衣は眠り続ける。