第九話:「スカ」
また今日も一週間が始まる。
今日は月曜日だ。だるい。
「ふぁ〜あ」
「あれ?悠人先輩、あくびですか?昨日夜更かしでもしたんですか?」
「読書をしていたら時計が二時を回っていてもうすっかり寝不足だよ」
「悠人は私が起こさなければあのままずっと寝ていたよ。少しはしっかりしてね」
「精進します」
琉奈と綾香ちゃんは朝に強い。
二人ともしっかり者だからなぁ。
そういえば…
「勇人がさっきからいるのかいないのか…」
いつも騒がしいムードメーカーの勇人が今日に限っては存在が希薄だ。
「あぁ、お兄ちゃんなら…」
そう言って後ろを指差す。
「zzzzzzz」
…………。
歩きながら寝ている。
目は完全にはつぶっていないが視界が定まっていない。
それでもすれ違う通行人を上手く避けている。
器用だ…。
「悠人先輩みたいにちょっと眠そうにしているぐらいならかわいい方ですよ。
うちの兄に比べたら…。瑠奈、お互いの兄を交換しない〜?」
「だめ。悠人は渡せないよ」
冷静に断った。
「だよね…。あれじゃあゾンビだもんね…」
さわやかな朝からひどい言われようである。
その後、すれ違う通行人は、容姿が優れている瑠奈や綾香ちゃんを見て振り返る人と、
ある意味ものすごいポテンシャルを発揮しているゾンビこと勇人を見て振り返る人がほとんど
大多数だ。
正直関わりたくない……。
さっきの眠気が吹き飛ぶ朝の登下校であった。
○○○
「じゃあ下校時間になったらまた帰りましょうね〜悠人先輩♪」
「またね、悠人」
「じゃあな、琉奈と綾香ちゃん」
校舎の昇降口に着くと妹コンビに別れを告げた。
当然勇人はスルーだ。
「お〜い、いいかげんに起きろよ、勇人」
そう言って勇人を起こしつつ、自分の下駄箱を開けると
何かが雪崩のように落ちてきた。
白い紙の束だった。
「むにゃ?これって手紙?いやラブレター?」
寝ぼけながら勇人が答えた。
「いいねぇ〜モテる男は…オレなんか初期はイケメンキャラで通っていたのにいつのまにか
ギャグ要員になっているし…」
勇人が機嫌悪そうにぼやいた。
勇人って低血圧なのか?
「少しは分けて欲しいよ……オレ視点で書いたりしてさ……」
そう言って勇人が下駄箱を開けると、
再び雪崩のような手紙の山が下駄箱から溢れ出した。
「マジかよ…」
唖然としているオレ。
「せ、青春が来た……。モテ期がキターーーー!!!!」
さっきの死んだような目から、まるで水を得た魚のごとく活力に満ちた目に変わり、ものすごいスピードでどこかへ駆け出していった。
「本当にラブレターなのか?」
オレはこの事実が信じられず、中身を確認してみる。
手紙には簡潔に筆者の想いが綴られていた。
「スカ」
……。
え?
オレは一応、二枚目以降の手紙も確認してみる。
「はずれ」
「アウト」
チョコ○ットかよ……。
どれも同じような内容の手紙ばかりだった。
勇人はこの事実を知らないんだよな。
時として人には知ってはいけない事実もあるんだよな。
オレは今頃何も知らず幸せそうにどこかを走っている勇人を想像した。
うん、黙っておこう。
あ、始業のチャイムが鳴った。教室に行かないといけない。
階段を登っていく。
後ろを見下ろすとオレにとっては紙屑にしか見えないラブレターの山が
秋の落ち葉のように風に吹かれて飛んでいた。
まるで勇人を嘲笑ってダンスしているかのように。