第六話:「文化部」
あれから冷めた教室の場の空気もなんとか春の陽気とともに熱気を取り戻し、担任の斎木先生が明日の連絡を言って、解散の号令が出された。
「さ〜て、我らの愛しの妹を迎えにいきますか〜」
勇人が寝起きで顔に机の跡がくっきり残った状態でこちらの席に来た。
「向こうはもう終わったのか分かんないし、電話してみるか」
オレはそう言って、携帯電話を出し、琉奈の番号をコールしてみた。
「もしもし〜?今どこにいる〜?」
「………校庭にいる」
「じゃあ今からそっち行くから待ってろよ〜」
「………うん」
妙に琉奈のテンションが低い。それに辺りがざわざわしていた。
琉奈はその人見知り故に初対面の人の前ではクールなキャラを演じる癖がある。
別名・クールモード。
オレと勇人は廊下を駆け抜け、すぐ校庭に出た。
「ねぇ〜野球部のマネージャーにならない?」
「いや、サッカー部のマネージャーに!」
「バスケ部っしょ、やっぱ」
………やはり。
部活の勧誘合戦にあっていた。
おまけに二人を囲うようににいろんな部活が集まっていた。
………無理もない。
兄の贔屓目なしでもかなりかわいい二人である。
かわいいマネージャーの存在は部活の活力になるからなぁ〜。
性格はしっかりしているが、いかんせん体格がよくない綾香ちゃんと、人見知りな琉奈ではこの集団から逃げ切れなかったんだろう。
オレと勇人は野郎共の集団から、なんとか二人を救出し、走り去るように学校から逃げた。
「滝川君が女の子と一緒にいるよ!」
野次馬の女生徒が叫ぶ。
「新聞部です!孤高の王子に恋人発覚ですか!?」
新聞部もいたのか……ていうか人のプライベートを新聞記事にするのは人権に反するんじゃないか?
一方、
「また勇人君が女の子連れてるよ〜」
「しかも小さい子!ロリコンだったの?」
ひどい言われようである。
ちなみに綾香ちゃんは小さくて童顔だが、ロリってほどじゃないと思う。
隣にいる勇人がでかすぎるだけである。
「なんとか逃げれたな〜」
勇人が安堵して言う。
「そういや俺らも去年はああやって囲まれたな〜」
そういえばそうだった。
琉奈は寂しがりやだから、できるだけいつも一緒にいたいと思った俺は去年、体力測定の高得点から勧誘してきた野球部、サッカー部、ラグビー部、ただ顔がかっこいいから、という理由で女子部員の新入部員ならびにモチベーション上昇要員でバレー部、バスケ部、水泳部、陸上部など多数の運動部の勧誘を振り切ってきたのだ。
「二人とも何か入りたい部活ないのか?」
オレはふと疑問を口に出した。
「私は琉奈と一緒だったらどこでもいいよ♪」
そう言って綾香ちゃんは琉奈と腕を組んだ。
「俺も悠人と一緒だったらどこでもいいよ♪」
そう言ってバカ勇人は俺の腕を組もうとしたが殴っておいた。
そういう琉奈は、
「私は忙しい部活はちょっと…。悠人はどこの部活?悠人と一緒がいいな」
「俺たちは文化部だぜ!」
勇人が元気よく答えた。
「幽霊部員気味だけどな…」
とオレが補足しておいた。
文化部とは、演劇部、文芸部、茶道部、美術部など部員が少なくて部活の数が多いこの学校で顧問を確保できない弱小部活を合併させて、母体を大きくして、文化祭では各自で何か作品を制作して発表するのが主な活動である。
オレがそう説明すると、
「この学校は絶対部活に入らないといけないから文科系の部活の中では人数は多いほうなんだぜ〜。あと月一回集まりがあって、夏休み前に自分の製作するものを選択して夏休み中に作って、文化祭で発表するんだ〜」
と勇人がめずらしくまじめなことを言った。
「去年は何作ったんですか?」
「二人ともめんどくさいからって、夏休みの初めに絵を描いてすぐ終わったよ」
「悠人の絵はすごかったよな〜。ピカソを彷彿するような作品だったな」
「悪かったな…。絵は苦手なんだよ…」
大抵の物はそつなくこなせるが、オレは昔からなぜか絵だけが苦手だった。
「じゃあ二人とも文化部に入るの〜?」
「………うん」
「私も文化部にする!」
と二人の入る部活が決定した。
その後梶本兄妹とお別れして、兄妹初登校となった日は終わった。