第三話:「出会い」
目が覚めて時計を見ると六時だった。
起きるにはまだ早い。
オレはベットに寝たまま、去年の事を思い出していた。
オレの親父はオレが小さい頃に母さんが亡くなって、それを忘れるように、必死に仕事した。もちろん家事もオレと分担して頑張ったし、優しくて、いい父親だ。
そんな親父の頑張りもあって、オレが中学に入学した頃に本社勤務から支社の重要なポストの役に就き、親父は自宅住まいから単身赴任でマンション住まいになった。
オレは生まれ育ったこの町が好きだったし、友達とも別れたくなかったので自宅に住むことを希望した。親父は快諾してくれた。
それからは実質一人暮らしだ。
あれはたしか高校一年生になってようやく高校生活に慣れてきた五月の事だった。
学校が終わると携帯電話に親父からメールが届いていた。
「今家にいる。今日は大事な用事があるから早く帰って来い。」
突然親父が単身赴任先から戻ってきていることに驚いた。
家に帰ると、親父といきなり車に乗って出かけることになった。
「今日はどうしたんだ?赴任先から帰ってきたかと思えば、突然車に乗って遠出するなんて」
オレは今思っている疑問をストレートに親父にぶつけた。
「今まで黙ってて悪かったんだが、お父さん再婚しようと思っているんだよ」
「え!?」
オレはひどく動揺した。
親父は仕事熱心でもう再婚なんて頭にないと思っていた。
でも考えてみれば、親父は40歳のわりに容姿は若々しく、見かけでは息子の贔屓目なしでも20代後半に見られる顔だから、再婚してもおかしくない。
別居してから三年で人はこんなに変わるのか…。
「着いたぞ、ここで待ち合わせているんだ」
オレがそんな事を考えていると車はホテルに着いた。
親父と再婚する女性とここで会う。
オレはふと疑問に思った。
「こっちにはオレがいるように、相手さんにも連れ子がいるのか?」
その質問に親父は、
「ああ、娘さんが一人いるぞ。」
と即答してきた。
あいかわらずしっかりしているようでどこか抜けている親父だ。
兄妹ができるのか………。
うまくやっていけるのか………。
エレベーターが上の階に上がるにつれ、緊張してきた。
そんな不安を胸に、最上階の天上レストランに入った。
そこには二人の親子が先に来ていた。
一瞬、姉妹に間違えそうになったが。
「すいません遅れてしまって」
「いえいえ、私達も今来たばかりですので」
挨拶もほどほどにして、自己紹介することになった。
「私の名前は中川有紗です。悠人君、これからよろしくね」
誰もが見とれる笑顔だった。
綺麗でもあり、可愛さもあった。
親父も若々しいが、これは反則だった。
姉妹にしか見えない。
二番目に親父が
「滝川浩之です。これからよろしくね」
と優しい笑みを浮かべながら自己紹介した。
残るは子供二人。
ここはたぶん年上であるオレが言うべきだろう。
「滝川悠人です。親父共々、よろしくお願いします」
と、二人に頭を下げておいた。
残るは妹となるべき女の子なんだが……
「……………」
黙ったままだ。
顔は赤くなったまま、こちらをじーっと見ている。
有紗さんが肩をたたくと、はっとしてあわてて自己紹介を始める。
「中川琉奈です。よろしくおねがいします」
この子、すごくかわいい………。
大きい目、長いまつ毛、綺麗な髪。
細身の体格で、触れたら壊れてしまいそうだ。
どことなく有紗さんに似ている。
アイドル顔負けだ。
オレがジーっと見ていると目が合った。
途端に彼女は目をそらし、俯いてしまった。
それからはオレと親父と有紗さんは仲良く話していたが、彼女だけはジーっとオレを見て、オレと目が合うと視線を外して俯くという連続だった。
そんな事態を憂慮してか、有紗さんが、
「悠人君、私達とばかり話していてもつまらないでしょうし、私と浩之さんは少し席を外しますね。二人で話したいこともあるでしょうし…」
と言って、二人は席を立った。
去り際に、
「琉奈ちゃんは緊張しているだけだから、遠慮せずにどんどん話してね、悠人くん」
と、オレの耳元で有紗さんがささやいた。
正直、彼女がオレの母親になるなんて夢みたいだった。それぐらい綺麗だ。
「………」
「………………」
なんとなく気まずい。
でもここはお兄ちゃんになる意地?もあってか、勇気を持って話しかけることにした。
「あの…、なんて呼ばれたい?」
彼女は少し考えて、
「えっとぉ…、下の名前で…」
と答えた。
「じゃあ、琉奈でいいんだね?」
「は、はい………」
とモジモジしながら答えた。
とてもかわいい。
そんな彼女の仕草に興奮したのか、オレは
「オレの事はお兄ちゃん、でいいからね?」
という、とんでもない事をぬかしてしまった。
受け止め方によっては、オレが年下愛好者で、ロリコンで、変態みたいな印象になる。
というか、年齢も一つ下で琉奈は中学三年生。
もう他の兄妹ならお兄ちゃん、とは言わないのでは?
オレは顔が赤くなって、パニックに陥った。
「えっとぉ…それは……」
案の定、琉奈もNGっぽい。
「悠人、って私も下の名前で呼ぶのはどうですか?」
と提案したのでパニックになったオレは快諾した。
その後もお互い趣味、部活動、メールアドレスの交換をした。
両親が退室してから二十分でかなり仲良くなった。
両親達が帰ってきて、ホテルを退室して、自宅に案内したんだっけ。
時計を見ると、七時になっていた。