第一話:「入学式」
今日は入学式。本来ならオレ、滝川悠人も初々しい新入生のように春の陽気に導かれ、清々しい気分になるのだが、今日は違った。
「新入生、入場!」
先生がそう言って、ぞろぞろ新入生が入ってきた。
「なあなあ、今年の新入生でかわいい奴はいないかな?」
ひそひそ声でオレにささやいてきたのは隣に座っている梶本勇人だ。
こいつとはかれこれ小学生からの付き合いだ。昔から人懐っこく、女の子が大好きでとっかえひっかえで女の子と交際をしている。小学生高学年の時、修羅場をオレが仲裁したのはいい思い出だ。
「いないかな?って、おまえ今彼女いるだろ?確か…ユイちゃんだっけ?」
その問いに、
「もう別れたよ〜。春は出会いの季節なんだから気分を新たにいかないと」
たくましい男だ。そのガッツはオレも見習わないとな。
「おっ、あの子かわいいんじゃね!?」
さっそくかわいい子を見つけたか…。どれどれ、どんな子だ?
「………」
オレは絶句した。よりによってあいつか…。
その美少女はふとこっちを見た。
「おっ、今こっち見たぞ!オレ目があったぞ!」
勇人はそう言ってるが、たぶん目があったのは俺だろう。
これは自惚れじゃない。
なぜなら彼女はオレの義妹だから。
結局、入学式が終わり、オレたちはそのまま自分の教室に移動して、新しく担任になった先生の話を終えて、一人ずつめんどくさい自己紹介して、帰ることになった。
「なあなあ、今年のクラスの女子のレベルどう思う?なかなかいいんじゃね〜?」
と、懲りず女子の話をしてきた勇人に、
「そうだなぁ……まあまあだな」
と、オレは適当な返答をする。
「気のない返答だなぁ〜。お前今まで好きな人とかできた事ないのか〜?」
勇人のこの問いに、オレは
「さぁ……あったような、ないような」
と濁しておいた。
勇人との話も終わり、自宅に着いたオレは玄関のドアを開けたら、
「悠人ーーーーーーーー!!!!!!!」
いきなり抱きつかれた。あの入学式にいた美少女に。
彼女の髪は長く、オレの顔が埋まってしまいそうだ…
「今日はあんなに近くに悠人がいたのに触れられなくて寂しかった……」
その目は、その髪は、その温もりは反則だった。