つぶらやのホワイトデー ~考察する男子力~
2017年 3月13日。
つぶらやの月曜日は、全体会議から始まる。通勤途中の電車の中で、「なろう」のサイトをのぞき、皆さんが今日も無事に生活していることに感謝し、会社へ向かう。
出勤すると、たいてい同僚Aがいる。
この同僚Aはつぶらやにとって特別な存在である。かの東日本震災の時、電車が止まって帰れないつぶらやを泊めてくれた、「竹馬の友」だ。
まあ、それは業務時間外の話で、業務時間内はお互いを生贄に捧げんとする、競争相手となる。
この間も生贄に捧げてやったので、埋め合わせに飲みに誘ってやった。缶コーヒー一本限りの。
会議の時間が迫ると、ぞくぞくと社員が集まってきた。挨拶したり、よもやま話を始めたりと、学校のホームルーム前と大差ない。
だが、今日は雰囲気が違う。
女性社員がそわそわしているのだ。まるで憧れのアイドル握手会を、数時間前から並んで待っているような、ドルオタのにおいがプンプンしてくる。
「おい、あれはメスの顔だぜ」
同僚Aの洞察力の高さも、なかなかのものだ。
そして、会議開始の時間である。社長の挨拶から始まるのだが、今日の社長は大きな紙袋を抱えていた。
「女性社員の皆さん、一日早いですが、ホワイトデーのチョコレートを贈ります!」
ちなみにこの社長。イケメンである。
特定が怖いので、詳しくは書かない。紳士淑女の皆さんの、想像力にお任せする。
皆さんが思う、「理想のイケメン像」。それが社長だ。
「キャー!」という黄色い声があがった。
それに続いて、前の席に座っている新人Aが立ち上がる。
やはり、その手に紙袋。
「男性社員一同も、皆さんのためにチョコをご用意しました! お受け取りください」
嘘である。
新人Aの自腹だ。あとでこっそり我々からお代を徴収して、帳尻を合わせる腹積もりだろう。できる男だ。バレンタインにデスマーチさせられたにも関わらず。
ちなみにこの新人A。カワイイのである。
特定が怖いので、詳しくは書かない。紳士淑女の皆さんの、想像力にお任せする。
淑女の皆さんが「カワイイ! 弟になって!」と思い、紳士の皆さんが「その善人面、今すぐ死に顔に変えてやるぜ!」と思う容姿。それが新人Aだ。
かくして甘味をせしめた女性社員の笑顔を見て、つぶらやは思ったのである。
一日早めのホワイトデーか。なるほど、じゃあ、つぶらやもサービスしちゃうぞ、と。
ちなみにこのつぶらや。つぶらやである。
特定が怖いので、詳しくは書かない。紳士淑女の皆さんの、想像力にお任せする。
つぶらやの作品、感想、活動報告、メッセージをご覧になり、「このルックスであれば、あのような言動をとって、当然であろう」と皆さんが思う容姿。それがつぶらやだ。
「つぶらやくん、書類のチェックお願い」
「はーい」
「つぶらやくーん、これ運んでくんない?」
「はいはーい」
「つぶらやさん、検品お願いできますか? 一人だと不安で……」
「はいはいはーい。お任せあれ」
つぶらやは、なんとも単純な男であった。
女性社員の頼みごとを、ニコニコしながら引き受けていたのである。
淑女の皆さん。思うだろう。「男って、なんてバカなのだろう。扱いやすいわ」と。
紳士の皆さん。浮かれてはいけない。頼りにされているのではない、パシられているだけだ。
書類チェックは女性社員A。荷物運びは女性社員B。検品は女性社員Cに頼まれたものである。
ちなみに女性社員Aと女性社員B。ブスである。
Aは「傍若無人のブス」であり、Bは「一言居士のブス」である、といえば大まかな性格は掴めたであろう。
特定が怖いので、詳しくは書かない。紳士淑女の皆さんの、想像力にお任せする。
淑女の皆さん。万一、自分の容姿に自信がない方でも、彼女たち二人を目にすれば、「勝った!」と心の中でガッツポーズすること請け合いだ。
紳士の皆さん。「こんな女と同じ空気を吸うくらいなら、この世とおさらばするわ」という醜女を思い浮かべてほしい。それが女性社員AとBだ。
つぶらやに仕事を押し付けて、おぞましい笑いを浮かべている。この光景、ヨモツシコメも裸足で逃げ出すだろう。
だから、つぶらやは心の中で毒づく。
ホワイトデーばかりと思うなよ、と。
ちなみに女性社員C。いい子である。
特定が怖いので、詳しくは書かない。紳士淑女の皆さんの、想像力にお任せする。
淑女の皆さん。おそらく彼女を目にしたら、愛でる、無関係を装う、呪いをかけるの三択になると思う。どれを選ぶかは皆さんの良心とテンション次第。
紳士の皆さん。「やべー、この子、彼女にしてー! ずっとそばにいてくれー! 一日中イチャイチャしてー!」というキャラを思い浮かべてほしい。それが女性社員Cだ。
今も、つぶらや相手に、顔を真っ赤にして、ペコペコお辞儀をしている。ちなみに背丈は百五十ちょいと言ったところだ。
頼まれごとをされて、胸の奥から湧き出る、この気持ちはなんだろう、とつぶらやは思う。
ここで、集団行動をする時に一番注意することを申し上げておく。
それは「ヘイト値」という奴だ。
ゲーム風に言えば、好感度の反対の嫌悪度という奴で、しかもマスクデータと来ている。見えた時には、重症だったり、手遅れだったりするのだ。
ゲームみたいに攻略とかを考えなくても、毎日この値は変動しているので、注意が必要。自分がいくら気をつかっても、相手の機嫌が悪い時、つまり「ヘイト値」が高いと、何事も大きな効果をあげることは無理だ。時期を改める必要がある。
若いうちは、好感度ばかりに目が行って暴走したあげく、周りに嫌われ、本命に振られて散々な目に遭うことしきりである。学生の間はいいが、社会人となるとダメージがとてつもない。なので、大人らしい「顔色のうかがい方」が必要になる。
今回の場合、仮に女性社員Cにチヤホヤされたいという下心で、検品を優先するとひどい目にあう。
女性社員AとBが結託し、多くの女性社員と一緒に「つぶらや包囲網」を形成するのだ。こうなると、つぶらやがつまはじきにされるのは、時間の問題と言える。リカバリーできたころには、当初よりも状況が悪化していることがほとんど。人生の無駄。
ちゃんと頼まれたとおりにこなし、しっかり断る勇気も持たないと、窓際族一直線になる。クリエイター活動にはまっていると、このような事態に陥りやすい。疲れている時も、要注意だ。
そして、女性社員へのサービスを振りまいたつぶらやは、昼休みをはさみ、男の戦場に赴く。
くどくど書いても退屈だと思うので、しばらくは台本スタイルでいかせてもらおう。
社長「労働開始ー!」
同僚A「魔法カード発動! 『たらい回し』。ポスティングをつぶらやに押し付けるぜ!」
つぶらや「甘い! カウンター罠発動! 『業務委託』! 新人Aにお願いします!」
新人A「ええッ? ぼ、僕ですか?」
つぶらや「大丈夫、君ならできる! あのデスマーチを乗り越えた君だから、頼りにしているんだ! (ゲスい笑顔)」
新人A「つぶらや先輩……はい! 僕、頑張ります! 一万でも二万でもまきますよ!」
新人A、会社の外へ
社長「クレームが来たぞ、担当者、誰だ!」
同僚A「俺は手札より、『情報開示』を発動! 過去の担当者はつぶらやだ!」
つぶらや「おかわりかよ!」
同僚A「さあ、どうする? 下手すりゃ悪評をばらまかれる。お前のクビじゃすまないぜ」
つぶらや「それはどうかな? 俺の場に十分なマナが溜まっている。インスタント魔法、『満足度リサーチ』。過去のクレームは価格変更によるものだった。そして、このタイミングは契約更改。すなわち、値段に見合うサービスのメリットを説けば解決できる!」
同僚A「過去の顧客情報を、予め洗ってやがったか……さすがだと言いたいが、甘いぞ、つぶらや! 俺は更に『書類不備』のカードを発動! 必要書類に漏れがあった。その解説とフォローも必要だ! 行ってこい!」
つぶらや「なにィ!」
つぶらや、部屋を去る
同僚A「どうやら、今回は俺の勝ちのようだな……。俺は更に『元本複製』を発動! これにより、大幅に業務を効率化! 定時上がりは俺だー!」
社長「魔法カード『残酷な真実』を発動。その元本は古いものだ。紙を無駄にしたな。この始末、どうしてくれようか、同僚Aよ?」
同僚A「ぬわーっっ!!」
さて、このような仕事を終え、どうにか帰り支度を整えるつぶらやである。
「よう、つぶらや。景気悪そうな顔してんね」
声のした方を向くと、バレンタインの時にデスマーチを仕向けた、女上司ではないか。
ちなみにこの女上司。喪女である。
特定が怖いので、詳しくは書かない。紳士淑女の皆さんの、想像力にお任せする。
淑女の皆さん。「絶対になりたくない、大人の女性」を思い浮かべてほしい。
紳士の皆さん。「絶対に嫁にしたくない、大人の女性」を思い浮かべてほしい。
それがこの女上司だ。
「クレーム対応したんだろ、お疲れ。今日はホワイトデーで気分がいい。チョコやクッキーをよこせば、慰めてやらなくもないぞ。どうする、うり、うり」
据え膳という言葉がある。セリフだけなら食わないのは男の恥かも知れないが、一つ忘れてはいけないものがある。
この据え膳、腐っているのである。メシマズを誤魔化したところで、改善はしない。
疲れが極限だったこともあり、つい口走ってしまったのだ。
「その貧相なボディでですかァ? ふっ……」
その後、何があったかは、賢明な紳士淑女の皆様相手に、あえて書く必要はないだろう。
つぶらやの社畜ロードは続く。続くったら続く。