第20話 小話
「せっかくだから座って話すとしよう」
そう言った斎藤に従い俺は中央のソファーに座る「おかけください」と言われるのを待つのがマナーというものだが、斉藤に対してそこまで気を使う必要はないだろう
…
「あの時のドイツの軍事力… 凄まじかっただろう?」
そう、凄まじかった… 凄まじすぎて実感がわかないほどだ
「君の世界ではまず起こらないだろうね、死に直面するのは初めてかな?」
死に直面する
これは無いわけではない
例えば事故だ
俺がこうなる原因のバイク事故だって死んでいておかしくない事故で、実際これは死ぬって思った
ただ殺害
知人がそうなる危険性をあのとき感じた
冷静になると俺も殺されておかしくないとあとで震えた
いや、一度だけあるな… 殺害も…
「ありますよ、景子さんが宇宙人みたいなヤツを銃殺するのを目の前で見ました」
「あぁ聖人のことか、あれを“人間”とカウントするのはいささか抵抗があるがね」
その言いようならシャドーピープルの件も無しと見るか
「その聖人ってのは人間じゃないなら何なんですです?」
「これから話すことに一応関係あるから教えよう… それは“亜人”であったり“突然変異”であったり、いろいろ言われているがなぜあれが“聖人”と呼ばれて偉そうにしてるか… これが答えさ」
「答えになってないですよ」
聖人の正体
気にはなったが勝手に宇宙人として自己完結していたな、話しは逸れたが聞いておこうか
「あれは所謂ハイブリッド… あの世界では“神”として崇められる存在と人間の遺伝子を組み合わせて出来たんだ」
「神… とは?」
…
斉藤が言うに… それは宇宙人だそうだ…
「宇宙人」まさか本当にそうだったとは
あの世界にはそれはもう気の遠くなるような昔から宇宙人との関わりがある… それが今でも残っている
…
「詳しいことは今度聞きますが… 結局なにが言いたいんです?」
「ドイツ軍の技術… いくらなんでもオーバーテクノロジーだと思わないかね?」
なるほど…
斉藤は例のドイツ軍には宇宙人が手をかしていると言いたいのか
赤の世界には支配者として君臨し、灰の世界ではなぜかドイツに手を貸し…
普段なら「実に面白い」とか言ってるところだが、そんなことを教えて今はなんになるのか
俺は「だから悪いのは宇宙人だ…割りきればいいんですか?」と、安い慰めはやめてくれと言わんばかりに結論を急いた
斉藤も「フフ…」と笑い要点に入る
「そうだね… 君はいつまでそうするんだい?確かにショックだろうね、あの空をみれば街1つ更地にするのにそう時間は掛からないだろう
だが一人の一般人が未知の技術を持った“国”を相手になにができるのか… 」
「そんなことわかってますよ、引っ張ってでも俺を連れてきてくれたことは感謝しています」
そう、何もできやしない… わかりきっていることだ
宇宙人が関係なくてもそれは変わらない… 大きな力に対し個人は無力だ
斉藤は「なら分かるだろう?」と言いたげにまた笑い、その目は俺を見る
つまり斉藤はこう言いたいのだ
「起きてしまったことは仕方がない、気持ちを切り替えるんだ」と…
わかってるんだそんなことは…
でも…
「簡単にできるならやってるんですよ!」
やや声を荒げた
言われなくてもわかっている、だがそんなのは機械だ… 死んじゃったのね悲しいけどハイさよならってのはあんまりだろう
勿論これは感情論だし結局はそこに行きつくんだろうが、ついさっきまで話していた友人が死ぬというのはどうだ?耐えられるのか?きっと斉藤には友達がいないんだ
…
その時少しの沈黙の後、斉藤はスッと笑みを消して無表情に言った
「君にはまだ本当の家族や友人、恋人もいるだろう?」
「そんな風に割りきれません!」
「私にはいない…」
… !?!?!?
斉藤は笑わなかった、ヤツの無表情というのを何度見たことがあっただろうか… 数えきれるほどだが、今回のこれは本当の“無表情”というやつなんだと感じるほど感情を感じない
「この件は長くなる… だから今は話さないが、いつか話すよ… 君との旅もまだ続くだろうからね」
「斉藤さん、あなたが異世界を放浪する理由… ですか?」
「…それもあるが、それだけではないよ」
…
特別、励まして貰ったわけではない…
要するに「辛いのが自分だけだと思うな、私なんてこうなんだ」 「起きてしまったことに悩んでも仕方がない、どうせ悩むなら先のことを悩め」
まぁ端的に言えばつまりこういうことだ
そう、俺には帰れる場所がある
あの時のことを簡単に割りきれる訳ではない、あの世界では確かにみんな死んでいるだろう
“俺”だって戦死するだろう
そしてどちらにせよ俺はあそこには異物だ
だったら辛くても情けなくても前に進むしかない
釈然としないこともあるがそうしよう
俺は最後に斉藤にひとつ礼を言って寝室に戻った… しかしどうせ慰めてもらうなら景子さんがよかったぜ
…




