第13話 二番手を走った男
見知らぬ街を歩く…
見知らぬ… と言っても所々見覚えはある
このコンビニの向かいには産婦人科、さらに進めばドラッグストア、交差点越しに斜め向かいには古本屋、その向かいにガソリンスタンド… ほらね?
見知らぬだなんてとんでもない、ここは俺の住んでいた街だ…
ただコンビニの看板は配色が違うし、ドラッグストアは名前が違う、ガソリンスタンドはセルフスタンドになっている
これぞ異世界と言った感じだ、灰色の空にはバカでかい飛空艇が飛んでいるのが見える
あれはもしや斉藤が言っていた日本の軍事力の一部だろうか?
赤の世界ではのんびり観光する間もなく監禁されたしテンパってそれどころじゃなかったから、こういう違いを「異世界だな~…」ってわかってて見てるとなんだか楽しくなってくる
もちろん帰れないこと自体は不安だ
でも仲間がいて望みもあると思うと不思議と気が楽だ… 数日前まで死を望んでいたとは思えない
そうだ… 仲間と言えば事務所に戻ったら景子さんに土下座しよう
そもそも満足な食事を与えられるような立場でもないのに味をとよかく言うのがナメていたんだ、しかも体調を気遣って作られたバランス栄養食で美人の手料理だ…
これほどご褒美はそうありつけん、そうだあれはご褒美だったんだ
母親の作る飯をいらねって言うのとはまたわけが違うのだ
お母さんならギリギリ許してくれそうなことを親切心で作ってくれた美人に強要してはいけない
つまりそういうことだ… 土下座は必要不可欠…
でも今はとりあえず味のあるものが食いたい、ハンバーガー食べよっと
俺は財布を確認した
…
フム…そこそこあるな
7000円くらいだ
ハンバーガー買ったくらいでどうということはない、コーラも買うぞ
しかし今ごろ気付いたがこれは…
千円札が坂本龍馬になってるな…
だからどうこう言うわけではないけども
俺は歩いてハンバーガーショップへ向かう、俺の記憶通りならそう遠くはない
かといって歩くのもかったるいものだ、バイクが恋しい…
俺の手荷物にヘルメットがある、事故を起こした時に被っていたやつをそのまま異世界に持ってきてしまったからだ
今は事務所に置いてきたが…
なんと惨めなことか… ライダーを自称しながらバイクに乗らずヘルメットだけを持ち、現在は革ジャンとブーツで徒歩なのだ
こんな俺はさながら丘サーファーみたいなものだ、にわかバイカーなんだよ今の俺は
でも歩くぜ俺は、足があればどこへだって行けるんだ
現にほら… 着いたぜハンバーガーショップ
この店も俺のいた街とそう変わらないが入り口が左右逆だな、内装もそれに準じて反対になってる
でもドライブスルーはそのままだ
まぁそんなことはいいんだ、食べるぞチーズバーガー
「いらっしゃいませー!」
受付の女の子の声が元気よく店内に響いた、言葉が理解できる…
なんて幸せだろう
「ご注文はなんになさいますか?」
女の子はニッコリ笑顔で俺に聞いた
接客百点をやろう、バイトの鏡だな
「チーズバーガー1つとコーラで」
「かしこまりましたー!ご一緒にポテトはいかがですか?」
「じゃあお姉さんの笑顔が素敵なのでポテトもいただきましょう」キラッ☆
素面でもテンションの高い今の俺はこんなセリフだって言えちゃう
だってこんなまるで普通な生活… 一月ぶりなんですもの…
女の子はそんな俺の気持ち悪いセリフをスルーして「かしこまりましたー!ポテト追加でーす!」と叫んだ、プロだな…
金を払い、受け取り… 俺はそれを袋から出した
チーズバーガー… いい香りだ、体が化学調味料を欲しているぞ
じゃあいただきます!
がぶっ!噛みつく俺…
うまっ!… うっ!?
この時何かフラッシュバックのようなものが頭に流れ込む…
味はいい…だが… 肉… 肉を…見ていると… うっ!?
その時脳裏に聞こえるのだ、銃声が
そうだ、宇宙人野郎の殺害現場を思い出してしまったのだ
腹には三発の風穴が空き血が流れる
眉間からは… ピ… ピンク色の…!?
うっ!?
思わずトイレに駆け込んだ、そして…
「ヴォォエエエエ!!!」
吐いた
聞いたことがある、ああいうのを見るとしばらく肉を食えないと…
生肉を見て連想するんだと思っていたし、俺はそういうのマジ余裕だからとか思ってた
まさかこの俺が… しかも調理済のハンバーガーでこうなってしまうとは…
思わず店を出た… これは、これはきっとあれだ!景子さんの料理不味いとか言ったからだ
殺害現場も景子さんプロデュースだし
ごめんなさい景子さん… もう不味いとか言わないから許してください…
俺は路地に駆け込み、壁にもたれかかり息を整えた
「いやマジすいません景子さん…」
つい呟いた、ここまで追い詰められるとは思わなんだ
一難去ってまた一難か…
まさか味方に脅かされるとは…
「はぁ…はぁ… フゥ…」
落ちつこう… すぐ治るさ、景子さんは医者だしな
息を整え、頭をまとめた
よし…
俺が落ち着きを取り戻した時
ザッ… と誰かの影が俺にかかる
「功一…?やっぱり功一だ!なにやってんの?なんでいんのさ?」
俺を呼んでる、知り合い?この世界で?俺の知り合い?
違う… 俺じゃないなこの世界の“俺”だ
…しかし誰?
と思いつつも、その声には聞き覚えがあった
よく聞く声だ
俺が事故った日も聞いた、そうだ彼だ
「智昭くん…?」
そうだ、彼は俺の友人
この世界でも同じなら彼は…
名を「花川智昭」と言う
年齢は30歳
仕事は観光協会職員
二児の父
あのツーリングの時、アメリカンバイクで二番手を走り峠を攻めまくった男




