第12話 帰れるわけじゃあなかったよ
前回までの異世界ライダー
赤い空の異世界で謎の研究施設で監禁された水橋は、ニタニタと笑いを浮かべる白衣の男「斉藤」とその助手らしい美人女医「北白河景子」の手を借り脱出に成功
そこで三人は別の異世界に行くため、斉藤の言う「ソフトスポット」へ向かった
俺の名前は水橋功一… 以下略
いい加減この下りは飽きただろう
…
ソフトスポット… それは次元の歪み
そういうのに過敏な人… まぁ霊感が強い人だったりとかだろうか、そういう人がそこにいくと越えてしまうらしい…
つまり神隠しの正体見たりってとこか
斉藤は俺が仕事のときに使ってるバーコードを読み込む機械によく似たものをとりだし、何かした…
するとあら不思議、そこを境界線に別の景色が見えるじゃありませんか…
なんだかよくわからんがつまりそうやってこっちに来たのだ
さて現在この水橋御一行がいるのはレトロ感が半端じゃないこちらの建物
鉄筋コンクリートで築何年かは知らないがとりあえず古い、50年は経ってるな
なんでもここは斉藤の拠点らしく必要最低限の生活必需品が揃った素敵な建物だ
なんのだよ?ってツッコミがあるかもしれないが、一応事務所としておこうか
斉藤事務所だ
まず話さなくてはならないのが、ここは当たり前のように俺の元いた世界ではない
俺は帰れなかった
いや、帰れるとも思ってなかったよ
斉藤も帰してやるとは言ってなかったし、ここの空は…
“灰色だ”
その辺も踏まえて斉藤に話を聞くところだ
「さて二人とも、まずは簡単になにか食べなさい、そのためにコンビニでオニギリを買ったのだから」
そう、来る途中コンビニに寄った
当然俺は文字が読めなかったし店員も「いらっしゃいませ」とは聞こえなかった
この時前と違ったのは、景子さんも理解できていなかったことだ
次元を越えたときには必ずこういうことが起きるのだろうか?
なんで斉藤は普通に会話できてこっちでも使える通貨を持ってるというのもこれから話そう
俺達はオニギリを食べた…
あぁ懐かしい… 味のない病院食以外の食べ物、このジャンク感、科学添加物…
最高だな、誰かバーガーとコーラも頼むわ
…
「さてどうかな二人とも?これを読めるかな?」
斉藤がレシートを見せてきた、さっきのやつだ
「はい、読めますよ先生」
え!?
隣から女性の声がした、つまり景子さんだ
声がするのは慣れているし彼女の声は知っているが
「景子さんの言葉がわかる!?」
「あら?本当ね…えっと、功一くん?」
驚いた… 景子さんは至極冷静だが
俺達はこの時初めて会話が成立した
「斉藤さん!なんなんですかこいつぁ!?」
「食事さ、こちらの世界の物を体内に取り込むことで他次元から来た肉体がこちらの次元に馴染む… よく異世界で物を食べると帰れなくなるというのはこれが理由だね」
そんなルールがあったのか… いや待てよ?
「俺も向こうで不味い飯食ってたじゃないですか
!」
「物と違い人間の体は時間が経つと意味がないんだ、そうだな… 6時間以内だろうか?それまでに食べないと君のようになる」
なるほど… 携帯とか免許証の文字化けは先に世界に馴染んでいたということなのか
そして異世界において食事というのはなかなかに重要な意味を持つようだ
「でもなんで食べると帰れなくなるなんて話があるんです?関係なくないですか?」
「その世界の人間になってしまうんだよ、誤って来てしまった人は存在が不安定でね、放っておいてもハッとしたときに戻れたりするんだが… 物を体内に取り込むことでその世界に定着してしまう」
もっとも、今回のような移動だとそれは関係ない… とのことだ
もちろん俺のような事例でも同じことが言える
単にソフトスポットに接触してしまった場合激しい頭痛や目眩がする、世界がぐるぐる回り景色が歪むそうだ、なんか覚えがあるよ
そして中間世界に入るか、あるいはいっきに通過するか… 中間世界では以前話した通りだ、通過すると先程の不安定な状態というのが待っている
「へぇ…ってことはこれで俺も異世界バイリンガルになったんですか?」
「ん~それはコツがいる」
「と言うかそもそもなんで斉藤さんはいろんな世界の言葉も使い分けれてこんな事務所とかお金とか用意してあるんです?」
その事に関して斉藤は詳しく教えてはくれなかったがただ…「私は異世界を渡り歩いて長いんだ」と教えてくれた
やけに詳しいし、それなりの用意ができている辺りかなり複雑なんだろう…
すごく気になるが、俺は帰りたいだけだ
深く詮索するのはよそう
「あぁそうだ、お金なら物としてこちらに馴染んでいるはずだよ、と言っても見た目はほとんど変わらないがね」
そうなのか?
俺は半信半疑に財布を開き中を見た
ほぉ…これは…
たしかに変わっている、例えば100円玉
年号が“平成”ではない違う名前になっている…
年号とかも変わるんだな… 世界が変われば年号くらい変わってもおかしくはないものか
「こればかりは助かるね、何とも都合のいいことだが異世界はなにも悪いことばかりではない… と言うことさ」
年号が違うということは、歴史そのものが違う可能性も高いのだろうか
例えば有名どころ
織田信長は本能寺で死なずに天下統一とか、あるいは豊臣秀吉じゃなく明智光秀が天下をとるとか
考え出すと霧がないのが“if”の話なんだが、世界がたくさんあるならそういう世界もありそうだな
これもまたいろいろ気になるが…
俺の目的は異世界旅行ではない、元の世界に帰り平穏を取り戻すことだ
他の世界ではなるべく波風をたてないようにしないとな
まぁ、赤い空の世界では早速大事件起こしちゃったんだが… 景子さんが
「水橋君… ちなみにここはあまりいい世界ではない」
唐突に斉藤が言う
いい世界ではない… まぁ、俺にとってはどこもいい世界ではなさそうなんだが
「ここはね、日本も大きな軍事力を持っていて“戦争”をしているんだ」
「戦争…ですか?」
「そう… 私が来たのは数年間前だからもう終戦してるかもしれないが、正直あまりいい世界ではないからすぐにでも次のソフトスポットを探して移動したい… 君もここには用はないだろう?」
「もちろん、早く帰りたいですから」
なら長居は無用…
と言いたいところだが、さすがの斉藤さんもソフトスポットがどこにあるか始めから知っているわけではない
情報を集めて実際に目で見て初めて確認だ
そこがいつまでソフトスポットのままなのか、大体の予想はつくものの正確な日時もわからないし、そこがどの世界に通じているのかもわからない…
スーパーランダムだ
故に俺は簡単に帰ることはできない、それどころか赤い空に戻る可能性すらある
俺としても斉藤としても慎重に事を運びたい次第だ…
「と、そういうわけだ… わたしと北白河君はしばらくソフトスポットの調査に当たる、君はその間自由にしてて構わない、しばらく監禁されては外の事が気になるだろう?」
お?戦力外通告かな?言われてもできることなんて少ないけど
でもまぁたしかに、知らない世界だから二重の意味で気になるな、どれここはお言葉に甘えるとしよう
「じゃあ、少し歩いてきますよ… なんか病院とかででなさそうな美味しい物も食べたいし」
「わかった、まぁ手伝いたいと言うならこちらもやぶさかではないがね… くれぐれも問題は起こさないように」
了解です!
俺は意気揚々と部屋を出る
扉に手をかけたとき、斉藤は最後にこう言った
「ちなみに、君の食事を作っていたのは北白河君だ…」
それを聞いた俺は無の状態のまま景子さんを見た…
「体調管理の為に、かなり気を使って頑張ったのだけど… お口に合わなかったみたいね…」
「や… ハハ… 素材の味が生きてましたよ… おかげで元気です!それじゃ!」
逃げるようにその場を後にした…
マジか~…あれ景子さん作ってたのか~…
まずったなぁ… でも旨いとは言えなかったなさすがに、あぁこれは塩分控えめですわって感じだもん、本人もわかってるだろうに…
あんな泣きそうな顔されたら心臓潰れるわ…




