第9話 脱出 (前編)
俺の居た部屋… いやここはあえて独房と呼ぶ
苦い記憶がいっぱいの独房を後にした俺と女医
少し進んだときに女医からバスタオルくらいの大きさの布を渡された、なにに使ってる物なのかは分からない…
「なにこれ?」
手にとって言ってみる、当然伝わらないので「わかりません」って感じで布をヒラヒラとさせた
すると女医は両拳をグーにして手首をトントンと合わせウィンクしてきた
ちょうど「そんなことしたら警察に捕まっちゃうよ?」みたいな時に使うジェスチャーって感じ、まぁ手錠を掛けられるポーズだ
これは… 「これで私を縛って」
…という意味ではなさそうだな
俺が手錠されてるようにカモフラージュするんだろう
察した俺は両手を隠すように布を掛けた
彼女はそれを見てニッと笑うと、コクり頷きまた先に進んだ…
何となくただの勘なんだが、これは指示じゃなくてこの人のアイデアな気がする
ちょっと楽しそうだもんな
…
向かうはどこなんだろうか?
ニタニタと合流か、そのまま外なのか…
俺としては自分の荷物を取り返したいとこだ、この入院患者みたいな服は癪なのでお返ししたい
…
「ッ!?」
その時、女医はハッとして足を止めた
なんだ?なにが?
先を見ると警備員のような奴らが二人ほど見える…
どうやら俺の看守が戻ってきたようだ
これはまずいんじゃ…
女医にもやや焦りの色が見える、俺も血の気が引いた気がした
「すー…はー…」
彼女は深呼吸をして、俺に目で合図…
普通にしていたら大丈夫だという感じか?
それじゃあこのままどこかへ運ばれる憐れな中年になりきろう… というかだいたいその通りだ
看守が目の前にくると
「ッ!?%;$[!ゞ ↑☆!?」
はい、まったくわかりません…
だが看守は女医を見るなり敬礼して俺をチラりと睨んだ
女医には頭が上がらないようだ、一応上下関係がしっかりしてるんだな
「ヱ◆☆◆$”/> /〃>☆[」
「“ヱ!ヶ;“;…!」
うん、OK… 何を言ってるか分からないがなにもおかしくはないな、素通りさせてくれるらしい
会話の内容としては
「緊急警報が鳴ったので彼を移しますが構いませんね?」
「は、はい!どうぞ!」って感じだろうか
ここの研究者はなかなかいい権力を持ってるのかもしれない
奴らは俺の手にかかる布を見て「フン…」って顔をした
なんだ?お前らも女医さんに手錠掛けられたいのか?俺は掛けられてないけどな… なんて考えながら、俺も焦燥とした顔を申し訳程度に作ってその場をやり過ごした
…
看守は見えなくなった…
追っては来ないようだな
「フゥ…」
第一関門クリア かな?
とりあえず大丈夫だったが、こんなに簡単に済むものでもないだろうな、いるのは看守だけとも限らん
俺の勝手なイメージだけど、軍人もいるだろうし… ライフルなんか出されたらまさに蜂の巣にされてしまう
そういえば、例の宇宙人野郎もいるな… 奴は特に得たいが知れない
なんか不思議パワーを使ってくるかも知れない
危険だ… そううまく行くのだろうか
女医さんはさっきの下りで自信が付いたようだ、どこか足取りが軽いように見える
案外楽観的な人なのかもな…
…
そのまましばらく歩いたが今のところはなにも起こらない
そのままエレベーターまでやって来た
立ち止まり、女医は上のボタンを押した
もしや… と考えていたことだが…
やっぱりここは地下か?こんな怪しい研究するくらいだからな、表立ってやってるとは考えにくいし…
でっかい会社か、あるいは国家機密か?
そう考えると俺結構なとこにいたんだな…
いや、そもそも異世界だからな… 結構どころかありえないな、SFだぞマジで
…
ポーン… と音が鳴りエレベーターが降りてきた
“◆ ☆$%ゐ仝”
ドアが開きます… って言ったのかな?音声案内も聞き取れん、まぁ文字も読めないんだし当然か
開いたエレベーターにも人はいない…
こう静かだと逆に不安になってくるな… あまり考えたくはないが
俺たちはエレベーターに乗り込んだ
ボタンを見るとやはり文字化けしている…
数字ならもしかしてって思ったけどやっぱり関係ないんだな… 真ん中のボタンなんて「ア」って書いてあるぞ「ア階」ってどの辺だよ…
ボタンは10階分くらいあるな、大きな建物だ
女医はその内下から三番目くらいのボタンを押した
つまりそこが1階か?
扉が閉まりゆっくりっと上がり始める…
…
外に出るなら尚更この服を何とかしないといけないよな?
やっぱり俺としては尚更ニタニタに会っておきたい、言葉も通じるし聞きたいことが大量にある
まぁしかし、順調だ
いままで同じ階の怪しい部屋にしか入ったことのなかった俺が別の階に…
ニタニタにも女医さんにも感謝だな、是非ちゃんとした名前を聞いておきたい
…
ポーン… と鳴った
着いたようだな、久しぶりに日の目を拝めそうだ
“☆ゐ%ヶ$↑◆”
アナウンスが鳴り扉が開く…
安心しきっていた俺、恐らく彼女もそうだ…
扉の先に光景にはさすがに息を飲んだ
そこにはヤツがいた
小さくて、毛が生えてなくて、顔色の悪いアイツだ…
「宇宙人野郎!?」
思わず声にでた
コイツは待ち伏せするように扉の前で仁王立ちしていた
表情は読み取れない… だが勝手は許さんって感じだ
これは… やべぇ!?




